続・改・さくさく
また綺麗な女の人を連れて歩いているなぁと思い、サクラはなんとなしに立ち止まってその方角を見る。
下着が見えそうで見えないラインのミニスカが目を引く美女二人に囲まれ、サクモは満面の笑みだ。
町中でふと見かけるたびに、彼は違う女性と一緒にいる。
毎回タイプは異なるが、メイクが濃くてあまり賢そうな外見でないことは共通していた。
自分のように相手に付け入る隙を与えない生真面目な人タイプは好みではないと推測するのだが、彼は何故かいつもサクラの存在に気づいて近寄ってくるのだ。
「やー、サクラ。久しぶりー」
「・・・こんにちは。昨日も会いましたけど」
「この小娘は誰だ」という目で見てくる美女達から視線を逸らし、サクラは伏し目がちに応える。
カカシには、サクモは女に手が早いから気を付けるよう散々言われていた。
自分の父のことをそのように言うのはよくないと非難したサクラだったが、彼の素行を見ていると事実だったと思うより仕方がない。
母の生前は頗る大人しかったため、カカシも彼がこれほど女好きだったとは知らなかったらしい。
妻を亡くした心の傷を他の女性で埋めているとしても、同情する気は起きなかった。「図書館に行って来たの?」
サクラが持っている鞄に本がぎっしりと詰め込まれているのを見たサクモは、にこにこ顔で訊ねてくる。
「いえ、これから返しに行くところです」
「じゃあ、俺も一緒に行こうかな」
言いながら自分の肩に手を置いたサクモに、サクラはギョッとして顔をあげた。
「ちょっとサクモさん、これから美味しいパスタの店に行くって言ったじゃない」
「そうよ。それからもっと楽しいところに連れて行ってくれるんでしょう」
案の定、不満を口にする美女達に、サクモは柔らかく微笑んだ。
「ごめん、この子が俺の本命なんだ。君達より若くて、可愛いでしょうv」20代前半と思われる美女達も十分若いといえる年齢だが、まだ10代のサクラに比べれば年寄りだ。
怒りに表情を険しくした美女に睨まれ、サクラは体をすくませた。
自分は何も言っていないと主張したかったが、サクモに肩を抱かれたままなのだから説得力に欠ける気がする。
去っていく美女達に手を振るサクモを、サクラは怨めしそうに見つめることしか出来なかった。
「あの、サクモさん・・・、図書館はこっちじゃないんですけど」
「近道なんだよー」
彼に手を引かれて歩くサクラは、段々と不穏な空気になっていく道を不安げに見やる。
木ノ葉隠れの歓楽街のすぐ近くにあるせいか、周りには休憩場所である宿泊施設が並んでいた。
アカデミーにいる頃は治安の悪いこの付近は近づかないよう言われていたため、つい体も畏縮してしまう。
サクモがいるから大丈夫だと自分に言い聞かせるサクラは、「付いたよー」という声を聞くなり、仰天する。
二人の目の前にある建物は、両隣に比べればいささか壁の色は地味だが、どこをどう見ても立派な連れ込み宿だ。「と、と、図書館じゃないですよ、ここは!!」
「大丈夫。いつも使ってるから、ここの亭主とは顔見知りなんだ。サクラくらいの年の子と入っても何も言われないよ」
「人の話を聞いてくださいーーーー!!!」
さっさと中に入ろうと腕を引っ張るサクモに、サクラは足を踏ん張って耐える。
ここが正念場だ。
一度きっちりとその気がないのだと分からせないと、彼は同じようなことを繰り返しそうだった。
「わ、私はカカシ先生とお付き合いしてるんです。サクモさんと必要以上に親しくするつもりはありません。それに、サクモさんには仲の良い女の人達が沢山いるじゃないですか!!」
必死にわめき立てると、サクモはようやく振り返ってサクラの顔を見た。
「・・・・やっぱり、浮気者は許せないよね」
「えっ」
「これ、今まで声を掛けてきた女の子の電話番号とメールアドレスが全部入った携帯電話」
胸ポケットから小型の電話を取り出すと、サクモはそれをサクラに握らせる。
「このデータを全部消しちゃってもいいから、サクラが欲しいです」
「・・・・・は?」唖然とするサクラは、真っ直ぐに自分の瞳を見つめてくるサクモから目をそらせずに唾を飲み込む。
いつもの、冗談やからかい半分の言葉ではない。
彼は真剣なのだということがその眼差しから十分に伝わり、サクラはどうしていいか分からなくなってしまった。
「私一人だけって言われて、ちょっとドキドキしちゃったのよねー」
「そんなことより、続きは!どうなったのさ、サクラはそこに入ったわけ??」
カカシは声を荒げて話の先を促した。
「サクモさんとよろしくやってたら、私はこうして先生の家まで来て報告しないでしょう。馬鹿ねー」
サクラが明るく笑い飛ばすと、カカシはようやく肩の力を抜いて彼女の入れた茶に手を伸ばす。
父が里に帰ってきてから、ずっと不安だった。
何より、父にはガールフレンドを全て奪われてきた前科がある。
顔が同じならば、少々年を食っていても、金があって忍びの才能が上な方を選んでしまうのは当然だろうか。「実は、あのあと強引に部屋まで連れて行かれたのよね。そんなにカカシ先生のことが好きなら、一度だけでもいいって。思い出にしたいから」
「え、ええーー!!!」
安心した矢先の言葉に、カカシは口に含んだ茶を吹き出し、素っ頓狂な声をあげた。
「い、一度だけって、俺とだってまだなのに。サクラーーー」
「・・・・・話は最期まで聞いてよ」
布巾でテーブルを拭くサクラは、すでに泣きそうになっているカカシを横目にため息をつく。
木ノ葉の白い牙とまで言われたサクモが本気になればサクラが力で敵うはずもなく、宿の一室に入ったサクラだったが、彼女の操はかろうじて守られた。
値千金の一言が、サクラの口から出たからだ。
「嫌いになりますって言ったの」
「・・・・・え??」
「これ以上乱暴なことをしたら、嫌いになるって言ったのよ。二度と口もきかないし、目も合わせない。一緒無視し続けるって言ったら、素直に帰してくれたわ」
「・・・・・・・・それは、怖い、かも」
サクラに恋する身の上として、自分がされたときのことを考えたら、カカシまで暗い気持ちになってしまった。
そばにいても口をきいてもらえないなど、たとえ5分でも耐えられそうにない。
しかし、その一言にダメージを受けるならば、サクモも相当サクラに入れあげている証拠だ。
もう暫くは厳重に警戒して、サクラを一人にしないことをカカシは固く心に誓う。「でね、サクモさんにドキドキしたのって、やっぱりカカシ先生に顔が似ているからなのよね」
「えっ、何」
続いていたサクラの話を半分だけ聞いていたカカシは、もう一度聞き返す。
「だから、カカシ先生に似てなかったらサクモさんのことなんて全然気にかけなかったし、やっぱりカカシ先生のことが一番好きってこと!」
赤い顔で語調を強くしたサクラに、カカシは感動のあまりそのまま飛びついた。
照れ屋なサクラの口から「好き」という言葉が出ることは滅多になく、さらに頬まで染められては興奮しない方が変だ。
「俺も、サクラが一番好きだよ!」
あとがき??
さくら茶屋の投票で一位だったサクサクでした。
・・・・・カカサク部分の方が印象強いような。
やはりカカサクが最愛なので、カカシ先生の父とサクラでは恋愛まで進展しないようです。すみません。
どうもサクラに拒まれる・・・・。
同じ親子でも、四サクならばナルトが原作で片思い属性なので考えられるんですが。
ああ、今回の話の元ネタというか、携帯ネタは『ラズ・メリディアン』。