electric mermaid 1
5・・・4・・・3・・・1・・・・
『起動』
カウントダウンと共に、耳にスピーカー越しの声が届く。
目を開いてまず飛び込んできたのは、天井にある眩いライトだ。
顔をしかめつつ傍らを見やると、そこには光に照らされた桃色の髪の少女が一人立っている。
どこかで、見た覚えがあった。現状を全く把握出来ず、寝台から半身を起こした彼は自分の掌を確認するなりギョッとした。
眼前にあるのは温かな血の流れる柔らかな手。
意思の通りに指が動き、まさしく彼自身のものだ。
慌てて見回したが、薄い緑色の生地の服を着せられた体はそれまでの傀儡人形と違い、まるで生きている人間のようだった。
頭の中が、真っ白になる。「これ、何本に見える?」
混乱する頭へ手をあてると、人差し指を突きつけられて問われた。
「・・・・一本」
「あなたの名前は?」
「サソリ」
『成功だ!』
硝子越しに、隣接する部屋にいる人々が抱き合って喜ぶ姿が目に映る。
全く、自分の身に何が起きたのか理解出来ない。
とりあえず不安定な精神面と違い体調は良好で、場所が大型の機器の揃った手術室であることは分かる。
「・・・・どういうことだ」
「あなたにもう一度人として生きるチャンスが与えられたってことよ」
不安げな様子で自分を見たサソリに、桃色の髪の少女は優しい微笑と共に答えた。
皮膚の下には人口の血液が流れ、呼吸をし、生活のために食事も排泄も睡眠も必要な、超高性能ヒューマノイド。
それがサソリの新しい体だ。
外見はサクラが見たサソリの姿が再現され、壊れた傀儡から回収した彼の記憶がそのまま移植されている。
チヨの孫であるサソリをどんな形であれ助けたいサクラと、実験体を捜していた研究施設の思いが合致した結果だ。
もともと罪人として処罰されるべきサソリをモルモットとすることに、異議を唱える者は誰もいない。目覚めてから数ヶ月は繰り返される検査に気が滅入る毎日だった。
研究所の職員を皆殺しにしたい気持ちのサソリだったが、ヒューマノイドの体ではチャクラをねることも出来ず、無力な少年に等しい。
逃げだそうにも彼の右目には発信器が取り付けられ、建物の内部の監視カメラで常に行動を監視されている。
外に出ることは禁止だが、研究所での行動はおおむね自由なことだけが救いだ。
不満はあるものの望むものはほぼ与えられ、生活にも慣れてきたときに、またしてもサソリを不快にさせる事件が起きた。
「冗談じゃない!!!」
「冗談じゃないのよ!」
わめき立てるサソリに対し、サクラも大きな声で対抗する。
おかげで、彼女の足下にいる子供はびくびくと震えて涙目になっていた。
「ほら、あなたのせいでリンちゃんが怯えているでしょう。可哀相に」
「・・・・・」
半分はお前のせいだと思いつつも、口では叶わないとみたサソリは奥歯を噛みしめてこらえる。「リンちゃんは5歳、この研究所の所長の姪御さんよ。ご両親を事故で亡くされてここで預かっているの。でも、研究所は大人ばっかりで寂しそうだから、あなたに遊び相手を任せることになったのよ」
「何だ、それは・・・」
「だって、あなたがこの研究所で一番小さいんだもの。いい友達になれるでしょう」
サクラの言葉に愕然としたサソリがリンを見ると、彼女はにっこりと微笑んでみせた。
確かに、見た目では十代半ばのサソリだが、それは傀儡人形を媒体としていたからだ。「馬鹿!!俺はこれでも30代だぞ」
「えっ、そんなに年寄りだったんだー」
あっけらかんとした物言いで、サクラはサソリにさらなるダメージを与える。
「まあ、どっちでもいいわよ。リンちゃんはあなたのこと気に入ったみたいだし、研究所で一番暇なのはあなただから。頼んだわよ」
「オレはガキが嫌いだからな!こいつが何か我が儘を言ったときは、かっとなって殺すかもしれないぜ」
「お座り!!」
やけになったサソリが声を荒げると、サクラは間髪入れずに言った。
驚いたことに、サソリの体はその言葉に反応してすぐさま床にひざまずき、彼は驚きのあまり目がまん丸になる。
もちろん、サソリが自らそうしようと思ってやったことではない。
体が、勝手に動いたのだ。
「なっ・・・・」
「残念でした。貴方にはスレイブ機能が付いているから、今は私の声には絶対服従なの。少しでも変な真似したら、裸でひょっとこ踊りをさせるわよ」
「ひょっとこ、ひょっとこーー」
話の内容を呑み込んだわけではないが、リンはにこにこと笑って繰り返している。
腰に手をあて、自分より高い位置から自分を見据えるサクラを、サソリは歯軋りしながら睨み付けた。
「お前、木ノ葉の人間だろう!!いつ国に帰る」
「テマリさん達に、砂のアカデミーで医療術についての講義をするよう頼まれているのよ。だから、もう暫くいるわ」
「サクラおねーちゃん、帰らないの?」
「ええ」大喜びするリンとは正反対に、サソリの表情はどんどん暗くなる。
実験動物として扱われるだけではく、子守まで。
いっそのこと命を絶つことまで考えたが、ヒューマノイドの体ではいくら傷つけても直されてしまうのが難点だった。
あとがき??
元ネタはそのまんま、桃川春日子先生の『エレクトリック・マーメイド』。
オリキャラだらけでごめんなさい・・・・。
長くなるかもしれないので、一応、プロローグ。