「お前が、守るんだ」

生まれたばかりの小さな弟と初めて対面したとき、父がそう言った。
弟は僕と同じ、母譲りの薄紅色の髪と、緑の瞳。
それを見て、僕がどれだけ安堵したか、誰にも分からないだろう。
だから、父のその言葉に、僕はぎくりとして振り返る。

「分かってるよ。僕がお兄ちゃんなんだから」

きょとんとした顔で自分を見る赤ん坊に、僕は笑いかける。
守ってあげるよ、小さな弟。
父の望むまま、仲良くしよう。

君が凡庸であるかぎり。

 

 

 

血途 1

 

 

 

うちは家の子供。
どこに行っても、その言葉は僕について回る。
だけれど、容姿も中身も、僕は全く父には似ていなかった。
アカデミーでの成績は優秀でも、体術はまるで苦手。
人と争うよりは、花を愛でている方が良かった。

周りの大人達が、僕に何を期待しているかは分かっている。
うちは家特有の血継限界、写輪眼。
隠れ里の人間がこの特異な力を利用したいと思うのは、当然だ。
でも、いつまで経っても、僕にそうした能力は片鱗すら見られなかった。

 

 

「うちはの子供なのに」

たまに家にやってくる叔母という人は、僕を見るたびにそう言って顔をしかめる。
うちは家の者は決まって黒い髪に黒い瞳。
他家に嫁いだ祖父の妹というその人も、今でこそ白髪交じりの髪だが昔は綺麗な黒髪だったという。
彼女の娘との縁談を断り、母を選んだ父を叔母は今でも恨みに思っている。
血継限界のために、血を薄めないために、うちはの人間は一族の中で伴侶を選ぶのが決まりだった。

「恥の子だよ」

母はこの威圧的な叔母に対し、ひたすら低頭している。
父のいないときを見計らってやってくるこの叔母が、僕は昔から大嫌いだった。

 

 

「またあの人が来たのか」

夜になり、帰宅した父は敏感にその気配を感じ取った。
無言のままの母に、父は労るような眼差しを向ける。

「何か、言われたのか」

曖昧な表情のまま、母は首を横に振る。
相手が誰であろうと、母は悪言を吐く人ではない。
そうした心遣いが、よけいに彼女をいじらしく見せていた。
父がその髪に触れると、母は少しだけ顔を綻ばせる。

互いを思い合っている彼らに罪はない。
それならば。

 

 

「僕がいけないの?」

眠っている弟を見つめる父に、問い掛ける。
うちはの子供である僕が、何の力を受け継いでいないから。
だから母が意味もなくなじられ、周囲の人をがっかりさせている。
思わず俯いた僕の頭に、父の掌がのった。

「お前が生まれたとき、サクラに似ていてくれたから、ホッとしたんだ」

父の口からもれた予想外の言葉に、僕は目を見開く。
不安に苛まれる僕に対して、父は今までになく優しい笑みを見せてくれた。

「生きていくには、強くなくてはならない。だけれど、強すぎる力は人を不幸にする」
「・・・不幸?」
「そうだ。写輪眼なんて本当はいらなかった。俺はただ、家族みんなで穏やかに過ごせれば、それで良かったんだ」

 

話し続ける父の瞳は、僕を見ていなかった。
遠い目をした父が、誰のことを思っていたのか。
父は自分のことを多くは語らない。
その中で、父には兄と呼ぶ存在がいたことを、僕は薄ぼんやりと思い出していた。

 

 

「お前は、弟を大事にするんだぞ」

僕の頭を撫でた父は、何度も何度も繰り返して言う。
まるで弟の成長と共に生じる僕らの溝を、予見しているかのように。


あとがき??
未来のうちは一家のお話です。
な、名前が出てこない。
サクラの生んだ息子、長男は「サチ」で次男は「ユキ」です。
両方とも漢字で書くと「幸」となる。
命名した理由は長くなるのでパス。

カカシファミリーシリーズと比べて、超シリアスです。不幸な匂いもしています。
主役はうちはの兄弟なので、サスケとサクラはメインじゃありません。
テーマは「コンプレックス」。
1とありますが、続きを書くかは未定です。
ピンクの髪の男の子ってのは小さいうちは良いけど、大人になるとやばいですか。(笑)
遺伝的に二人の子供が黒髪なのは必至ですが、サスケの願いの方が強かったようですね。

「血途」は「畜生道」の意味です。


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