血途 0


始業時間前に出勤し、机を開くとピンクや黄色やオレンジ色のカラフルな封筒が詰まっていた。
パソコンを立ち上げても、同じようなメールがいくつも入っている。
そして、常に女子職員達から注がれている熱い眼差し。
アカデミーの頃から彼の人気は衰えることはなく、むしろ年を重ねるごとに周りのテンションは上がっていた。
面倒なことが大嫌いな彼の同級生は、自分ならばこの環境に5分と耐えられないと思ってしまう。

 

 

「よー、相変わらずだなぁ」
不要なメールを200件ばかり選別して削除しているサスケに、シカマルは何気なく声をかける。
「・・・何か用か」
「面倒な前置きは無しにして、単刀直入に訊くぞ」
「何だ?」
「お前、サクラと付き合っているのか」
「・・・・・」
キーボードを叩く彼の指がぴたりと止まる。
そのまま後方を見たが、シカマルの顔に表情らしいものは浮かんでいない。
ただ、純粋に疑問をぶつけているだけのようだ。

「・・・そういうことはない」
「そうか」
腕組みをしたシカマルは、何か考えるように首を傾げている。
サクラは時間があればサスケの家を訪れていたが、どちらかが言い始めて交際を始めたということではない。
彼女が恋人かどうか訊かれれば、実に曖昧な関係だった。

「それなら、いいんだ。じゃあな」
「ちょっと待て。何がいいんだ?」
サスケは立ち去ろうとしたシカマルの腕を思わず掴んでいた。
職場が違うというのに、シカマルがわざわざサスケを訊ねてくること自体珍しいのだ。
しかも、その質問がサクラに関することとなれば、気にならない方がおかしい。
サクラに懸想しているというのならまだ話は分かるが、シカマルは幼なじみのいのと仲良くやっているはずだった。

 

「お前はサクラの恋人というわけじゃないんだろう。それなら、あいつが別の男の家に泊まっても関係ないよな」
「・・・・」
言われてから内容を呑み込むまで、ひどく時間がかかった。
「何のことだ?」
「だからな、昨日の朝、サクラが物凄く寝起きの顔である男の家から出てきたのを見たんだ。親友に女を寝取られたなんて、男として最悪の状況だからな。これでも心配してやってるんだよ、アカデミーの同期として」
「・・・・親友」
怪訝な表情で眉をひそめたサスケに、シカマルは真顔で答える。
「お前のお友達なんて、一人しかいないだろ」

 

 

 

 

くの一の誰かが宅配便で送りつけてきたチョコレートを、サクラは中身をよく調べることもなく頬張っている。
サスケは注意したのだが、サクラに捨てるのはもったいないと反論された。
毒物の混入は少しも疑っていないらしい。

「人間、誰でも一度は死ぬのよ」
チョコレートを食べ続けるサクラは、サスケに向かって一欠片を差し出してみせる。
「いる?」
「いらん」
「そう・・・。美味しいのに」
そもそも、それは自分に贈られたものだと言いたかったが、サクラは歯牙にも掛けないだろう。
呼びもしないのに突然現れ、いつの間にか作った合い鍵で勝手に部屋に上がり込んでいる人間なのだから。
好きか嫌いかなどと、あえて訊かずとも分かっていると思っていた。

 

 

「お前、ナルトの家に泊まったって、本当か?」
その瞬間、サクラは口に含んだ紅茶を盛大に吹き出した。
「ギャーー!!し、しみが出来る」
「おい」
明らかに動揺しているサクラは、キッチンから持ち出した布巾で必死にカーペットを拭き始める。
「ごめんねー、サスケくん。クリーニング代は私が払うから」
「おい」
「あ、私、用事を思い出しちゃった。カップの後片づけもお願い」
「おい、待て」
いそいそと玄関へと向かおうとするサクラを、サスケは厳しい声音で制する。
なおも脱出を試みるサクラだったが、眼前に立ち塞がれては答えないわけにいかない。

「事実なんだな」
問いつめるサスケに、サクラは罰が悪そうに下を向いた。
「・・・えーと、これにはいろいろと事情があって、ほら、相手はナルトだし。ねぇ」
「事情?」
「ナルトが腕に怪我をしたっていうから、家まで様子を見に行ったのよ。ぴんぴんしていてホッとしたんだけれど、そこで食べたケーキにお酒が入っていて・・・・私、酔っぱらっちゃったのよね」
その時の状況を思い出したのか、サクラは僅かに顔をしかめる。

「私、一滴もお酒飲めないの。お菓子に入っているのも駄目。それで、そこから記憶が曖昧になって、目が覚めたらナルトのベッドで寝ていたのよ」
「・・・・」
「ふ、服はちゃんと着ていたわよ!!ナルトだって、私に気を遣って床で寝ていたし」
「でも、覚えていないんだろ」
「・・・うん」
きつい口調で言われ、サクラは俯いたまま萎縮した。
ナルトが昔からサクラのことを好きだったのは周知のことで、本当に何もなかったかと問われれば、はっきりとした返答は出来ない。
だが、サクラとしては何としてもサスケに誤解されたくなかった。

 

「本当に大丈夫よ。抱きついてキスしただけだから」
「キス!!?」
「ふ、服だって一枚しか脱いでなかったし」
「脱いだ!?」
「ナルトがベッドまで抱えて連れて行ってくれたみたい、だけれど・・・・それからは記憶が途切れて・・・」
「・・・・・」
話せば話すほどサクラはどつぼにはまっていく。
サスケの不機嫌の度合いがさらに増したことを察知したサクラは、ついに口をつぐんだ。
もはや、フォローの仕様がなかった。
自分を睨むように見ているサスケを前にして、無性に悲しい気持ちになったサクラはその場にへたり込む。

「何よー、そんなに怖い顔しなくてもいいじゃないの。サスケくんだって、ナルトとキスしたことあるでしょうー!バカバカ!!」
「いつの話だ!」
「時間なんて関係ないのよ、サスケくんのファーストキスは私のものだって思っていたのに。サスケくんが浮気者なのよー」
さめざめと泣き始めたサクラはろれつが回っていない。
非常に嫌な予感がしたサスケは、サクラが先程まで食べていたチョコレートの箱を手にとって調べる。
案の定、ほんの少量だが洋酒が入っていた。

 

 

「・・・・・暑い」
「おい、脱ぐな!!」
服のファスナーを下げだしたサクラをサスケが慌てて押し止める。
「何よー、邪魔しないでよねー」
いつになく反抗的な態度のサクラは、サスケの手を振り払いながら床に寝転がった。
何とか正気に戻そうとしたが、サクラは全く言うことを聞かない。
子供でも平気なほどの微量の酒しか入っていない菓子だが、サクラは完全に酔っぱらっているようだった。
「嘘だろう・・・・」
サスケが頭を抱える間も、サクラはくだを巻いている。

「お風呂入る、お風呂――」
「だから脱ぐなって!!」
「お風呂入らないと寝られないー」
すでに半裸になったサクラは風呂場に向かって這って進んでいた。
ナルトがこの酔っぱらいをどう大人しく寝かせたのか、今から電話をして訊きたいくらいだ。
「お前、それで風呂に入ったら、溺死するぞ」
「んーー」
焦点の合わない眼差しでサスケを見たサクラは、勢いよく彼に飛び付く。
「じゃあ、ナルトも一緒に入ろう、一緒に」
「嫌だ!」
すでに自分が抱きついている相手が誰かも分かっていないサクラに、サスケは声を荒げる。
ただでさえ肌の露出が多いというのに、体を密着されてしまってはいかに朴念仁のサスケでも辛いものがあった。

「何よ、生意気ね!この前は言うこと聞いて一緒に入ってくれたでしょー、ナルト!!」


あとがき??
終わらない!!!(苦)
私、サスサクで不健全な話って、本当に駄目なんですよ!!(人様のは楽しく読める。むしろどんどん描いてください、私のために)

結婚するまでは、手を握るのが精一杯というような清純派なのです。7班で一番清い部分なんです、サスサクは!
それなら、なんでサチくんが出来たんだーというあたりを書こうと思った。玉砕!切腹!!
しかし、このうちは夫妻、どっちもファーストキスの相手がナルトなあたり・・・羨ましい。(誰が・・・?)


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