血途 11


サクラの妊娠が分かったのと、サスケに見合い話が舞い込んだのはほぼ同時期の出来事だった。
いのから話を聞いたサクラは、丁度良い頃合いだと思う。
元々身分の違う間柄。
交際を始めたのも、サクラの押しが強かった結果だ。
一族の再興を願うサスケにすれば、同郷の一般家庭で育ったサクラよりも、見合い相手である大名家の姫君と結婚した方が、どう考えても有益なこと。

サスケの幸せのために別れる。
サクラには何の迷いもなかった。
サスケが了承すれば、二度と会うことはないだろう。
それでも、生まれてくる子供がいれば、サクラには十分なことだ。

 

 

 

呼び出したサスケに別れを切り出したとき、彼は妙に動揺していた。
サクラは慰謝料を要求するつもりはないのだから、大丈夫だと言い聞かせる。
自分のことは綺麗さっぱり忘れて、見合い話を進めて欲しかった。

その席にいる間中、サクラは明るい笑顔を欠かさなかったはずだ。
どうしてだろうか。
サクラの目に、サスケはひどく傷ついているように見える。
姫君の夫になれば輝かしい未来を約束されたようなものだ。
喜ばしいことのはずなのに、何故そのように悲しげな顔をしたのか。
サクラには分からない。

 

 

「お前はどうなんだよ」

怒った口調で問い掛けられた。
店を出た二人は、手を繋いだままあてもなく夜道を歩いている。
乱暴に手を引かれ、サクラが引きずられているといった方が正しい。
さよならの挨拶に来ただけのはずが、出し抜けにプロポーズをされ、サクラの頭は混乱中だ。

「え?何」
「お前の気持ちだよ。見合いの話とか、うちはの家とか、全部無しにして。この先、苦労すると分かっていても俺を選ぶのか?」
「・・・・」
叫ぶようにして言われたサクラは、ぽかんとした顔で足を止めた。
サスケが、変なことを言っている。
自分が彼のことを好きなのは、何年も前から分かっているはずだ。
聞くまでもないことを何故訊ねるのか、サクラは不思議だった。

 

不幸な少年時代を送ってきたサスケが、お姫様と結婚して幸せになる。
何の思惑もなく、サクラは心の底から祝福していた。
胸の痛みは、サクラ一人が我慢すればいいことだ。
彼のことが何よりも大事だから。

彼の手を振り払い、未練はないと言い切る。
簡単なことだとサスケの顔を見上げたサクラは、絡んだ視線に声を詰まらせた。
静かな寂しさを湛えた彼の眼差し。
名前を呼んでくれる声の次に、自分を真っ直ぐに見つめる彼の瞳をサクラは愛していた。

 

なんて我が儘だろうか。
最後の最後で、自分の想いを優先させる嫌な女になりさがる。
強く握られたこの手を離したくないと思ってしまった。

 

 

「一緒に、いたいよ・・・・」

小さく呟くサクラは、溢れだした涙を掌で拭う。
サスケの幸せのために。
強い決意は、たった一瞬で崩れてしまった。
優しいサスケが、自分と子供を見捨てて他の女性を選べないことを知っている。
取り繕っていた笑顔が表面的なものだったと、これでサスケも気づいたはずだ。

「ごめんね」
俯いて謝罪するサクラをサスケは困惑した表情で見ている。
「何で謝る」
「・・・うん」
片方の手で目元を押さえながら、サクラは彼の掌を握り返す。
この先、彼が後悔するときが来たとしても、この手を離さないことを許して欲しかった。


あとがき??
サクラはサスケのことが凄い凄い好きなのですね。
相手を思うあまりサスケの本音に気づけないサクラは、えらいけど馬鹿な娘です。
そんな彼女だからサスケも好きになったんだと思うけど。
どんなに想っていても、相思相愛の片思いのサスサクでした。


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