転校生 3


「あー、サスケくん、前方注意よ」
サスケの家のすぐ手前まで来て、サクラは肘で突いて彼に合図した。
言われるまでもなく、サスケもその人だかりに気付いている。
サスケの帰りを待ち伏せする、女子の集団だ。
サクラも班が同じでなければ、あの団体に紛れ、サスケを遠巻きに眺める一人だった。

「さ、サスケくん、普段、どうやってあれを突破しているわけ?なかなか玄関までたどり着けないでしょう」
「蹴る」
「・・・・・えっ?」
「蹴る」
「・・・・」
念のため聞き返したサクラだったが、同じ言葉が返ってくる。
額から汗を流すサクラにサスケは真顔で答えた。
「あいつらが大挙して押し寄せてくるときの恐怖をお前も分かっただろう。だからこっちも容赦はしない」
「だ、だ、駄目よー!!!女の子に暴力なんて!!」
サクラは思わず声を高くして主張する。
だが、そうした応酬をしても全くサスケのファンが減らところが凄いと、よけいな感心もしてしまった。

 

こうして入口でもたもたとしていた二人だが、当然、ファンの一人に見つかる結果となった。
とっさに逃げようとも思ったが、家が目の前というのに遠回りをするのも面倒だ。
どうしたものかと考えるサクラは、集団の中に知った顔を見付ける。

「サクラ、何であんたがサスケくんと一緒にいるのよ!!」
「そうよ、同じ班だからって生意気なのよ!」
彼女達は中身が憧れの彼とは知らずにサスケに掴みかかっていた。
思わず頭を抱えたサクラは、その瞬間、ある妙案を思い付く。
「サクラ!!何を黙っているのよ」
「・・・えーと」
「乱暴はやめてくれ」
服の襟首を掴んでいる複数の手を払い、サクラはサスケを背にかばうように立つ。
そして、彼には絶対出来ない愛想の良い笑顔を浮かべてみせた。
「今日から俺はサクラと付き合うことに決めたんだ。ということで、君達はもう帰ってくれるかな」
「え、えええーーー!!?」
突然の交際宣言に仰天する女子一同だが、驚いたのは傍らのサスケも一緒だ。

「どーいうことだよ、こらっ」
「こうすれば変に付きまとわれないでしょう。恋人のいる男なんて、そのうち興味も薄れるわよ」
目くじらを立てるサスケに、サクラはにこにこと笑いながら答える。
小声での会話だったが、見守る女子達には、二人がいちゃついているようにしか見えなかったらしい。
「ショック!!」
「サスケくんは、みんなのアイドルだったのに・・・」
「サクラ、あんた今に見ていなさいよ!!!」
中にはショックのあまり失神する者もいたが、様々な捨て台詞を残した少女達は数十分後には誰もいなくなっていた。
ぽつんと残った二人には、12月の寒い風が吹き付けてくる。
噂話の好きな彼女達のこと、彼らが交際を始めたという話は明日にも里中のサスケファンに伝わっていることだろう。

 

「・・・いいのか」
「んっ?」
「お前、またいじめられるぞ」
おずおずと自分を見上げるサスケに、サクラは明るい微笑を返した。
「いいわよ。サスケくんがいてくれるなら」
「・・・・・」
満面の笑みを浮かべる自分の顔を、サスケは奇妙な気持ちで見つめる。
こんな風に朗らかに笑えるとは、全く知らなかった。

 

 

 

「そういえばさ、サスケくん」
「何だ」
玄関の鍵を開けるサスケを見ながら、サクラは何故かもじもじとしている。
「誰か、サスケくんに何か持ってこなかった?お菓子とか」
「・・・ああ」
サスケは自分に話しかけてきたリーやハヤテやその他大勢の男達をぼんやりと思い出す。
「来たぞ」
「本当!!そ、それで、そのお菓子は・・・・」
「捨てた」

扉を開けて中に入るよう促すサスケだが、サクラは呆然とその場に立ちつくしたままだ。
「す、す、捨てた!?」
「ああ。俺は甘い物は嫌いだ」
「ひ、ひどいーーー!!!地域限定のお菓子もあったのにー」
両手で顔を覆い、サクラはワッと泣き崩れた。
そのままおいおいと泣き続けるサクラを、サスケはうんざりした表情で見やる。
近所の目もあるのだ。
自分の姿でこうも情けない場面はあまり長い間晒していたくなかった。

 

「おい、いい加減にしろ」
「うう・・・」
よほどショックが大きいのか、サスケに腕を引かれたサクラはよろよろと家の中に入っていく。
「捨てたなんてばれたら、きっと皆すごく怒る。もう私のことなんて相手にしてくれないわ。ああ、チーズケーキ、桃饅頭、マンゴープリン・・・・」
「俺がいるからいいんだろ」
「そうだけど、紅葉饅頭、萩の月、バターサンド・・・・・・んっ?」
泣きながら商品名を呟いていたサクラは、顔を上げてサスケを見る。
サスケの顔が不自然に赤い。
彼が代わりに諸々の菓子を買ってきてくれるのだろうかと思ったサクラが、その言葉の真意に気付くはずもなかった。


あとがき??
微妙・・・・。あんな奴らと手を切っても自分がいると言いたかったサスケと、菓子のことしか頭にないサクラ。
かみ合っていない二人でした。
何だか中途半端になったので続きも書くと思います。あのキャラが乱入してきます。先生じゃないですよ。
ああ、サスケが「蹴る」と過激な発言をしたのは、某アイドルが詰め掛けたファンを蹴るという話を聞いたからです。本当?(^_^;)


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