Inspiration


いのと町に買い物に行ったときのことだった。
道端に落ちた髪留めを、サクラは呆然と見つめている。
蜻蛉玉がついたサクラのお気に入りだったのだが、飾り部分は見事に砕けていた。

「あーあ、これはもう駄目ね」
「・・・・嫌な予感がする」
「え?」
しゃがみ込み、割れた蜻蛉玉を拾ったいのは訝しげに振り返る。
サクラの顔色はこれ以上ないほど真っ青だ。
「ど、どうしたのよ、サクラ!」
「・・・・ごめん。帰る」
いのが差し出した蜻蛉玉の欠片を受け取ると、サクラは一目散に駆け出していく。
大切に扱い、しっかりと固定していたにも拘わらず落ちた髪留め。
上から踏みつぶしたわけでもなく、それだけで粉々になるなど不自然だ。

元々は、彼の母親が使っていた物を譲り受けた。
虫の知らせかもしれない。

 

 

 

「んー、駄目駄目。いくらサクラちゃんでも、任務内容は担当の忍び以外には教えちゃいけない規則なの」
サクラを見たナルトはへらへらと笑いながらもきっぱりと拒絶する。
綱手の元で火影見習いとして働く彼は、今では木ノ葉隠れの里の
NO.2だ。
里の動きは誰よりも熟知し、相応の力も持っている。
昔の誼みで情報を聞きだそうとしたサクラだが、頑として聞き入れない。

「大体さー、あのサスケだよ?任務に失敗したことなんて上忍になってから一度もないし、サクラちゃんが心配する必用なんてないってば」
「そうだけど・・・・妙に胸騒ぎがするんだもの。どこに行ったか、教えてよ!」
「んー」
「じゃあ、デート1回!!」
なおも渋るナルトに、サクラは奥の手を出す。
デートといってもナルトのおごりでサクラの好きなところに行くだけなのだが、彼はこれで大抵のことは承知してくれた。
「・・・・3回」
「2回」
手を出しだしたサクラに折れ、ナルトは仕方なく承諾の握手を交わした。

 

「里はずれにある監視小屋だよ。常駐しているはずの忍びから連絡が途絶えてる。前にも通信機器の故障で同じ事があったから、たぶんまたそうなんだろうけど、念のため様子を見に行ってもらってるんだ」
「有難う!」
ナルトに抱きついて礼を言ったサクラは、扉を閉める暇も惜しいらしく、部屋から飛び出していった。
後に残されたナルトは何か言いたげな秘書役の中忍を見て苦笑いをする。
「何?」
「・・・・甘すぎませんか」
「だって、サクラちゃんだもの。俺、どんなに修行して強くなっても、サクラちゃんにだけは一生勝てない気がするんだよねぇ」
不満げに眉を寄せている中忍にナルトは笑顔で答える。
たとえ里一番の実力者である火影になれたとしても、ナルトにとってサクラは永遠に敵わない相手なのだ。

 

 

 

里に侵入した何者かによって、見張り小屋にいた3人の上忍は残らず殺害されていた。
仲間が到着することを見越したのか、小屋の周りに張り巡らされた罠に、最初に掛かったのはスリーマンセルとして動く中忍の一人。
通信機器が壊れただけだと言われた先入観のせいか、警戒心が薄かったのは事実だ。
血の匂いを感じ取り、サスケが仲間に注意を促そうとしたときには遅かった。
人質を取られてしまっては出来ることなど限られている。
持っている武器は全て奪い取られ、サスケは人生においての一番のピンチに遭遇することとなった。

 

「まさか、あのうちは一族が混じっているとはね。これは高く売れそうだ」
「・・・・」
抵抗できないよう後ろ手を縛られたサスケは、賊に捕まっている仲間へと視線を向ける。
敵は10人。
中にはどこかの里の抜け忍や相当の剣の使い手も混じっていたが、サスケ一人ならば難なく仕留められるはずだ。
簡単な任務と侮り、実戦経験の少ない新人を連れてきたことが徒となった。

「逃げられたら面倒だ。体をばらしてから持ち帰る」
「おお」
自分の首を斬るために鞘から抜かれた刃を、サスケは静かにに見つめている。
うちは一族の希少性を知り、サスケに対して少しも隙を見せない彼がおそらくリーダーだろう。
「・・・お前、名前は?」
「何だ。自分を殺す人間の名前が知りたいってのか?」
下卑た笑いを浮かべる賊に、サスケは冷笑で答えた。
「いや。墓石にお前の名前を刻んでやろうと思ったからだ」
「何だと!」
「遅かったけどな」

言い終えないうちに、飛んだのはサスケではなく、剣を持つ賊の首だった。
血飛沫を上げて倒れる体の後ろに立っているのは、短刀を持つサクラだ。
「サスケくん、無事?」
訊ねるサクラの傍らには、先程まで賊に捕まっていた中忍達がいる。
いや、サクラの幻術がそう見せていただけであって、彼らは少し前から自由の身になっていた。
一人ずつ確実に仕留め、サスケのそばで注意深くあたりを窺っていたこの剣客が最後の賊だったのだ。

 

 

「人身売買の根城が近くにあったらしいわよ。暗部の人達を呼んでおいたからすぐ調べてくれると思うけど。この小屋にいた人達は組織の動きに目を付けたとたん消されちゃったみたい」
サスケの戒めを解きながら、サクラは傷の出来たサスケの腕に目をやる。
「・・・・油断した」
「いーわよ、ナルトには黙っていてあげるから。大きな怪我がなくて何よりよ」
明るく笑った直後のことだった。
笑顔のサクラの目から、ふいに涙が涙が零れ落ち、彼女はそのまま掌で顔を覆って俯いた。
「・・・良かった」
嗚咽が続く中、それだけが唯一聞き取れた言葉だ。
笑顔が涙に変わる瞬間を初めて見たサスケは、何と声をかけていいか分からず、ただサクラの頭を優しく撫でる。
遠目に眺める仲間は肩でも抱いてやれば良いと思うのだが、不器用なサスケには無理な話だった。

「サスケくん・・・、私と結婚して」
鼻水をすするサクラは、赤い目をしてサスケを見上げる。
「・・・唐突だな」
「じゃあ、結婚を前提にしたお付き合い」
「・・・・」
この場でそうしたことを言うのは卑怯だとサスケは思う。
命の恩人を相手に逆らえるはずがない。
サクラも分かっていて言っているのだろうが、とくに悪い気もしなかった。

 

「それより、何でお前がここにいるんだ」
「あ、それが、サスケくんが誕生日にくれた髪飾り、壊しちゃって・・・・」
謝ろうと思いポーチを開けたサクラは、髪飾りのクリップの部分を取り出すなり仰天する。
「・・・・どこが?」
「あれ、何で!?」
割れたはずの蜻蛉玉が、以前と変わらずクリップにくっついていた。
そこには小さな罅一つ見つからない。
不思議な話だが、サクラにはこの髪留めが二人の仲をまとめてくれたような気がしてならなかった。


あとがき??
髪留めというか、元持ち主のサスケ母が導いてくれたのでしょう。
個人的には、ナルトが出てきて嬉しかったです。本当に可愛い子です。

・未来
・格好良いサクラ
・サクサス
・二人が付き合う前
・最後に付き合うことになる

以上が、涼華さんのリクエストでした。
く、クリアしているのかどうか・・・・。
長々とお待たせして本当にすみません!
275200HIT、リクエスト有難うございました。


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