血途 13


「今日は絶対に早く帰ってきてね!」
「ああ・・・」
出掛けに、いつになく、しつこく念を押された。
職場に着くまでは覚えていたのだが、月末の忙しい時期に事故が重なり、サスケの頭から朝の約束などすっかり消え去る。
サクラに連絡を入れることもなく、ようやく帰宅出来たのは、深夜の1時過ぎ。
普段ならばサクラや子供達は先に眠りに就いている時間だった。

 

「ただいま」
扉を開けるなり、習慣で呟いたサスケは自分を見据える二つの眼に虚を衝かれる。
長男のサチが、下駄箱の脇に座って入ってくるサスケを凝視していた。
「おかえりなさい・・・」
サスケを見る彼の目はどこか冷ややかだ。
彼が起きて玄関にいることといい、どうも尋常ではない空気が漂っている。

「どうしたんだ?」
「母さんがユキを連れて家を出ていった。僕もすぐ後を追うよう言われているから。じゃあね」
靴を履き替えて出ていこうとするサチを、サスケは慌てて引き留める。
「何だ、どういうことだ」
「・・・・あがってみれば、分かるよ。そのままになってるから」
腕を引かれたサチは仕方なくその場に留まったが、サスケにはまだ状況が理解出来ない。
言われるまま、家の中の様子を見たサスケは頭を抱えたくなった。

テーブルに置かれているのはサクラの手料理の数々と、この日のために彼女が用意したプレゼント。
壁に貼ってあるカレンダーには、“結婚記念日!”と大きくピンク色のマーカーペンで書かれていた。

 

 

 

 

「だからって、何でナルトの家に行くんだ!!」
『さぁ。夜遅かったし、実家のご両親を起こしたら悪いと思ったんじゃないの』
「お前ならいいのか」
『知らないよ、そんなのー』
眠そうに目を擦るナルトは電話の子機を耳に当てたまま窓の外を眺めている。
わざわざサスケが迎えに来たというのに、サクラは顔を見せようとしないのだから、携帯電話を使って話すよりない。
建物の入口付近で3階を見上げると、ナルトが窓から手を振っているのが見えた。

「サクラに代われ!」
『もう、お前みたいな薄情な人間のところには戻る気はないみたいよ。俺と再婚してここで暮らすってさ』
「・・・・・」
『というのは、俺の勝手な願望だけど』
「ふざけるな!」
『ふざけてなんてないよー。俺はずっと一人だし、家族が増えるのは大歓迎。サチやユキなら幸いお前に全然似てないし、俺にも懐いてくれてるから、可愛がっちゃうv』
ナルトはからかうような口調で言ったが、それらはかなりサスケに衝撃を与えた。
ナルトはけして嘘を言わない。
本気だと分かるからこそ、焦りの気持ちが募っていく。

 

『あー、ちょっと待って、サクラちゃんが何か言ってる。えーと・・・・「愛してる」ってそこで大きな声で言ってくれたら、帰ってあげてもいいってさ』
「・・・・はぁ!!!?」
一瞬、頭の中が真っ白になったサスケは思わず素っ頓狂な声をあげた。
愛している。
そんな言葉を3階のサクラに聞こえるよう、深夜の住宅街で叫ぶなど正気の沙汰ではなかった。
「冗談じゃない!!」
『じゃあ、サクラちゃんはサチとユキごと俺がもらうよー。いいんだね』
面白そうに言うナルトに、サスケは言葉に詰まる。

サクラと、その子供達はサスケにとって大事な家族だ。
何にも代え難い存在を、こんなに簡単に奪われるなど、ありえない。
しかも、その相手が生涯のライバルであるナルトとなると、もはや恥も外聞も捨てるしかなかった。

 

「・・・・お前なんかに、やるかよ」
携帯電話を握り締めたサスケは、意を決して息を大きく吸いこんだ。
「愛してる!」
顔から火が出そうな一言を、命を削る思いで叫ぶ。
静かな夜にその声は響き渡り、近くを歩いていた野良犬が驚いて振り返った。
『聞こえないってー』
手元の携帯からナルトの声が聞こえ、見上げる先の彼はおそらく笑いながら手を振っている。
気に障ったが、ここまで来たら何もかも忘れるしかない。

「俺が悪かった。お前が一番大事だ。遅くなるときは電話をするし、仕事よりも家族で過ごす時間を多く作るようにする」
『もー、ひとこえ』
「サクラ、愛してる」
「聞こえた」
ふいに、後ろから細い女の手が回される。
気配を消したサクラがすぐ近くにいたことを、必死なサスケは全く気づけなかった。

「迎えに来てくれて、有難う」
振り向いたサスケを見つめ、サクラは柔らかく微笑む。
何よりも大切なその笑顔に、不覚にも涙が出そうになった。
失うなど、考えたくもない。
「・・・この、ウスラトンカチ」

 

 

 

「ごめんねー、夜中に迷惑かけて」
「楽しいから、別にいいよ」
サチとユキはそろってナルトの家の窓から抱き合う両親を眺めている。
近所の家の住人も騒ぎに気付いたのか、何件か窓に明かりが灯った家があった。
あとで謝りにいかないと、と思いつつ、窓枠に頬杖をついたナルトは自然と笑みを漏らす。
「あの二人って、本当飽きないよねぇ」


あとがき??
『ブリジット・ジョーンズの日記』(続編の方)を見て書きたくなった。
本当に愛してないと、あんな台詞叫べないよなぁ・・・・。
書いていて死にそうになりました。ラブラブサスサク、苦手。
このことを教訓に、『血途 2』のサスケはいそいそと家に帰ってきたようです。この話の次の年かな??
ちなみに、ナルトはサクラが家から出て行ったのを見計らって無理難題を言い始めたようです。
こういう脇キャラを演じさせたら、NARUTO界で一番光るナルト。いつも応援団長にしてしまって、ごめん!

投票してくださった皆様、有難うございました。


暗い部屋に戻る