途次


「父さん」

そう声をかけられたとき、サスケは人違いだと思った。
通せん坊をするように前方に立っているのは、どうみてもサスケと同じ年頃の少年だ。
父と呼ばれる謂われはない。
それならば無視して通り過ぎればいいのだが、彼の姿を凝視するサスケは怪訝な表情で佇んでいる。
どこかで、見た覚えがある気がした。
明るい桃色の髪に翡翠の瞳、性別は違うが、少年とよく似た面立ちの人物をサスケは知っている。

「すぐには信じてもらえないだろうけど、時間がないんだ。協力してね」
「えっ、おい!」
彼が歩いていく先にあるのは、うちは家の玄関だ。
サスケが止めるのも聞かず、扉の前に立つと少年は懐から出した鍵を差し込む。
そうして、扉はごく自然な様子で開かれた。
「鍵は昔も変わっていないんだねぇ・・・・」
少年の後を追いかけてきたサスケは、半開きの扉に気づくと驚きに目を見開いた。
うちはの家の鍵は簡単に合い鍵を作れないよう、特別な細工がしてある。
そして、現在、鍵を持っているのは唯一のうちはの生き残りであるサスケ一人だけのはずだ。

「・・・お前、何者だ」
凄みのある声で訊ねてくるサスケに、少年は困り顔のまま苦笑した。
「だから、親子なんだってば。これを見れば少しは話しやすくなるかな」
一度瞼を伏せた少年は、含み笑いを残したままサスケの顔を上目遣いに見つめる。
今度こそ、サスケは尻餅をつきそうなほど仰天した。
写輪眼だ。
うちはの一族、それも選ばれた者にしか発現しないそれが、少年の両目にしっかりとある。
「とりあえず家に入ってから話そうか、父さん」

 

 

少年は将来サクラとの間に生まれる息子で、名前をユキという。
禁じられた時空間忍術を使い、過去の世界に来たのはもちろん訳があった。
ユキの住む世界のサクラは、死の床に伏しているそうだ。
12のとき、任務中にある傷を負ったサクラはそれが原因で十年以上経ってから死にかけている。
すでに手の施しようがなく、母を救うためにユキはこの時代にやってきた。

 

「父さんは母さんのそばから離れたくないんだって。それで、代理で俺が来たの。ナルトの兄ちゃんが協力してくれたから何とか術に必要なチャクラの量を確保出来たけど、ここに居られるのは2、3日が限度かな」
クッキーをぱくぱくと食べるユキはおおまかに事情を説明する。
サクラが前に家に来たときに置いていった菓子だが、彼はサスケと違い甘党のようだ。
サクラのお気に入りのクッションに座り、サクラがよく使うカップで茶を啜るユキは、サクラにしか見えない。
普通ならばそのような馬鹿げた話を信じるはずがないが、彼は写輪眼を持っていた。
サスケにとってはなにより説得力がある。

「あれ、どうしたの父さん?」
「・・・・・」
机に突っ伏したサスケは、不思議そうなユキの問いかけに答える気力もない。
サクラのことは嫌いではなく、むしろ好いている。
だが、こうして彼女そっくりの証拠が目の前にあると、複雑な心境だった。
結局は捕まってしまうのかという無念(?)の思い。
それ以上に、妙に安心している自分自身の気持ちが理解出来なかった。

 

 

 

「・・・・・何だか、凄く睨まれている気がするんだけど、勘違い?」
「いや、見てる、見てるってばよ」
自分の背中に突き刺さるような視線を感じ、おずおずと訊ねたサクラだったが、ナルトは頷いて賛同した。
彼らの後ろを歩いているサスケは、いつになく、サクラの行動を監視している。
いつもの無関心が全く嘘のようだ。
「私、何か怒られるようなことしたかしら」

今日はさる屋敷の草刈り任務だが、サスケの目が気になりサクラは全く仕事に集中出来ない。
「あっ!」
うっかり鎌で手を傷つけたサクラは、とっさに血のにじむ指を口に含んだ。
「いったーー。ナルト、傷薬持ってな・・・」
傍らのナルトを見やったサクラは、すぐ目の前にいるサスケに仰天する。
「気を付けろ!」
「う、うん。でもたいしたことないし」
「油断大敵だ」

どこに持っていたのか、消毒薬を指につけられたサクラは手を包帯でぐるぐる巻きにされた。
そして、唖然とするサクラの肩にサスケは羽織っていた上着をかける。
「お前、何でいつもそんなに腕を出しているんだ。体が冷えるだろう」
「・・・・ごめんなさい」
何が何だか分からないまま、サクラは混乱する頭で何とか謝罪した。
そばで見ているナルトは目と口を大きく開けて様子を窺っていたが、サクラにしても同じ心境だ。

何故、突然サスケがサクラの身の回りのことを気遣うようになったのか。
ユキの存在を知らないナルトとサクラに分かるはずがなかった。


あとがき??
母体を案じる坊ちゃん・・・・・。可愛すぎる。まだ子供いないって。
続きは考えていないので当分先。書くかどうかも・・・。


暗い部屋に戻る