血途 2
「わぁ、今夜はご馳走だねー!!」
テーブルに並んだ料理に目を見張ったユキが弾んだ声を上げる。
「そうよ。今日は私達の結婚記念日なのv」
盆の上に料理をのせた皿を置いて登場したサクラは満面の笑みだ。
あまり料理が得意な方ではないサクラだが、一目で力が入っていると分かる。
先に席に着いていたサチは、テーブルに頬杖を付きながらぼんやりと皿を眺めていた。「そういえばさ、父さんと母さんって、何で結婚したの」
「え」
「だって、二人って性格正反対だし、合わないと思うんだけど」
言いながら、サチは皿の一つを爪で弾いた。
自分の両親のことながら、前々から疑問に思っていたことだ。
昔、同じ班で行動していたということがなければ、接点などないように思える。ユキは緊張の面持ちでサクラの顔色を窺ったが、予想に反してサクラは微笑したままだった。
「私も不思議なんだけど、たぶんサチが出来たからよ。サスケくん、責任感強いからしょうがなく結婚してくれたのかもね」
明るい口調で言うサクラに、サチは小さなため息をつく。
「色気のない答え」
それから、足りないものを買いにサクラが商店街に向かった直後に、サスケが帰宅した。
「サクラは?」
「近くのスーパーに牛乳とマヨネーズを買いに行った。あと5分したら帰ってくるよ」
「そうか」
玄関に立つサチの頭に手を置くと、サスケはコートを脱いで二階へと上がっていく。
サチの目から見ると、サスケのどんな行動でも格好良く決まって映る。
その父を、平凡極まりない母がどうしてつかまえられたか心底不思議だ。
着替えを終えて階下に降りてきたサスケに、サチはサクラに対するものと同じ質問をしてみることにした。
「父さんは何で母さんと結婚しようと思ったの」
「サクラのことが好きだからだ」
さらりと即答したサスケに、サチは目と口を大きく開ける。
「・・・・何だよ」
「父さんの答えの方がロマンチックだ」
「変な感じ」
意表を突かれたサチとユキは互いの顔を見合わせた。
思えば、サクラは年中サスケに好きだと言っているが、サスケの口からそういった類の言葉を聞いたことがない。「それ、本人がいるときに言ってあげればいいのに。母さん、誤解しているみたいだよ」
「そんなこと言えるか」
吐き捨てるように言ったサスケは、不機嫌そうに眉を寄せる。
「だいたいな、あいつは子供が出来たって分かったときも俺と別れようとしてたんだ」
− 15年前(回想) −
「私、一人で生んで育てるから。心配しないでねv」
「・・・・」
喫茶店に呼び出されたサスケは、サクラから妊娠の報告と同時に別れを告げられ、唖然とする。
「何でそうなる」
「だって、サスケくん、さる大名家のご令嬢とお見合いするんでしょ」
その瞬間、にっこりと微笑んだサクラと、額から汗を流すサスケの姿は、ひどく対照的な光景だった。
「・・・誰から聞いた」
「いのの情報網を甘くみちゃいけないわよ」
運ばれてきた紅茶に口を付けたサクラは、笑顔のまま答える。
「大丈夫。あとから慰謝料とかいって騒がないから、ご令嬢と仲良くやって。私はサスケくんの幸せを祈っているわ」サクラは本音を吐露していたのだが、サスケは隠し事をしていた自分に対しての嫌味なのだと解釈した。
見合い話は上司の命令でしかたなく承諾したことだ。
会うだけ会うということで、そのまま話を進めるつもりはない。
サスケが思案している間に、サクラはいそいそと席を立つ。「じゃあ、バイバイ」
「待て!!」
レジに向かおうとするサクラの腕を掴むと、彼女は驚いて振り返った。
「責任を取れ」
「・・・・え?」
「俺が子供の父親なんだから、責任を取って結婚しろ!」
「・・・・それがプロポーズの言葉?」
呆れかえったサチの声に、サスケは静かに頷く。
「子供が出来たから責任を取れって、普通は女の人が男の人に言う台詞なんじゃないの」
「ねぇ」
「だから、極端に鈍いんだ、あいつは!」
サスケはテーブルを軽く叩く。
「俺だってその前から色々と考えていた。「一緒の墓に入りたい」と言ったら散骨がいいと言われるし、「毎日、お前の作る味噌汁が飲みたい」と言ったら腹が減ってるんだと勘違いされて吉野屋に連れて行かれるし、数えたらきりがないぞ」
「・・・そういう遠回しなプロポーズじゃなくて、素直に「好きだから結婚しよう」って言えば良かったのに」
「そんなこと言えるか!」
つい声を荒げたサスケに、サチとユキはびくりと肩を震わせる。
口下手な父と、鈍感な母。
これでよく自分達が出来たものだと思わずにはいられない兄弟だった。
あとがき??
思い出したかのように続きを書くかもしれません。
苦手なサスケにチャレンジしているあたり、自分で自分の首を絞めているような、真綿で首を絞められているような・・・。
いまわの際には好きだと素直に言ってくれると思います。『うる星やつら』か。
サスケのイメージはさだまさしの『関白宣言』だな。
ちなみに、結婚記念日のプレゼントは子供の見ていないところで手渡す予定。とことん照れ屋。閑話休題でちょっと明るい話にしてみたり。
サクラのモデルはハレグゥのウェダ&ブリーチの織姫。
暗い話になる予定なので、サクラは底抜けに明るい性格にしたかったのだ。
うちは夫妻はああ見えて結構うまくいっているんですよ。ただ子供達がね・・・。
兄は思慮深い優等生。弟はサクラ似の性格で少々病弱。次があれば兄弟メインの話。