血途 17―2


「何だか暗い性格でさぁ、こっちがいろいろ気を遣って話しかけてやってるのに、あんまり喋らないし、笑いもしないんだよね」

それが、仕事仲間から聞いたマリィの性格のはずだった。
帰宅したサスケがチャイムを鳴らすと、いつものようにサクラが飛び出してくる。
「おかえりなさいー。今夜はお好み焼きパーティーよ。サスケくんも早く準備してきてね」
サスケから鞄を受け取り、満面の笑みを浮かべるサクラはやけに機嫌がいい。
着替えをすませてキッチンへ行くと、テーブルに出したホットプレートでお好み焼きの生地を焼いているところだった。
他の3人が緊張の面持ちで見つめる中、鉄のヘラを持って生地をひっくり返したのは、昨日からこの家で預かっているマリィだ。
形を崩すことなく綺麗な形を保っているお好み焼きに、サクラ達は目を丸くして拍手する。

「すごーい!また成功よ、マリィちゃん!」
「母さんが不器用すぎなんだよ。失敗作ばかり作って・・・・どうするんだよ、この不格好なお好み焼き。具が全部はみ出しちゃって」
「何よ、変になったのは私が食べるからいいでしょう!」
サクラがすねた口調で言うと、マリィが彼女の袖を引っぱった。
「マリィは、失敗したのでいいよ」
「マリィちゃん・・・」
健気な物言いをするマリィに、サクラは思わず瞳を潤ませる。
「何ていい子なの。大好き!」
屈んでマリィに抱きついたサクラは、このときようやくサスケがキッチンにいることに気が付いたようだ。
「あ、サスケくん、ビール冷えてるからちょっと待ってて」

 

冷蔵庫に向かうサクラを見た後、足下にいるマリィへと視線を移すと、彼女は明るい微笑みを浮かべてみせた。
マリィの雰囲気は、同僚が話していたものと随分違う。
だが、考えてみると当たり前かもしれない。
「気を遣って話しかけてやった」という押しつけがましい親切を、子供心に敏感に感じ取ったのだろう。
その点、サクラの場合は何事も彼女と一緒に楽しんで行動している。
同僚は「子持ち」という理由だけでうちは家を選んだと思われるが、マリィの保護者として、サクラは確かにふさわしい存在かもしれなかった。

 

 

 

「マリィちゃんとお風呂に入るけど、サスケくんも一緒にどう?」
洗い物を終えたキッチンで麦茶を飲んでいたサスケは、サクラの誘いに麦茶を吹き出しそうになる。
「俺はまだいい」
「そう」
マリィの手を引くサクラは残念そうに肩を落とす。
「じゃあ、今度また二人で入ろうね」
廊下に出た二人の楽しげな声を聞きながら、サスケは冷蔵庫の扉を閉めた。
うちは家の風呂場は広い作りなため、3人で入っても大丈夫には違いない。
だが、サクラ一人でも騒がしいというのに、さらに子供をもう一人面倒見ての風呂は勘弁してもらいたかった。
グラスを持ってソファのある場所まで行くと、
TVを眺めていたサチが意味ありげに笑って振り返る。

「・・・何だよ」
「マリィちゃん、母さんにべったりだよねー。母さんを取られちゃって、父さんちょっと寂しいんじゃないの?」
「・・・・」
目つきの鋭くなったサスケは、テーブルにあったリモコンで
TVの電源を落とす。
「もうすぐ試験だろ。くだらないこと言ってないで、さっさと部屋に戻って勉強しろ」
「横暴ーー」
サチの非難を聞き流し、ソファに座ったサスケは仏頂面のまま麦茶を口にふくむ。
茶化すようなサチの言葉が図星だとは、絶対に認めたくなかった。

 

 

同じ頃、脱衣所でマリィの服を脱がしていたサクラは、ポケットに入っていた物を掌に載せて見つめていた。
緑色の石がついた、女物の指輪だ。
「これは、駄目!」
それまで大人しくしていたマリィが、突然大きな声を出してサクラの手から指輪を奪い取った。
彼女の反応で、それが母親の形見だと察したサクラは、「ちょっと待っていて」と言い残して一度脱衣所を出る。
戻ってきたサクラはマリィの前でかがみ込み、彼女と目線を合わせてから、小さく頭を下げた。
「取ったりしないから、もう一度見せてくれる?お願い」
「・・・・・」
サクラの瞳を真っ直ぐに見つめ、掌を付きだしたマリィに、サクラは口元を綻ばせる。

サクラが自分の衣類がある部屋から持ってきたのは、プラチナのチェーンだ。
チェーンに指輪を通したサクラは、マリィの首にそれをかける。
「ポケットに入れているだけだと、どこかに落としちゃうかもしれないでしょう。これなら平気よ」
「うん!有り難う」
胸元の指輪に触れたマリィは嬉しそうに微笑み、サクラは曖昧に笑って彼女の頭を撫でた。
マリィの笑顔を見ているうちに、サクラは何だか悲しくなってしまったのだ。
こんなにも可愛い子供を残して亡くなった両親はどれほど心残りだったか、そして、口には出さないがマリィ自身の孤独も大きいに違いない。
せめてここにいる間だけは、本当の母親に代わって、彼女の力になりたいと強く思った。

 

 

 

「マリィちゃん、パパやママとはいつも一緒に寝ていたんですって。だから私達もそうしましょう」
「あ?」
読書中だったサスケは難色を示したのだが、パジャマに着替えたサクラとマリィに二人がかりでせっつかれれば、断るわけにはいかなかった。
まだ寝るには早い時間なため、寝室のベッドに入っても目がさえてしまっている。
横になればどこでも眠れる性質のサクラは、マリィと一緒にぐっすりだ。
二人の寝息を聞きながら天井を眺めるサスケは、昔、親子でこうして並んで眠った記憶をおぼろげに思い出した。
両側にいる両親に守られて、どんなときよりも安心出来たような気がする。

「・・・・・ママ」
ふいに呟くような声が聞こえ、横を見たが、起きている気配はない。
突然家族が目の前から消えてしまう悲しみは、彼もよく分かっていた。
そして当時の彼よりも、マリィはもっと幼いのだ。
傍らにいる小さな存在に手を置くと、サスケは布団の上から彼女の体を優しく叩き始める。
悪い夢を見ないように、そして、この場所が彼女に少しでも安らぎを与えることが出来るように。
あのときの自分はきっと、こうして側にいてくれる誰かを望んでいたと思うから。


あとがき??
おかしい・・・書きたかった部分までたどり着けなかった。もっとあっさり終わるはずが。
1のあと、随分時間が開いてしまってすみませんでした。
サスケ、書くの苦手なので、書きたくなる気分になるのを待っていたらこんなことに。
3はもっと早めに終わらせます。


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