血途 17−1
忍びという職業は生活が不規則で、一度任務を請け負えば何ヶ月も里を留守にすることが多々ある。
そして、サスケが日頃仕事を共にすることが多いその上忍も、つい先頃遠方の任務を任されたばかりだった。
上忍に昇格したのはサスケよりずっと後だが、年齢がそう変わらないこともあり、何かと声をかけてくる。
適当にあしらいつつもサスケは内心彼のことを嫌ってはいない。
顔は全く似ていないが、雰囲気がどことなくナルトを思い出させるからだろうか。
「お願いだ、暫くの間預かってくれよ」
「・・・何で俺が」
「近くに世話をしてくれる親戚がいないんだ。知り合いはみんな独り身で家は留守がちだし、お前のところなら専業主婦の奥さんや子供もいるだろ」
「・・・・・」
上忍仲間の話によると、任務で里を離れている間、ペットか何かを預かってもらいたいらしいがサスケの一存では決めかねる。
何しろ多忙なサスケが家にいる時間は短く、世話をするならサクラだ。
だが、サクラは今までサスケの言うことに逆らったことがなく、動物好きで日頃からペットを飼うことを望んでいるのだから、文句は言わないことだろう。「考えてみる」
「そうか、有り難い!実は、もう廊下で待たせてあるんだ。おい、入ってこい」
「えっ!」
まさかすでに職場に連れてきているとは思わず驚いたサスケだが、部屋に入ってきたそれを見てさらに仰天する。
冗談ではない。
だが、真剣な眼差しでサスケを見つめる上忍仲間も、また本気だったのだ。
「ただいま・・・」
「お帰りなさいーーーvvv」
玄関先で仕事から帰ったサスケを出迎えたサクラは、彼に飛びついた。
「今日はサスケくんの好きなグラタンよーvエピも沢山入れたから・・・・ん?」
満面の笑みでサスケに話しかけていたサクラは、そのときになってようやく彼の背後に立つ存在に気づく。
背丈がサスケの腰のあたりまでしかない、小さな少女が真っ直ぐにサクラの顔を見据えていた。
長い赤毛を背に垂らし、金色を帯びた青い瞳が印象的ななかなかの美少女なのだが、引き結ばれた唇と鋭い眼差しが、周囲の者を威圧する空気を持っている。
だが、少女を見るなり瞳をキラキラと輝かせたサクラは例外だったらしい。「可愛いーーー!!誰、誰、この子!!?お人形さんみたいじゃない!」
「どーかしたのー」
サスケが帰るまで夕飯のお預けをくっていたサチとユキは、サクラの声を聞きつけて玄関までやってくる。
彼らが見たのは、困惑するサスケとぬいぐるみを抱えてびくつく少女、そして彼女の前で屈んで嬉しそうに笑うサクラだ。
「あれ、何、その子?」
「父さんが誰かを連れて帰ってくるなんて珍しいよね。友達ってわけじゃなさそうだし・・・・」
「名前はマリィだ。暫くうちで預かることになった」
サクラや子供達がじろじろと無遠慮に少女を観察する中、サスケは重苦しい声で語り出す。
彼女をサスケに託すなり、上忍仲間は無責任にも任務地に向かって出発してしまったのだから、もう手の打ちようがなかった。
任務内容を尋ねたところ、里に戻るのは1ヶ月後。
引き取ったからには無碍に放り出すわけにもいかない。
「その、いろいろと事情があって・・・・・」
「もしかして、父さんの隠し子!!?」
「・・・は?」
サチの甲高い声を耳にしたサスケは、ぽかんと口を開けたまま硬直した。
全く、予想もしていなかった展開だ。
身に覚えが少しも無かったせいなのだが、黙り込んだサスケにそれを肯定と受け取った子供達は、一斉に騒ぎ出す。
「ええー、妹が出来るんだーー。母親はどうしたのさ。子供を置いて雲隠れ!?ちゃんと生活費渡しておかなかったの?」
「わーー、実はずっと前から弟か妹が欲しかったんだよー、僕。嬉しいなーー」
「私も、私もーvvこんな可愛い女の子、ずっと欲しかったのよね」
「ちょっと待てーーー!!!」
子供達に紛れて喚声を上げているサクラに、サスケはようやく正気に返った。
非常に聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。「何でお前まで喜ぶんだ!!お前は、俺がよその女に子供産ませても構わないっていうのか」
「えっ、だって、子供は多い方が幸せじゃない。それに、サスケくんみたいに優秀な遺伝子を持っている人は、里の繁栄のためにどんどん子供作らないと」
「・・・・・・」
「それに、マリィちゃん可愛いし、産む手間が省けたかなぁって思ってv」
無邪気に笑うサクラを見ていると怒る気も失せ、サスケは額に手を置いて俯いてしまう。
妻公認の浮気、多くの男は喜ぶのだろうが、愛妻家で通っているサスケの場合は妙に寂しさが残った。
「ねえねえ、マリィちゃんの部屋って、僕と一緒でいいんでしょう?」
「全然口をきかないけど、喋れないのか?」
銘々好きなことを言っているユキとサチは隠し子説を信じているようで、なんとも複雑な気持ちだ。
「・・・・残念ながら、この子は俺の娘じゃない。同僚の姪だ。両親は2ヶ月前に他界している」
「そうだんだー」
「そんなの分かってるよ。父さんには浮気出来るほど器用じゃないものね」
最初からからかうことが目的だったのか、悪びれないサチの呟きにサスケはがっくりと項垂れる。
傍らのを見るとサクラはくすくすと笑っており、サチと同じ心境だったのかもしれない。
少し情けないとは思ったが、それだけ自分を信じてくれているだと、いい風に解釈することにしたサスケだった。
あとがき??
続くようです。まだ3人目の子供が産まれる前の設定。
カカシファミリーシリーズでも隠し子ネタはやったなぁ。
時代劇カカサクでも同じような話を書く予定ですよ。いつになるか未定ですが。
ちなみの、今回のサクラはハレグゥのウェダの性格が大幅に反映されているようです。マリィは名前だけ転用。