血途 3


「いつまでもゲームなんかしてないで、勉強しなさい、勉強!!」
夕食後、
TVを占領しゲームに熱中する息子二人をサクラは叱りつけた。
だが、振り向いたサチはひどく冷静に切り返す。
「宿題はもうやった。それと、これがこの間の中間テストの結果」
「・・・・」
突きつけられたテスト結果を見たサクラは、口をつぐむしかなかった。
クラスでトップの成績のサチは、面白そうに笑ってサクラを見上げている。
「もー、生意気ねー!私だってペーパーテストだけだったらアカデミーでトップだったんだから」

ぶつぶつ言いながら顔を背けたサクラは、テニスゲームらしい画面に目を留める。
「これ、どうやってやるの」
「簡単だよ。これがコントローラー、これがスタートボタン」
「ふむふむ・・・・」
「やってみる?」
「うん」
サチとユキに操作手順を説明されたサクラは、ほんの触りのつもりでサチの差し出したコントローラーへ手を伸ばした。

 

 

調べものをするため書斎に閉じこもっていたサスケは、リビングの扉を開くなり大きくため息を付く。
「・・・・全く」
眼下の情景に、それ以上言葉が出てこなかった。
時刻は深夜の1時。
ゲームに熱中したらしいサクラは、
TVを付けたまま子供達と共に眠りこけている。
「まるで子供が3人だな」

サチとユキを子供部屋に運んだサスケは、次にサクラを起こそうとするが全く反応がない。
しょうがなく、サクラを抱えたサスケはリモコンで
TVのスイッチを切りながら思う。
こうした感慨は、本来母親が持つものではないだろうかと。

 

 

 

「あれ、サスケ。服、どうしたの」
いつもの制服ではなく、普段着で事務室に入ってきたサスケを同僚達は不思議そうに見ている。
「・・・・サクラがアイロンで焦がした。替えはクリーニングに出している」
仏頂面をしたサスケは、さも不機嫌そうに答えた。
「あれ、奥さんまたやったんだ」
「この前は料理で塩と砂糖を間違えるという古典的な失敗をしてたよな」
「・・・酢と味醂もやった」

思わず顔をしかめたサスケだったが、同僚達はくすくすと笑い声をもらすだけだ。
不味いと言いながらも彼は毎日愛妻弁当を持参し、それを残らず平らげている。
家族の写真を自分の机の引き出しにしまっているのも、周知のことだ。
「でも奥さん、お前と結婚して本当に良かったよなー」
「そうそう。サスケは器用だし、やろうと思えば料理も裁縫も完璧に出来るだろ」
「お前に助けられてる感じだよな」

にこやかに語る同僚達に、サスケが言葉を返そうとしたときだった。
「うちはサスケー、いるかーー」
戸口に立つ忍びに名前を呼ばれたサスケは、振り向いて合図する。
「ここにいる」
「おー、お前、今すぐ木ノ葉病院に行け」
怪訝な表情をしたサスケに、その忍びは真顔で言った。
「奥さんが倒れて病院に運ばれたそうだ」

 

 

 

「虫垂炎なんて病気に入らないわよー。ごめんね、わざわざ呼び出しの電話入れちゃって」
サクラは確かに病院のベッドに横になっていたが、いやに元気そうだった。
手術を終えたばかりで動けないが、あまり病人らしくは見えない。
「・・・もう少し遅かったら、命にかかわったって」
「ああ、うん。最近お腹の調子が悪かったから、またかと思って気にしなかったのよ。そうしたら急に動けなくなっちゃって。回覧板を持ったご近所さんが見付けてくれなかったら、危なかったかも」
笑いながら言ったサクラは、サスケの方へ顔を向けるなり目を見開いた。

サスケが泣いている。
自分を見据えたまま、静かに涙をこぼしたサスケに、サクラは声が出なかった。
今まで、彼が泣くのを見たことがないサクラは、その光景を想像したこともない。

「さ、サスケくん・・・」
「置いていくなよ」
慌てるサクラに、俯いたサスケは小さく呟く。
「お前が必要だ」

 

 

皆は、冷静で何事もそつなくこなすサスケがサクラを支えているのだと言う。
だけれど、彼自身はその逆だと思っていた。

サクラがいると、毎日が賑やかだ。
昔の、辛かった頃の記憶を思い出す暇もない。
社交性に欠ける自分の家に友人が集まるのも、代わりに会話を盛り上げるサクラがいてこそだ。
その明るさと気遣いで、誰からも好かれるサクラ。
それは仕事を少々器用にこなすことよりも、ずっと貴重な才能なのではないかと思える。

 

「嫌ね。私はずっとサスケくんのファンなんだから、どこまでだって付いていくわよ。サスケくんが嫌だって言ってもね」
困ったように言うサクラは、近くにあったサスケの手を強く握り締めた。
本当はその頭を撫でたかったのだが、上体を動かせない今は無理だ。
頼りなげな表情で自分を見下ろすサスケに、サクラは少しだけ口元を緩める。
「心配かけて、ごめんね」


あとがき??
のんびりほのぼの〜。の、つもり。
うちは妻のサクラのイメージはとことんウェダ(ハレグゥ)だったんですが、ナデシコのユリカも入っている様子。
知能が高く、戦術シュミレーションの天才という設定がありつつ、それを全くいかせず天然キャラで終わった不遇のヒロイン。
サクラも、もう少しあの頭脳をいかせる場面があれば・・・。

これは本来ごっつ暗い話なのですが、それを書いてしまうと終わってしまうので、閑話休題で明るいのを入れてみたり。
うちはカカサクもサスサクもナルサクも、みんな男が泣き虫です。


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