血途 4


その存在に気づいたのは、物心が付いてすぐのこと。
どこまでも、どこまでも追ってくる。
何をしていても、その視線を感じた。
だけれど、それだけだ。
けして遠ざからず、近づかず。
それはいつでも自分と共にあった。

 

 

 

「あれは、何?」
買い物をした帰り道、手を繋いでいるサクラを見上げてサチは訊ねる。
振り向いたサクラは最初、何を言われたのか分からないようだった。
「あの人だよ、木の陰にいる。今も僕達をずっと見ている」
サチは目線だけでその場所を合図する。
敵意はない。
だからといって、始終付きまとわれるのは気持ちのいいものではなかった。

サチの言っている意味に気づいたサクラは、一瞬驚いた顔をしてから、すぐに表情を緩める。
「あれは天狗さんよ」
「天狗?」
「そう。あなたやサスケくんを守っているの」
屈んでサチと顔を付き合わせたサクラは、幼い彼に分かりやすいようゆっくりと言葉を繋ぐ。
「昔、うちは家のご先祖様は山で天狗と共に修行をして、術を教わり、写輪眼と“うちは”の名字を譲り受けた。そして、仲の良かったうちはの人間を今でも見守ってくれているの。だから、心配しなくても大丈夫よ」
にこにこと笑顔でサチの頭をなでたサクラだったが、彼はまだ浮かない顔をしている。

「僕達だけ?お母さんは」
すがりつくサチを、サクラは黙って抱きしめる。
サチへの返答は、どんなに待っても返ってくることはない。
ぬぐえぬ不安はサチの心に長い間わだかまったままだった。

 

 

 

天狗との接触を試みたサチが彼の尻尾をつかんだのは、アカデミーに入って様々な術を学んでからだ。
天狗はいつでもそばにいる。
話しかけても姿を見せない天狗だが、背中を取られては応えないわけにはいかない。
習いたての幻術、そして分身の術を連動させたサチは、天狗よりも高い木の枝に陣取り、彼を見下ろす形で問いかける。

 

「お前は、何だ?」
サクラが“天狗”と言っていたその人物は、実際山伏の服装で、天狗の面をかぶっていた。
体つきから男だと分かるが、年齢は推測できない。
赤い顔に長い鼻、恐ろしい眼光の面をサチは臆することなく見据えていた。

「・・・さすが、うちはの坊ちゃんですね。まさかこんなに簡単に後ろを取られるとは思いませんでした」
「答えろ」
「私はあなたの影です」
性急に答えを求めるサチに、天狗は少し笑ったように見えた。
「うちはの血は木ノ葉にあれば頼もしいが、他の里に奪われれば脅威でしかない。だから誰も手を出すことがないよう、常に守っているんです。先祖代々、うちの家族の仕事です」

ほぼ予想通りの言葉に、サチは舌打ちしたい気持ちになる。
どこまでも付きまとう、うちは家の血継限界。
それほど大事ならば、いっそどこかに監禁して外に出ないようにすればいいと思う。
そうすれば、いちいち周りの評判を気にすることなく、好奇の目にさらされることはない。
一生監視付きの人生ならば、同じことだ。

 

「ある人物に強襲を受けてからは、うちは一族同様、私達も数名しか生き残っていないですがサスケ様とそのご子息達を守るくらいの力はあります」
話続ける天狗に、サチはひっかかりを感じる。
脳裏をよぎるのは、以前垣間見た母の寂しげな笑顔。
「母さんは」
「あの人はうちはの血が流れていないから護衛はいらないでしょう。人質に利用されるかもしれませんがもう手はうってあるんですよ」
「手?」
「奥歯。そこに、毒のカプセルを仕込んであるんです。敵の手に落ちたらうちはの仇となる前に自決できるように」
何でもないことの言う天狗に、サチは目を見張った。
「いつから」
「サスケ様と籍を入れてすぐですよ。うちはの一員になるということは、そういうことです」

ざわりと風が吹き、梢を揺らす。
サチの目から見て、サクラはいつでも笑っていた。
大きな覚悟を秘めているとは、まるで思えない。
危険が迫れば、助けを待つ前に自害するよう言われたときには、どんな気持ちだっただろうか。
うちはに関わったばかりに爆弾を抱えて生きるサクラが、サチには哀れに思えてしょうがなかった。

 

「天狗、俺にはお前など不要だ」
「それは頼もしい」
険のある表情で睨むサチに、天狗は笑いを含む声で言った。

 

 

 

「母さん」
「あら、お帰りー」
自分で鍵を開けて家に入ってきたサチは、居間でせんべいを片手に
TVを見るサクラを見つける。
「おやつ、出来てるわよ。ユキもあなたが帰るのを待って・・・」
ソファーに座るサクラをサチは後ろから抱きしめる。
近頃甘えることの少なくなった息子の行動に、サクラは仰天した。

「サチ?」
「俺は母さんを一人にしない」
サチはサクラを抱く手に力を込めて告げる。
自分も、そして父や弟もサクラを見捨てることはしない。
うちはを悲劇の一族などと評されることは、自分達の代で終わらせるつもりだった。


あとがき??
サチとユキの名前は真田幸村こと真田信繁からとっています。
幸村というのはあとから付けられた名前で、信繁が本名。
そしてサスケといえば幸村に仕えた忍者、真田十勇士の一人、猿飛佐助でしょう!!!!
ということで、幸村公の「幸」でサチとユキです。単純。
突発思いつき駄文なので、微妙な話。


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