血途 6
久しぶりに家でのんびりと出来る休日。
書斎に閉じこもるサスケは買い溜めしてあった本を読みふけっていた。読書に最適なその静寂を破ったのは、窓の外から聞こえてくる子供達のはしゃぐ声。
サスケは朝、サチ達にねだられたサクラが庭に子供用ビニールプールを作ることを約束していたのを思い出した。
場所を移動しようと本を手に持ったサスケは、ふいに立ち止まる。
窓からは聞こえるのは確かに水遊びの音。
それは構わない。
だが、水音に時たま混じるのは子供達の声だけではなかった。
馬鹿だ。
馬鹿がいる。
一階に下りてきたサスケは庭の様子を見るなりそう思った。「・・・何でお前が混じってるんだ」
「暑かったから」
唖然と佇むサスケにサクラはしゃあしゃあと答える。
子供用プールとはいえ本格的なもので、組立と水入れに30以上かかる大きさだった。
ペンギンの絵が描かれたプールに子供達と一緒に浸かっているのは水着姿のサクラだ。
いくら大きめとはいえ、プールの半分は彼女が占領していると言っていい。
むしろ、遊具を持つサクラは子供達以上に水遊びを満喫している。
知能は高いが幼児性の抜けない妻の性格をサスケはとことん嘆いた。「子供のためのプールだろ」
「大人が入っちゃ駄目?子供達だけじゃ危ないから見ていないといけないし、それなら一緒に入っていた方が涼しいし」
「・・・・」
「サスケくんも、どう?」
「嫌だ」
言下に断り踵を返したサスケだったが、身を乗り出したサクラはその服の裾を思い切り引っ張る。
サクラの思惑通り、バランスを崩したサスケは頭から水に突っ込んでいた。
「びしょびしょーー!」
「父さん、大丈夫」
楽しげに笑うユキと心配げなサチ、そしてサクラは満面の笑みだ。
「水に濡れるサスケくんも、いい男ね〜v」
頬に手を当てうっとりと呟くサクラだったが、思い切り頭をぶつけた上にずぶ濡れのサスケは全く面白くない。
仏頂面のサスケはおもむろにサクラの肩を掴んだ。「え、ちょっ・・・」
「お返し」
鋭い眼で言われたかと思うと、サクラは水の中に沈められる。
潜る前に肺にためた空気は、唇が合わさった拍子に驚いて全部吐き出してしまった。
深さ40センチ程度のプールで溺れ死ぬ。
冗談じゃないと思ったサクラが本格的にもがこうとしたときに、ようやく体を離された。「は、鼻から水入ったーー!!!」
口は塞がれていたが、鼻は全くの無防備だ。
咳き込みながら非難するサクラを無視し、サスケは湿ったサンダルを履いて家に入っていく。
謝る気はまるでないようだった。
しくしくと涙する母親を尻目に、子供達は囁き合う。
「・・・何だかお父さん、めちゃくちゃ怒ってなかった?」
「さぁ。泳げないから、水が怖いんじゃないか」
それから二週間後、仕事続きだったサスケは三日間連続の休みを貰うことに成功した。
サスケが起きて下の階へと行くと、三人の用意はすでに出来上がっている。「海に行こうーー」
母親と子供、見事に声がはもっていた。
それぞれ手に浮き輪や麦わら帽子を持ち、準備は万端だ。
サクラはきちんとサスケの分の旅行用荷物を作っておいたらしい。
家族で出かけることはサスケも依存はないが、問題はその行き先だった。
泳げない彼が海に行って楽しいことなど、ただの一つもない。
「ぜっったいに嫌だ!!」
「・・・サスケくん、ひどいわよね。子供達も夏休みだってのに、全然遊んであげてないし」
サクラはさも不満げに頬を膨らませる。
「いいわよ、いいわよ。私達だけで行っちゃうから」
「さっさと行ってこい」
冷たいサスケの態度に、肩を怒らせたサクラはユキの手を引いて扉の外へと駆け出していく。
一人残ったサチは、じっとサスケの背中を見つめていた。「本当にいいの?」
サチの問い掛けに、サスケは怪訝な表情で振り向いた。
「海といったら男女の出会いの場。母さんって、意外ともてるんだよね。外見はどう見ても二十歳くらいだし」
「・・・・お前達がいるから平気だろ。子連れの女なんて誰も声をかけるはずがない」
「そうかな。“人妻”って、魅力ある響きだと思うけどー」
「・・・・・」
「母さん、人を疑うってこと知らないからなぁ。声をかけられたら素直に付いて行っちゃうかも。子供の僕らだけじゃガードしきれないよ」
サチに続いて玄関から出てきたサスケに、サクラは目を丸くした。
「あれ、サスケくん!!一緒に行ってくれるの」
「・・・・ああ」
旅行鞄を持つサスケは、心なし口笛を吹くサチを睨んでいる。
だが、浮かれているサクラとユキがそのようなことに気づくはずもなかった。
あとがき??
サスケくん、海、大丈夫だったのかな。
心配しなければならないのは、サスケよりサクラだと思われます。水着の美女にもてもてもてのサスケくん。それで焼き餅サクラ。
・・・・ちょっと見てみたいかも。
サチくん、良い性格してますね。パパと一緒に海に行きたかっただけなのに。
サスケが泳げないというのは、うちの勝手な創作設定です。千秋先生の影響で・・・・。(のだめ)
次はちゃんと暗い話を書きます。