血途 8
リビングの電球が一つきれていることに気づいたサクラは、脚立を物置から運んでくる。
そして、新たな電球を片手に天井を見上げたときだった。
背後に立つサスケに電球を奪われたサクラは驚いた表情で振り返る。
「え、何?」
「俺がやる」
「大丈夫よ、これぐらいの高さ。脚立もあるし」
「いいから向こうに行ってろ」
サクラの背を軽く押すと、サスケは彼女の代わりに脚立の位置を調整し始めた。普段あまり家の手伝いをしないサスケだが、近頃は違う。
何かとサクラの後ろを付いて歩き、彼女の世話を焼いている。
思い当たる理由は一つしかなかった。「・・・・何だよ」
「えへへー」
電球を付け替えるなり背中にくっついてきたサクラを、サスケは怪訝な顔で見る。
「早く会いたいね。この子に」
彼から離れると、サクラは自分の腹部に手をやりながら微笑を浮かべた。
まだあまり目立っていないが、そこには二人の第二子が宿っている。
子供部屋で寝ているサチの弟妹だ。
「男の子だといいな」
腹に手を添えたまま、サクラはぽつりと呟く。
思いがけない一言に、サスケは訝しげに眉を寄せた。
「何で」
「だって、その方がサスケくんも嬉しいでしょう」
顔を上げたサクラは、柔らかく微笑して答える。7班で活動していた頃から、サスケは「一族の復興」を強く願っていた。
残念ながら、春野家の血を濃く受け継いだ長男にうちは特有の血継限界が遺伝している可能性は低い。
それならば、次に生まれてくる子供に期待を掛けるのは当然だ。「サスケくんに似れば将来有望だし、うちはの家だって安泰だわ」
「・・・・」
その笑顔がいつもより悲しげに見えたことに、サスケは表情を曇らせた。
「叔母さんに、何か吹き込まれたのか?」
「違うわよ。私が、そう思ったから・・・」
慌てて取り繕うサクラは、言い終えるまえに体を抱きしめられる。
彼の手は、少し震えているようだった。
「サスケくん?」
「俺は・・・・本当は怖い。子供の顔を見るのが」
サスケ一人が取り残され、希少価値となったうちはの血。
何処へ行っても感じていた人々の好奇の目が、次は子供達へも向けられることになる。
いつか、彼らの血に目を付けた誰かに利用され、裏切られるときが来るかもしれない。
そうして、言われるのだ。
うちはの家に、生まれてこなければ良かったと。
「・・・サスケくんは今、幸せ?」
安心させるようにサスケの背を撫でるサクラは、静かに語りかける。
「ああ」
「それなら大丈夫よ。子供達だって幸せを見付けられるわ。サスケくんの子だもの」
サスケを見上げたサクラは、にっこりと笑う。
「サスケくんは、女の子の方がいいの?」
「男でも女でも構わない」
サクラに似て、優しい子供ならば。
他に望むことはなかった。
あとがき??
ラブラブ・・・・・。
カカサクで妊婦サクラを書いたので、サスサクでも書いておきたいなぁと思って出来た話。
このシリーズ、カカシファミリーシリーズより思い入れが強いような気がしてきた。
内容が濃いというか、パラレル度二割増というか。
サスサク未来でこんな薄暗い話を書いている人って、他にいるのかなぁ・・・。
この地味な暗さが書いていて心地よいのだけれど。