羅生門 −扇−


「サスケくん!!」

隠れ家に戻るなり、サクラは悲鳴をあげて駆け寄ってきた。
たぶん、自分はそれほどひどい有様なのだろう。
写輪眼のカカシを嘗めていたわけではない。
覚悟もあった。
それなのに、最後の最後で、油断が生じた。

「どうしよう。血が、血が止まらないよ、サスケくん」
倒れ込んだ自分に、サクラは泣きながら言う。
思えば、里を出て以来、サクラの笑った顔を一度も見ていない。
こんな状況なら当然だが、明るさを失ったサクラは、今までとは別人のように見える。
自分といるときは、サクラはいつでも笑顔だったから、それが当たり前だと思っていた。

 

「・・・カカシに、会った」

口からもれた呟きに、サクラの嗚咽が、一瞬だけ止まる。
その一言で、十分理解したのだろう。
この怪我の意味を。

「もう、こんなこと、止めようよ。どうして・・・」

そのまま、声は続かなかった。
俯いたサクラのすすり泣きが止むことは、もう無いのかもしれない。

 

サクラは俺のしていることを、みんな知っている。
毎晩のように俺が血まみれで人の首を持ち帰れば、嫌でも分かるだろう。
時折顔を見せる大蛇丸が黒幕だということも、気付いている。

「サスケくんは、何が欲しいの」
毎日毎日泣き暮らすサクラは、俺の顔を見るたびに訊ねる。
「私、サスケくんが望むならどんなことでも協力する。でも、サスケくんのそんな辛そうな顔、もう見ていたくないよ」

そうして再び、サクラの瞳から涙がこぼれる。
俺だって、サクラが嘆く姿は見ていたくない。
だけれど、これは俺の願いをかなえるために、必要なことなんだ。

大蛇丸との契約の条件は、同胞である木ノ葉の忍びの首100個。

もうすぐ。
あと一つ首を集めれば、大蛇丸から聞き出せる。
そうすれば、もう、何も怖いものはない。
真夜中に跳ね起きることなく、安眠できる。

不死の禁術についての情報さえ、手に入れれば。

 

「あら、満身創痍ね」

耳についたくすくす笑いに振り返ると、戸口の前に大蛇丸が立っていた。
部下を数人従えて。
この隠れ家を用意したのは奴なのだから、断り無く入ってくるのはいつものことだ。
だけれど、単身で行動する大蛇丸が部下と共に現れたことに、何か嫌な予感がした。

「カカシの首は取れなかったって聞いたけど、サスケくんは十分頑張ったからおまけしてあげる」

大蛇丸が笑いながら言うのと、彼の配下である忍びが剣を振りかぶるのは、ほぼ同時。
思わず身構えたが、その刃は俺に向けられたものではなかった。

 

 

 

うちは一族に伝わる、写輪眼。
優秀すぎるその瞳は、時に、よけいなモノまで見せる。
毎夜繰り返される予知夢。

サクラが死ぬ光景が、瞼に焼き付いて離れない。
それはただの夢ではなく、現実に起こること。

未来は誰にも変えられない。
たとえ夢の情景を頼りに一時的に死を回避したところで、死因が変わるだけ。
サクラの死は確実に訪れる事実。
他の誰が死んでも、俺はサクラを死なせたくない。

それならば、どうすればいいのか。

 

 

「これで100人目よ、サスケくん。今夜から晴れてあなたは私達の仲間。その傷はカブトに治させるわ」

 

満足げな大蛇丸の笑みと、充満する鉄錆の匂いに、吐き気がする。

腕の中にあるのは、虫の息のサクラ。
流れ出る血が自分の怪我のものか、サクラのものかは分からない。
これがいつもの夢の続きなのか、それとも現実のことなのか、それすら曖昧になっていた。


あとがき??
最後はナルトの一人称で締め。
ごめんね。しょせん、私の書く駄文なのですよ。
ナルトのことは別に好きじゃないって人は、この“扇”で終了にしておいてくださいな。
というか、ここで終わった方が区切りがいい。あとは蛇足。


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