第三の男
「死んでください」
耳元でそんなことを言われたら、普通の人間ならば、椅子から転げ落ちていたかもしれない。
だが、物騒な言葉とは裏腹に、背後の人物から殺気はまるで感じなかった。
振り向いたカカシは、憮然とした面持ちで訊ねる。「何の冗談?」
「半分本気なんですけど、私にはまだ上忍を殺せそうにないですねぇ」
カカシと目が合うなり、ハヤテはにいっと笑ってみせた。
顔色が悪いせいか、笑っていても陰気なイメージは拭えない。
せっかくのランチタイムだというのに、カカシは彼が視界に入るだけで食欲が減退していく気がした。「で、俺に何か用なの?」
「愛してるんです」
その瞬間、カカシの向かいの席にいた上忍が、飲みかけの茶を吹き出した。
「わ、悪い・・・・」
茶の降りかかった弁当をまとめると、彼はカカシ達から目をそらしながらいそいそと職員室を後にする。
こうして、部屋にはカカシとハヤテの二人きり、という状況になった。
出ていった彼が、この状況をどのように吹聴するか、カカシは考えるだに恐ろしい。
「・・・・俺にその気はない」
「何の話ですか」
「愛してるって、言ったじゃないか」
「あなたじゃなくてサクラさんのことですよ。人の話は最後まで聞いてください」
怒った素振りで答えるハヤテにほっと息を付いたカカシだったが、どちらにせよ安穏とはしていられない。
サクラはカカシの元生徒で、最愛の恋人だ。
目の前にいるのは、恋敵ということになる。「俺に喧嘩売りに来たの?買うけど」
「ハハハ。脅しても、もう遅いですよ。ほら」
乾いた笑いと共にハヤテがカカシの眼前に突き出したのは、一枚の写真。
そこには、ハヤテとサクラが並んで写っていた。
おそろいの浴衣を着て。「これ、先月にサクラさんと二人で温泉に行ったときの写真です」
「嘘!!!」
ハヤテの手から写真を奪い取ると、カカシは目を皿のようにして見つめる。
だけれど、そこに修正したようなあとはなく、合成ではないことは明らかだった。
「随分前から、泊まりがけで旅行するような関係なんです、私達」
「・・・・・・」
ぶるぶると肩を震わせるカカシは、衝撃が強すぎて声も出ない。「先日、サクラさんとあなたと付き合っているという不愉快な噂を耳にしましてね。確かめに来たんですけど・・・・」
うなだれるカカシをちらりと見た後、ハヤテはため息を付きながら言った。
「本当だったみたいですねぇ。これって、二股ってやつでしょうか」
カカシのすすり泣きは、延々と30分は続いていた。
「いい加減、泣きやんでくださいよ。ショックなのはお互い様ですし」
「俺の、サクラが、浮気をするだなんて・・・・」
しくしくと泣き続けるカカシに、ハヤテはむっとした表情になる。
「あなたが浮気で、私が本命ですよ」
「何言ってるんだ!俺の方が先にサクラと出会ったんだぞ」
「時間よりも、二人の心の距離の問題ですよ」
「サクラは俺を好きだと言ったんだ!」
「でも、こうして二人同時に騙されてたことに変わりないんですよねぇ」
「・・・・・」
ハヤテの一言に、カカシはぐうの音も出ない。「で、これからどうします?」
「・・・このままにしておけない」
「それはそうですけど」
「何としても、サクラに一矢報いてやる」
「え!!?」
机に頬杖を付きながら会話をしていたハヤテは、はっとして振り返る。
そこに、悲しみが深すぎて呆然としていたカカシの姿はなかった。
彼の瞳にあるのは、真っ赤に燃える怒りの色だ。「駄目ですよ!!!」
ハヤテは思わず声を荒げてカカシの体を押し止めた。
「怒りにまかせてサクラさんを拷問するだなんて、いけません!サクラさんを無理やり縄で縛り付けて、火責め、水責め、油責め!!!やるのなら、絶対に私も混ぜてください」
「・・・どうしてお前はそう、話を飛躍させるんだよ」
カカシは自分をしっかえりと押さえているハヤテの頭をパシッと叩く。
「体の痛みなんて、一度のことだ。それよりも、精神的な苦痛を与えて、サクラをずたずたにするんだよ」
「・・・・はぁ」
「お前にも協力してもらうからな!」
有無を言わせないカカシの剣幕に、ハヤテは頷くしかない。
同じ頃、職員室の窓の外にいる上忍の一人が、気配を殺しながら中の様子を窺っていた。
「・・・何か、拷問がどうのとか、苦痛がどうのとかって言って、抱き合ってるよ」
「やっぱりそうなのか」
交互に部屋の中を盗み見た上忍達は、ひそひそと囁き合う。
「まぁ、二人ともスタイル良いし、見ていて気持ち悪くない組み合わせだからいいんじゃないの」
「そういう問題かなぁ。非生産的じゃないか?」
「愛の表現は自由だよ」窓一枚隔てた向こう側で、上忍達の激論が交わされていることにカカシとハヤテは全く気づいていなかった。
「なぁに、話って?」
その日の夜、街の給水塔近くに呼び出されたサクラは、時間よりも少し遅れてやってきた。
夜風を気にしてか、赤いショールを羽織った姿はこの上なく愛らしかったが、カカシは心を鬼にしてサクラを見据える。
「話っていうのは、彼についてなんだ」
カカシが手招きをすると、柱の陰に隠れていたハヤテが姿を見せる。
ただならぬ空気を察したのか、サクラは僅かに頬を強張らせた。「サクラ、実は・・・・・」
一呼吸置いたあと、ハヤテはがばりとカカシに抱きつく。
「私達、愛し合ってるんです!!」
夜目でなかったら、二人の蒼白の顔と鳥肌のために偽りであることがすぐに分かっただろう。
だが、目を丸くして彼らを見るサクラは、ハヤテの言葉をまるで疑っていないようだった。どちらが本命なのかは、分からない。
それでも、好きな相手を男に奪われるというのは、女にとって最大の屈辱のはずだ。
サクラの動揺を思い、一人ほくそ笑んだカカシだったが、驚いていた彼女の表情もまた同じように笑顔に変わっていく。
「良かったー」
胸をなで下ろした様子のサクラに、まだ抱き合ったままだったカカシとハヤテは目を点にする。
「イルカ先生が長期任務から帰ってくる前に二人にお別れを言わなきゃと思ってたんだけど、その必要はなかったみたいね」
「い、イルカ先生?」
「うん。アカデミー時代からみんなに内緒で付き合ってたの。イルカ先生がナルトにばかり構うから、当てつけのつもりで二人と関係を持ったけど、やっぱりそういうのって良くないわよね」
悪戯な笑みを浮かべると、サクラは可愛らしく舌を出す。
全く反省の色はないが、サクラならばどんな仕草も許されてしまうから不思議だ。「二人共いい人だし、アッチの方も上手だからお似合いだと思うわ。頑張ってねーー」
今まで見たことのないような晴れやかな笑顔で言うと、サクラは手を振りながら去っていった。
立ち尽くす二人がようやく身動きできるようになったのは、サクラがいなくなって、3分ほど経過した後だ。
だが、まだ頭の中は大いに混乱している。
「あの、もしかして私達、両方とも浮気だったんじゃ・・・・・」
「皆まで言うな」
傍らを見たカカシは、ぼろぼろと流れ落ちる涙を拭いながら言う。
以後、“カカシとハヤテは出来ている”という噂は木ノ葉隠れの里中に知れ渡り、二人を絶望のどん底に突き落とすのだが、それはもう少し先の話だった。
あとがき??
ごめんなさい。
何度も書き直したのですが全く納得のいく物が書けず、最終的にえらいホモっぽくなってしまいました。
どうしても話がシリアスな方向に行くので、ギャグに、ギャグにと心がけたら、こんな感じに。
タイトルが全てを表している気がします。ネタバレ。
ハヤテさん、見事に別人ですね。サクラは悪女だし。出番がないのに、イルカ先生一人勝ち。
個人的には火責め、水責め、油責めを見たかったような・・・・。リク内容は、以下の通りでした。
・カカサクハヤ
・カカシ先生とハヤテ先生と同時に付き合っている小悪魔サクラ
・二股がばれてしまい、普段仲の悪いカカシとハヤテ二人が結束してサクラに復讐する
・ギャグ
・どんな結末になっても良い
ク、クリアしてますでしょうか。(汗)115000HIT、竜王紙さま、有難うございました。