母をたずねて 3
「・・・・何だか、変」
カカシと共に入ったそば屋で、サクラは唐突に口を開く。
シュウと別れて二日、あともう少し歩けば木ノ葉隠れの里に着くという小さな村に二人はたどり着いた。
そば屋のTVは、話題の人である大使が手術を無事終え、病が介抱に向かっていることを告げている。
メニューを見ていたカカシがサクラへと目線を移すと、彼女はこれ以上ないほど真顔だった。「何が?」
「シュウさんは木ノ葉隠れの里の生まれで、家も木ノ葉隠れの里にあるって言っていた。それに、弟さんも病院にいるって。でも、何で任務は往復の護衛じゃなくて、往路だけなの?」
「・・・・・」
「それに、シュウさんを迎えに来たあの黒服の男の人達。あれは絶対素人さんじゃない。シュウさんは本当は何者なの」
「サクラ」
「何でいつもにこにこしていたシュウさんは、最後に私に泣きそうな顔を見せたの。ねぇ、先生、教えてよ」
話題を変えようとするカカシを無視して、サクラは自分の言いたかったことを全て言葉にした。
その強い眼差しに、カカシは今までのようにはぐらかすことは出来ないと悟る。「シュウは本当に一般の人間だよ。足が悪くて通院していた、ただの貧しい青年だ。だからこそ、病の弟の膨大な入院費に事欠いていた」
「・・・・何?」
「シュウの母親は10年前に亡くなっている」
思いがけない一言に、サクラは目と口を大きく開けた。
手元のコップを倒しそうになったが、寸前で掴まえる。
「で、でも、お母さんに会いに行くって、あんなに嬉しそうに」
「だから、それは嘘じゃないんだよ」
カカシの言う意味が分からず、サクラの頭はどんどん混乱していった。
「雪の国と菜の国が長い間戦をしていたのは知っているだろ」
「うん」
「その両国の橋渡しをしたのが、今TVで盛んに報道されている大使なんだ。彼がいなければ和平はあり得なかった。そして、彼に万が一のことがあったらまた近隣諸国を巻き込んでの戦国時代に逆戻りだ。もちろん、隠れ里の忍びである俺達も戦にかり出される。彼の生死は木ノ葉隠れの里にとっても死活問題だ」
「・・・それとシュウとどう関係があるの」
「大使は珍しい血液型で、シュウは彼の体に合う唯一のドナーなんだ。先日病で倒れた大使はほとんどの臓器を他から移植する必要があった。だからこそ、大使のいる菜の国の病院にシュウが呼ばれたんだ」
「い、移植って、正常な臓器をまるごと提供しちゃったら、シュウはどうなるのよ。大使が珍しい血液型なら、シュウだって・・・・」狼狽えて視線を彷徨わせたサクラは、このとき初めてシュウが母親に会いに行くといった意味に気づいた。
ハッとした顔で振り向いたサクラの瞳を、カカシは静かに見詰め返す。
そば屋のTVは大使の退院がそう遠くないことを伝えていた。
「そ、そんなの間違ってる!自分が犠牲になって、他人を助けるなんて」
「大使が死ねば、何万人もの人が死ぬんだ」
「だからって何でシュウが死ななければならないのよ!!命の価値は平等でしょ。あんなに、あんなに優しくて綺麗な人だったのに」
「誰も、シュウを殺したかったわけじゃない」
食ってかかるサクラに対し、カカシはうめくように声を吐き出した。カカシは知っている。
シュウに事情を告げたときの火影の苦しげな表情を。
そして、和平のために犠牲になって欲しいという願いを、シュウが二つ返事で受けたことを。
そのような優しさを持つ彼だからこそ、その死は一層悲哀を感じられた。
「代償としてシュウの出した条件はこれから先、弟の医療費を国が全額負担することと、サクラを自分の旅に同行させることだったんだよ」
「・・・・・何で私?」
「さぁ」
首を振ったカカシはそのまま目を伏せる。
理由を聞こうにも、大使の手術が終わった今、彼はもう雲の上の人だ。
シュウの命を縮める任務に自分も加担していたと思うと、サクラは胸が痛くて仕方がなかった。
あとがき??
「シュウ」は漢字で書くと「終」です。