母をたずねて 4


木ノ葉隠れの里に戻ってすぐに、サクラはシュウの弟が入院しているという病院へ向かった。
エレベーターで下りた先は、病院の最上階。
高級ホテルのスイートルームだと言われれば、信じてしまいそうな内装に、サクラは緊張しながら扉をノックした。

 

 

「あ、桜の人だ」
花束を抱えて立つサクラを一目見るなり、彼は開口一番に言った。
嬉しそうに微笑む姿は、彼の兄にうり二つだ。
病室は建物の中で一番日当たりのよいVIPルームで、文句の付けようがない。
清潔な病室を見回し、サクラには彼が大事にされているのがよく分かった。

「私の名前、知ってるの?」
「ううん。兄さんと僕が勝手につけたんだよ。昔ねぇ、公園で見た桜の花によく似ていたから。兄さんも早く戻ってくるといいな」
サクラの顔を見つめたまま、彼は幸せな笑みを浮かべている。
サクラよりも一つか二つ年上のはずだが、彼の精神年齢は見かけよりもずっと低い。
彼の病は今の医学では治しようがなく、ただ出来る限りの延命措置を施しているだけだ。
そのための入院費は、頼るべき親戚縁者がおらず、僅かな収入しかないシュウ一人では到底支払えるものではなかった。
自分のおかれている状況と、兄の死を理解できない彼が哀れで、サクラはこみ上げてくる涙を必死で堪える。

 

「大丈夫?」
唇を噛みしめて俯いたサクラに、彼は心配そうに声をかける。
何とか首を縦に振ったものの、サクラはなかなか顔をあげることが出来なかった。
立ちつくすサクラを、彼はベッドの上から首を傾げて見ている。

「赤い屋根の家に住んでいたこと、知ってるよ。前にいた病室からね、あなたがアカデミーの行き帰りに通る道がよく見えたんだ。遅刻しそうなときは、手に持ったおむすびを頬張りながら走っていた。兄さんは毎朝あなたが通る時間を楽しみにしてたんだよ。あなたとお友達になりたくて、歩く練習をしてたんだから。だから、あなたがどこかに引っ越してしまったときは本当にがっかりしていた・・・・」
長く話して疲れたのか、彼は背もたれに寄りかかる。
だけれど、口元に湛えた笑みはそのままに、吐息のような呟きを漏らした。
「兄さんはあなたとお話をしたかって、ずっと言っていたんだ」

 

 

 

サクラが病院を出ると、門の外でカカシが待っていた。
理由を訊ねることもなく、サクラはカカシと並んで歩き出す。
心配性な担任の姿を見たら、張りつめていた気持ちが妙に緩んでしまった。

 

「シュウからは、生きているものの匂いがしなかった。死を覚悟していたから。私、気づかないといけなかったのに、駄目ね」
自嘲気味に笑ったサクラは、傍らのカカシを見上げる。
「ごめんね。先生にあたっちゃって。先生も辛かったでしょう」
「いや」
「先生は忠告してくれていたのにね・・・・」

話すうちから、サクラの瞳にみるみるうちに涙が滲んでいく。
項垂れるサクラの頭を、カカシは優しく撫でた。
忍びは感情を表に出してはならない。
だが、彼女の担任がそうした理由で生徒を咎めたことは一度もなかった。


あとがき??
ごめんなさい。思ったより、悲劇でした。
元ネタも、パタリロが初めて心から泣いた話だったし。
こうもアレンジしては元ネタも何もない気がするが・・・・・。
シュウや彼の弟は天使なイメージなので眉目秀麗なのです。
自分の知らないうちに、そんな風に思っていてくれた人がいたことを後から聞いたら、少し辛いかもしれない。
最後の数日とはいえ、夢が叶ったシュウは幸せだったのかな。

(余談)富士山を見ていて思いついた話でした・・・・。脈略ないけど。


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