きみとぼく 2


胸を圧迫するような息苦しさを感じ、サクラは目を覚ました。
カーテンから差し込んだ光が、清々しい朝を告げている。
薄目を開けるサクラは、自分がサスケを追いかけて都会の学校にやってきたことを、ぼんやりと思い出す。
ここは男子校だ。
少しでも気を抜いて性別がばれることがあれば、即、退学処分にされてしまう。
瞼をこすってしっかりと意識を覚醒させたサクラは、視線を下げるなり目を大きく見開いた。

まず目に入ったのは、銀色の髪。
いや、それは人の頭だ。
胸が苦しいと思ったのは、隣りで眠る彼の片手がしっかりとサクラの乳房を掴んでいたせいだった。
しかもその手は服の上ではなく、下から入り込んで直に肌に触れている。
驚きすぎて目に映る光景を信じられずにいると、瞳を開けた彼はサクラと視線を合わせてにっこりと笑った。
「おはよー・・・」

 

 

「ギャーーーーー!!!!!ち、痴漢ーーー!!!!」

 

 

サクラの悲鳴は、両隣にいるナルトとサスケの部屋まで十分すぎるほど伝わった。
布団の中でまどろんでいた二人は、すぐに飛び起きてサクラの部屋まで駆けつける。
そして彼らが目にしたのは、ベッドの上でサクラにしがみつくカカシと、それを何とか押しのけようとする彼女の姿だ。
「・・・・・何でお前がここにいる」
怒りを押し殺した声で訊ねるサスケに、サクラの胸に顔をすり寄らせるカカシは幸せそうな笑顔で答える。
「えー、ちょっと昨日寝ぼけちゃって、この部屋に迷い込んだみたい」
「お前の住んでいる保健室とは、建物二つ分離れているぞ」
「夢遊病なの」
しゃあしゃあと言ってのけるカカシに近くにあった置き時計を投げつけると、彼はようやくサクラから手を離した。

「サスケくん!」
涙を流して怯えるサクラは、一目散に彼に飛びついていく。
しくしくと泣くサクラの頭に手をやり、サスケは再びカカシを睨み付けた。
「さっさと出ていけ、この変態野郎!」
「何だよー、ちょっと部屋を間違えただけなのにさ」
舌打ちしたカカシは、渋々サクラのベッドから立ち上がる。
サクラに向かって手を振ったが、サスケの後ろに隠れる彼女はもちろん無視、代わりにナイトキャップをかぶるナルトがそれに答えていた。
「先生って、方向音痴なんだねー」
平和な笑顔で言うナルトは、全く事態を把握していないようだった。

 

「サクラ、何か盗まれたものとか、無いか?」
「えーと、平気、みたいだけれど・・・・」
カカシが去ったことを確認すると、サクラとサスケが紛失物の有無を調べ始める。
学園に転入してからというもの、サクラはあの保健医に何かと付きまとわれていた。
しかし、この部屋にまで侵入してくるとは、予想外だ。
「絶対に一人では行動するなよ」
「うん」
危機感を募らせるサクラは、神妙な顔で忠告するサスケに頷いて応える。
正確にはこの部屋からあるものが一つ紛失していたのだが、サクラがそれに気づくのはもう少し後のことだった。

「えへへー、イチゴの柄のパンツ。可愛いの履いてるよねーーvv」
廊下を歩きながらポケットをさぐったカカシは、手に入れたばかりの宝を眺めてにやにやと笑う。
何しろ、昨夜サクラが身につけていた貴重な品だ。
これを脱がせたあとにわざわざパジャマの下を履かせたのだから、サクラが仰天するのは制服に着替える直前のことだろう。

 

 

 

 

「・・・・気持ち悪い」
授業の合間の休み時間、ふらふらと歩くサクラは目的の場所にたどり着くことが出来ずに蹲った。
学業の方は問題はないが、サクラが苦しんでいるのは体育の授業だ。
何しろ、男と女では体力が全然違う。
今日は10キロマラソンをさせられたが、元々体力のないサクラには拷問のようだった。
何とか走りきったものの、信じられないほど体に疲労が残っている。
サスケとナルトにはトイレに行くと言ってあり、廊下で座り込んでいても助けは来ない。
運が悪いことに体育館へと続く人気のない回廊は誰も通りかかる者がいなかった。

 

貧血を起こしていたサクラは、額に当たった冷たい感触に小さくうめき声をあげる。
重い瞼を開けると、銀色の髪の人が見えた。
「・・・・痴漢」
「いやねー、命の恩人にその言いぐさはないでしょう」
苦笑するその人の表情は穏やかで、サクラは自然と頬を緩めていた。
サクラがいるのは、彼女が倒れた場所からそう遠くない場所にあるベンチだ。
カカシに膝枕をされているらしいが、まだ、だるさのために体を動かせそうにない。
額にのせられた濡れたタオルはカカシの心遣いだろう。

「もう少し、休んでいたら。次の授業はもう始まっちゃってるし」
「・・・そうですか」
「散歩していたら可愛いサクラが倒れていてびっくりしちゃった。女の子なんだから、無理しちゃだめだよ」
「・・・・でも、頑張らないとサスケくんやナルトと一緒にいられないんです」
目をつむるサクラは苦しげな声で答える。
カカシは何故かサクラの性別を知っても黙っているようだが、他の人間ならばそうはいかない。
何としても、サクラはこの学園に留まっていなければならないのだ。

 

「サクラの頑張りは認めるけど、来週はこんな行事があるみたいよ。どうする?」
白黒文字のプリントをカカシはひらひらとサクラの目の前にかざして見せる。
「何ですか?」
「健康診断のご連絡。一年生は再来週の月曜日、9時に上半身裸で体育館に集まること、って書いてあるの」
のんびりとした口調でプリントを読みあげるカカシに、サクラは頭を殴られたようなショックを受けた。
少女であるサクラがそのようなことをすれば確実に性別がばれる。
学園にいる間は胸にさらしを巻いて膨らみを隠しているが、脱いでしまえば一目瞭然だ。

「そこで俺に提案があるんだけれど、のってみる?」
呆然とするサクラは、にんまりと笑うカカシを不安げに見上げた。
彼のことは、素直に信用することが出来ない。
それでも、窮地に立たされたサクラには、彼の手にすがるしか手段は残されていなかった。

 

 

 

「本当ーーーーに、何もしないんですね!」
「うん、うん、神に誓って約束します」
健康診断が行われる前夜、枕を持って保健室にやってきたサクラをカカシは笑顔で迎え入れる。
一週間、思い悩んだ末の決断だろう。
カカシは、サクラの診断書を皆の前で診察せずとも書くことを約束した。
代償は、彼女がこの先カカシの住んでいる保健室で一緒に就寝することだ。
もちろん、隣りに眠るだけでサクラに手を出さないことが前提の約束だった。

「サスケとナルトには内緒にしてきたんでしょう」
「もちろんよ!絶対に反対されるもの」
せかせかと歩くサクラは、無駄口は不要とばかりにベッドに入ると、布団を頭からかぶる。
カカシの力で健康診断を一切免除されたと告げたとき、二人は訝しげな表情をしていた。
だが、彼らと一緒に過ごすためにも、秘密は絶対に守り通すつもりだ。

 

最初のうちは緊張のために寝返りを打っていたが、健康体であるサクラはすぐに小さな寝息を立て始める。
そして、懐に飛び込んできた獲物を見過ごすほどカカシも善良ではなかった。
本当ならば会ってすぐに手を付けたかったが、何日も我慢をして、ようやくその日を迎えることが出来たのだ。
ここならばサクラが多少騒いでも駆けつける邪魔者はいない。

「約束ってのは、やぶるためにあるんだよねー。知ってる、サクラ?」
反対側を向くサクラの体を引き寄せると、手始めにその柔らかな唇を吸ってみる。
思った以上に上等の味わいだ。
「・・・んっ」
絡んだ唾液をサクラが無意識に飲み込むと、無性に気持ちが高ぶってしまう。
そのときサクラの顔を見なければ、確実に彼女はカカシのものになっているはずだった。

 

「サスケくん・・・ナル・・・ト・・・・」
切なげな声を耳にしたカカシは、思わずサクラへと伸ばした手を止める。
寝言をもらすサクラの眦には涙のしずくが光っていた。
女のサクラが毎日気を張りつめて男子校で生活をするのは、カカシが思う以上に大変なのかもしれない。
男の身なりをしているため、年頃の少女がするようなおしゃれはいっさい出来ず、悩みを相談するような女友達もそばにいないのだ。
ふと、同情に似た感情が芽生え、その髪を撫でるとサクラは自然と頭をすり寄らせてきた。
幸せそうな寝顔を見てしまうと、段々とやる気も萎えてきてしまう。

「・・・まあ、もうちょっとくらいは、待ってもいいかなぁ」
脱がしかけたサクラのパジャマのボタンをしっかり留め、カカシは仕方なく、彼女の体を抱えて横になる。
今まで、どんな女が相手でも、一度手に入れれば飽きてすぐに他に目移りしていた。
躊躇するなど、らしくない。
サクラの髪に顔を埋めながら、カカシは自分自身の気持ちに戸惑いを覚える。
サクラはこの学園にいる間だけの慰み者。
胸の内にある暖かな物を感じながら、カカシは自分に言い聞かせるように繰り返していた。


あとがき??
パンツ盗ったのは、本気になればいつでもやれるんだよーと言いたかったようです。
先生の変態ぶりに磨きがかかる・・・。
もっともっと別のカップリングとか入れるはずだったのに、カカサクだけでこんなに字数を使ってしまった。(涙)
また、書かないと駄目か。
拍手にて続きを見たいとおっしゃってくださった方、有り難うございました。


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