きみとぼく 3
体育の授業の後ということもあり、非常に眠かったのだ。
教室では来月の学園祭についての話し合いが行われているのだが、サクラはうとうとと舟を漕いでいる。
だから目の前に来たクラスメートが箱を差し出したとき、それが何なのかはすぐに分からなかった。
「はい!」
「・・・えっ?」
「早く引いてよ」
箱の中には小さく折りたたんだ紙が入っており、クラスの出し物の担当を決めているようだ。
サクラが適当に選んだ紙切れを掴み、開いてみると「あたり!!」と書かれていた。「みんなー、最後のメンバーは春野に決まったぞー」
サクラの紙を確認したクラスメートは大きな声で周りに知らせる。
そもそも出し物が何なのかも分からないサクラはきょとんとしたが、前方の席にいるサスケが妙に顔をしかめているのが気になった。
「うん、春野なら背も小さいし、肌も白いし、似合うんじゃないか」
「・・・・何が?」
くじ引きの箱を持つ彼の言葉に、サクラは首を傾げて訊ねる。
「女の格好」
女装喫茶、かまっ娘クラブ。
それがサクラの所属するクラスの出し物だ。
運命の悪戯か、本当の女であるサクラも女装してウェイトレスをするメンバーになってしまった。
服はメイドやナース、スチュワーデスと、各種用意されている。
衣装合わせの現場でサクラは仕方なくセーラー服を身に着けたのだが、少女なだけあって普通に似合っていた。
他の男子は体格のいい生徒ばかりで見ている者の笑いを誘うのだが、その中でサクラは妙に浮いてしまっている。
ギャグのつもりの催しものが、シャレではすまない可憐な姿だ。「・・・・春野って、結構可愛いよな」
「お前、男相手に何言ってるんだよ」
セーラー服のサクラの後姿を見つめ、しみじみと呟くクラスメートを笑い飛ばした男子生徒もまた、同じ心情だった。
何しろ全寮制の男子校、規律も厳しく同じ年頃の少女と接触する機会は滅多にない。
性別を偽っているとはいえ、実は少女であるサクラに目がいってしまうのは仕方がないことだ。
「な、なんだか、みんなの視線が痛いんだけれど・・・・。ばれちゃったのかな?」
「そうじゃないと思うけど、ちょっとやばいかもねー」
さりげなく自分の背中に隠れるサクラに、ナルトは貸衣装やから持ってきた服を物色しながら答える。
「・・・あんたさっきから、何やってるのよ」
「俺も厨房係からウェイトレスのメンバーに代わったんだよ。だから、どれを着ようかと思って。サクラちゃんと同じ、セーラーかなぁ」
「そうなの、あんたも一緒」
ナルトも同じウェイトレス担当と知り、サクラは少しばかり安堵の表情を見せる。
サクラが客に絡まれた際にすぐ助けられるよう、警護するのが目的なのだが彼女はナルトの気遣いを知らない。
サスケも心配はしているが、女装だけはどうしても許容できなかったようだ。
「みんなー、忙しいところ悪いが、来週から授業を受け持つことになった教育実習の先生が来ている。紹介するから、集まれー」
出し物の細かい流れを決めている最中、教室の扉が開かれ、担任の教師が皆を呼び寄せる。
そして、彼に続いた教室に入ってきた青年を見るなり、ナルト、サスケ、サクラの三人は目と口を大きく開けたまま硬直した。
長い黒髪を一つに束ねて背にたらし、生徒達を見据える美貌の教育実習生。
皆がいっせいにサスケを見たのは、彼らの持つ雰囲気が似通っていたからだろう。「あー、うちはイタチ先生はサスケの兄だ。数学を教えてくれるぞ」
「・・・・よろしく」
頭を下げるイタチを見ながら、サクラは教室から逃げ出したい衝動を何とかこらえていた。
国の人々には男子校ではなく、この近くの女学校に通っていると嘘をついているのだ。
両親にばれれば、即刻強制帰国になってしまう。
案の定、サスケに視線を向けたイタチはすぐにサクラに気づき、不思議そうに首を傾げている。
「何で彼女があそこにいるんですか?」
「彼女?」
三人のいる方向を指差し、担任に訊ねるイタチに悲鳴を上げそうになったサクラは慌てて彼に駆け寄った。
「い、イタチさん、お久しぶりです!!僕もサスケくんやナルトと一緒にこの学校に通っているんです。ここの生徒なんです。来週からよろしくお願いします!!!」
イタチの腕を掴んだサクラは、無理やり笑顔を作り、強い口調でまくし立てた。
これ以上、何も言うなと、目で訴えている。
暫しの間サクラの瞳を見つめていたイタチは、やがてゆっくりと首を縦に動かした。「分かった」
感情が顔に出にくいため、本当に理解してくれたのかどうか不明だが、イタチはサクラの体をそのまま抱き寄せる。
これにはサクラも仰天して声が出ない。
弟のサスケが相手ならば、久しぶりの対面に感動したのだということで納得できた。
だが、同じ国の出身とはいえ、男が男に抱きつく光景というのはどうも奇妙だ。
「・・・・あの、お二人の関係はどういう?」
生徒の一人がしごくもっともな質問をすると、イタチはサクラを胸に抱いたまま振り向く。
「婚約者だ」
ざわつく教室で、頭を抱えるサスケはため息をつき、ナルトは面白そうに様子を傍観している。
サクラにいたっては顔が茹蛸のように真っ赤になり、どうやって周りの誤解を解けばいいかも、すぐには思いつかなかった。
あとがき??
『彼氏彼女の事情』続編で、mitsuさんの「教育実習生としてイタチを登場させたら」という意見を参考にさせて頂きました。
カカシ先生、登場させられなかったな。困った。