きみとぼく
「ここは男子校だぞ、男子校!!分かっているのか!?」
「・・・・もう、転入届は受理されたもの」
人差し指を眼前に突きつけられたサクラは、目線を下げつつ答える。
変装のつもりなのか、眼鏡をかけ、詰め襟の男子学生服を着ていたが彼女は歴とした女だ。
本来ならば、男子のみが通う学園の校舎を見学しているはずがない。「付いてきちゃったものはしょーがないじゃん、サスケー。サクラちゃん一人国に残すのは可哀相だと思ったし、俺は一緒にいられて嬉しいけどな」
「ナルトv」
「アホか!これから3年間寮に入って暮らすんだぞ。すぐにお・・・・」
思わず怒鳴ろうとして、周囲に目を配ったサスケは声を潜める。
日曜ということで、校内に人気はないがどこに誰がいるか分からなかった。
「女だってばれて追い出されるに決まっているだろう。書類をいくら偽造しても無駄だ」
「そうなったら、そのとき国に帰ればいいだけだよ。俺がちゃんとフォローしてあげるけどね」
全面的にサクラの味方であるナルトは、にこにこと彼女に笑顔を向けて言う。
今までどんなときも離れず3人共に成長してきたのだ。
サスケが都会にあるこの学園に転校すると分かったとき、サクラは何の迷いもせずに決断をした。
ナルトが彼に付いていくなら、自分もそうすべきだと。
もちろん話をうち明けたのはナルトや身内のごく一部の者で、反対すると思われるサスケにはぎりぎりまで内緒だった。
転校前日である今日、詰め襟姿で登場したサクラに、彼がどれだけ驚いたかは分からない。
サスケの旅立ちの日にサクラが見送りにやってこなかったのは、密かに同じ船に乗っていたせいなのだ。「部屋は個室だし、シャワーやトイレだって付いている。授業中だって俺達がそばにいるし、よほどのことがなければ大丈夫だろ」
「・・・・そうならば、いいがな」
悲観的に呟いたサスケの右腕に、サクラがぴたりとくっつく。
ふと顔を向けて、にっこりと微笑まれれば、もう不満を漏らすことも出来なかった。
彼女がそばにいないと寂しいというのは、ナルトもサスケも同じ気持ちだったのだから。
「ここは男子校だぞ、男子校!!分かっているのか!?」
図らずも、サスケと同じ台詞を吐いたのは、明日から学園に勤めることになっている保健医のカカシだ。
廊下を歩くカカシは後ろを付いてくるアスマを見もせずに話を続ける。
「俺は女学生が大好きなんだよ!!なーんで、男だらけの男子校なんかに勤務しないといけないんだ!」
「男子校だから男だらけで当然だ。だからこそ、ここを選んだんだ」
「何だよ、それ」
子供のように口をとがらせるカカシに、アスマは呆れ顔になった。「お前、ここに何でとばされたか、本当に分かっていないのか?」
「・・・・・何」
「行く先々で女とトラブルを起こしたからだろーが!学生とか職員とか。いくら頭脳が優秀でも、それじゃどの研究所でも雇えるはずない。ここなら、生徒も教師も全員男だからな」
「はあー・・・」
「少なくとも、3年はここで修行しろとお前の父上も言っておられた」
「・・・・・男だらけ。何だか、もう窒息死しそう」
顔を覆って嘆くカカシは、すでにアスマの声など耳に入っていない。
女性が一人もいない職場など、彼にとっては地獄も同然だ。
脱出を考えるものの、彼の父が本気で捜せば世界の何処にいても連れ戻されるに決まっている。
それだけの力を持つ人物なのだ。
「牢獄に3年、3年も。俺が何をしたっていうんだよ」
「だから、女遊び」
「俺は世の中の女の子達を幸せにしてあげただけなのに・・・」
アスマの突っ込みを無視してぶつぶつと呟くカカシは、全く周りが見えていなかった。
突然、目の前を横切ったものに反応したときは、すでに遅い。
廊下の角を曲がった瞬間に、駆けてきた学生服の少年とカカシは真正面からぶつかっていた。「キャアッ!!」
「うわ!」
前方に倒れる少年を慌てて避けようとしたカカシは、黄色い声を耳にしてとっさに手を出す。
彼女の声を聞かなければ、助けようとは思わなかったはずだ。
そもそも、男をかばうという思考は彼の頭にはいっさいない。
「大丈夫、君?」
しっかりと抱き留めた彼女の顔を認め、カカシは自然と微笑みを浮かべていた。
非常に彼好みの面立ちをした少女だ。
桃色の髪が愛らしく、眼鏡の奥の瞳が不安げに揺れている。
思いがけない不幸に落ち込んでいたため、カカシは彼女との出会いがよけいに嬉しく感じられた。「あ、あの・・・、すみません」
いつまでも自分の体を抱えたまま嬉しげに笑っているカカシに、サクラは手足を動かして何とか離れようとしている。
四苦八苦するサクラを強引に引っ張ったのは、そばで目をつり上げていたサスケだ。
「この馬鹿!廊下を走るなと言っただろう!!」
「・・・ごめんなさい」
カカシの手が離れてホッとしたのもつかの間、怒鳴られたサクラはしゅんとして肩を落とす。
「誰だか知らないけど、サクラちゃんを助けてくれて有り難うございます〜。俺達、明日からここに通うんで、どうぞよろしく・・・」
「ナルト、行くぞ!!!」
サクラに代わりカカシにぺこりと頭をさげたナルトは、サスケに腕を掴まれて連れられていく。
普段は男に愛想のないカカシも、機嫌がよいために手を振って彼らを見送っていた。
「ねーねー、アスマ、あの子達はこの学園の生徒なんだよね」
気を取り直し、保健室へ向けて歩き出したカカシはさっそくアスマに訊ねる。
「どう見たってそうだろ。制服着ていたし。一緒にいた黒髪は某国の王子だ」
「・・・誰だって?」
「バミューダトライアングルの真ん中にある小国の王子様だよ。世間勉強のためにって、遠い親戚が理事をしているこの学園に転校させたらしい。教師達の間で随分と騒ぎになっていたな」
「へーー・・・」
適当に相づちを打っていたが、カカシの頭にあったのは男物の制服を着ていた少女のことだ。
何か事情があるのだろうが、彼女が女であること以外はとくに興味がない。
その手でしっかりと確認したのだから、間違いなかった。「アスマ、俺、何だかここで保健医やるのが楽しみになってきたv」
「へ?」
振り向いたアスマは、心底意外そうにカカシを見る。
つい、先ほどまであれほど渋っていたというのに、今は満面の笑みだ。
何が彼の気を変えたのかが、全く分からない。
「お前の大好きな女学生がいないのにか?」
「うふふ〜〜〜vv」
「・・・・変な奴」
同じ頃、両腕を組んで胸をかばう動作をするサクラは、何故か真っ青な顔をしている。
「ど、ど、どうしよう」
「サクラちゃん?」
「今の人に思い切り掴まれたわよ、胸。私のことばれちゃったかも・・・」
深刻な表情で語るサクラの胸元を見て、ナルトは明るく笑い声を立てた。
「ハハハッ、大丈夫だよーーー、サクラちゃんなら」
「どういう意味よ!!!!」
金切り声をあげるサクラは握り拳を作ってナルトに詰め寄る。
サクラとて標準より小振りということは自覚しているが、返答次第ではただではおかない。「これでも少しはあるのよ、少しは!!」
「い、いや、ほら、気づけばすぐあの場で騒いだだろうしさ。あの人鈍そうな顔してから、平気じゃない?」
「・・・・」
ナルトを相手にわめき立てるサクラをよそに、サスケは彼女にいやらしい眼差しを向けていた男の顔を思い出す。
あれは、間違いなくサクラが女だと分かったうえで胸を触っていた。
サスケが割って入らなければ、いつまででもサクラを抱えていたことだろう。
傍らでなにやら言い合いをしている二人を見つめ、サスケは大きくため息をつく。
通う前から早くも感づかれるとは、全く前途多難な学園生活だった。
あとがき??
スランプ中なので、ちょっと気分転換で男子校7班。『ねらわれた学園』番外編みたいですね。舞台は日本ではなく架空の国らしい。
嶋木あこ先生の『僕になった私』を読んでいて書きたくなった。
嶋木先生の描かれる女の子はみんな可愛くて頑張りやで、好きな人に一途なので応援したくなります。一生懸命なヒロインは良い。一応、一話完結。気が向いたら続く。
今後はカカサクラブ方向か、7班ほのぼの方向かで随分と内容変わりそうな。
先生が女たらしーなのは保健医設定だからです。(クライヴ先生)サクラに会えば、サクラに夢中ですよv
出会ってすぐ乳を揉むとは、やりますね。
・・・・・サクラを本当の男の子にしても、良かった。サクラ受けならホモでもOKですよ。いや、でも男装で眼鏡の少女も捨てがたし。
アスマ先生は、カカシ先生の何なんだろう?