異種婚姻奇譚 3
たった一人では、一度食べれば終わってしまう。
だから、繁殖させて数が順調に増えてから食べていくことにしたらしい。
サクラが産んで出来た息子のタルトは非常食2号だ。
人懐こい性質らしく、カカシが頭を撫でるとタルトは嬉しそうに顔を綻ばせた。
金髪も青い目も、容姿は全くサクラに似たところがないのだから、おそらく父親の方の遺伝子を受け継いでいるのだろう。「自分の子供なのに、本当に食べちゃうの?」
「さあ。今は半妖だけど、タルトの妖怪としての成長はここでストップして、あとは段々人間の子供と同じになるんだって。だからいいんじゃないの」
「うーん・・・」
「ナルトはお父さんが人間でお母さんが妖怪だったの。半妖の成長は母親の血に引きずられるから、ナルトは妖怪として生きているみたい。母親が狐なら子供は狐に、天狗なら天狗に、猫又なら猫又に、河童なら河童に、幽霊なら幽霊になるらしいわよ」
「妖怪と幽霊って・・・・・そういうこと、出来るの?」
「んー、人の感覚と違うみたいだから」
嘘か本当か判断しかねる話を聞くうちに、巣穴とやらに到着してしまった。
カカシは狐や狸の住みかのようなものを想像していたのだが、きちんと人間が生活出来る家が立っている。
近隣の村の人々が暮らしている家となんら変わらない。
もとは洞窟のような巣穴だったらしいが、サクラに気を遣ったのか、妖術で簡単に建てたもののようだ。
「冷暖房完備。洋服やご飯はナルトがどこからか出してくれるし、一度も不便に思ったことはないわよ。買い物に行かなくても平気」
「へーー・・・・」
二人が話すうちに、サクラから手を離したタルトは家の戸口に向かって駆け出していった。
「パパ」
そこに立っていた少年に、タルトは迷うことなく飛びつく。
そしてカカシも、一目見て彼がナルトという名前の人食い妖怪だと悟った。
タルトがそのまま成長して大きくなったような、非常に分かりやすい外見だったからだ。「ナルト、この人は私の知り合いだから。大丈夫よ」
ナルトがカカシを警戒しているのを察し、サクラは笑みを浮かべて言う。
そしてカカシはといえば、人食いと恐れられた妖怪がサクラとそう変わらない、15、6の少年に見えることに、いささか驚いていた。
簡単に退治することも出来そうだが、それが見かけだけのことだというのは、自分を威圧する眼差しの強さからも分かる。
本音を言えば、妖怪を始末してサクラを取り戻したかった。
最愛の恋人が生きていたことを知って、そのまま「さようなら」というのは、どうしても出来ない。
だが、サクラはナルトに心を許しているらしく、彼に何かあればカカシを絶対に許さないだろう。
そうなると、手段は一つだけだ。
「あのー、俺、はたけカカシっていうんだけど、君の非常食3号にしてくれない?」
その場の空気を和ますように、のんびりとして声で切り出したカカシは、ナルトに向かって頭を下げた。
「カ、カカシ先生!?」
「サクラのそばにいたいんだ。何なら、今、妖怪を退治する計画を漏らしてもいいし」
てくてくとナルトに歩み寄ると、カカシは彼に向かって右手を差し出した。
そして、握手という習慣を知らないらしいナルトの手を掴み、強引に上下に揺する。「うん、これで仲良し。ごつい男と共同生活なんて冗談じゃないけど、君くらいならOKかな。サクラの言ったとおり、耳がチャーミングだし」
「ちょ、ちょっと、カカシ先生!ナルトが可愛いからって手を出さないでよね。私が先に唾付けたんだから」
慌てて二人の間に割って入ったサクラはナルトを背にかばい、カカシをじろりと睨め付ける。
カカシが居残りを決めた理由を、自分と一緒にいたいからというは口実で、ナルトに目を付けたためだと思ったらしい。
「・・・サクラちゃんの周りの人間は、みんなこんな風に変わってるの?」
「私とカカシ先生を同列で考えないでよねー。先生の方が怪しい見かけでしょう」
サクラは口を尖らせて反論したが、何故怒鳴り口調なのかはナルトには分からなかった。
カカシが味方についたことで、人食い妖怪と非常食1号、2号、3号の暮らしは実に平和に過ぎていく。
サクラの言うとおり、非常食達の腹が空く頃になると、ナルトはどこからか料理を出してテーブルに置いた。
肉から魚、野菜や牛乳、何でも望めば出してもらえ、里で不規則な食生活を送っていたことを考えれば、森に来てからの方が健康になったくらいだ。
「沢山食べて元気に育てよー、俺の非常食ー」
「んっ」
隣りに座るナルトが頬についた米粒を取りながら言うと、タルトは律儀に頷いて応えた。
暇を見つけてはタルトに声をかけ、ナルトは子供をよく可愛がっている。
だからこそ、タルトもナルトに一番懐き、始終彼の後をくっついて歩いているのだろう。
向かいの席に座るカカシとサクラは、同じ顔が二つ仲良く並んで食事をする姿をほのぼのと眺めていた。「タルトってば、本当に可愛いねーvまさに天使」
「私が産んだんだもの。当然よ」
「でもさ、次の子は俺の種っぽいよね」
「・・・うん」
サクラの月のものが無くなって数ヶ月、膨らんだ腹は段々と目立ち始めている。
寝室ではトリプルベッドで雑魚寝しているためどちらの子供でも不思議ではないが、成長速度を見ると純粋な人間の子供のようだ。
「何、その浮かない返事は。傷つくなぁ・・・」
「違うわよ。タルトのときは簡単だったけど・・・・。人間の子供、こんなところで無事産めるのかしら」
サクラの不安はもっともなことだった。
きちんとした設備のある病院で出産しても、万が一ということは考えられる。
サクラの場合は医者も看護婦もいない森で、一人で産まなければならないのだ。
そう簡単に事が進むとは思えない。「ナルトは人食い妖怪ってことだけど、人間以外のものを食べても生きていけるの?」
「どうだろう。私が来てから一度も人を食べていないし、分からないけど」
「もし平気ならさ、ナルトを連れてどこか人の住む村でみんなで暮らそうよ。ナルトは耳を隠せば人間と変わらないし、人がいるところなら病院だってあるだろう」
「それは駄目」
カカシの提案を、サクラは即座に却下する。
「妖怪っていっても、ナルトはこの森と同化した精霊みたいなものだから。森から離れると妖力が無くなって死んじゃうの。だから駄目」
「はー、そうなんだ」
良い案だと思っていただけに、カカシはがっくりと肩を落とす。
「でもさ、サクラだけでも、子供が無事産まれるまで人里で暮らすことを考えておいて。サクラの体が心配だよ」
「・・・・・うん」
あとがき??
な、な、長い・・・・。
おかしいな。サクラが子供を産む予定なんて無かったんですが。
タルトは可愛いけど。