異種婚姻奇譚 4
ナルトは人間だった父と妖怪の母がどうやって知り合ったのか知らない。
ただ、ナルトが物心ついたときには父は病で亡くなっており、母は食べることを止めていた。
日に日に痩せていく母を見て、ナルトは不安になったものだ。
妖怪なのだから少しの間は食べずとも生きていけるが、それが10年、20年と続けば、どれほど力のある妖怪でも衰弱していく。
それでも、母は何も口にしようとしないのだ。「母ちゃん、ほら、まだ筋が少なくて柔らかな子供の肉だよ。美味しいよ」
迷子の子供を一人でしとめて運んでも、巣穴で横たわる母は寂しげに微笑するだけだった。
「ごめんね・・・。今は、お腹がすいていないのよ」
「・・・・」
すでに喋ることも辛そうな母の姿に、ナルトはぼろぼろと涙をこぼす。
母が死んでしまう。
それを、幼いナルトはどうすることも出来ずに見守るしかなかった。
妖怪の寿命は永遠だ。
その母が、何故餓死という道を選んだのか、ナルトにはいくら考えても分からなかった。
母が最期に食べた人間は、病で死んだ父だった。
「自分を食べて欲しい」というのが、父の遺言。
そして父の体は今まで食べたどの人間とも違い、舌がとろけそうなほど美味い極上の肉だったらしい。
以来、母はその味を忘れられず、何も食べることが出来なくなったという。
病の人間を食べたから、悪いものが移ったのだろうか。
いや、おそらくそうではない。
「綺麗ねー」
「うん」
寒くないよう、ショールを羽織ったサクラを腕に抱いて、ナルトは屋根の上で満月を眺めていた。
月では兎が餅をついているというが、こうして眺めると、確かにそのように見えなくもない。
太陽の光はあらゆる生き物にとって必要だが、直接見ることの出来ない輝きよりも、サクラはこうして静かに観賞出来る月の光が好きだ。
思えば、ナルトと初めて会ったときも月が出ていた。「私ね、ナルトを初めて見たとき、凄く綺麗だと思ったの。お月様の化身が、地上に降りてきたのかと思ったくらい」
独り言のように呟いたサクラは、首を少しだけ後ろに向け、にっこりと笑う。
釣られて微笑むナルトは、妙に胸が暖かくなったことを感じながら、サクラに頬を寄せた。
「ナルト、まだお腹はすかないの?」
「うん」
「でも、いつかは人間を食べるのよね」
「・・・・うん」
「それならさ、カカシ先生や子供達じゃなくて、まず私から食べてね。約束よ」
「・・・・・・」
ナルトは答えることをせずに、サクラの体を強く抱きしめる。
母が死んで一人になってから、森で人間の気配を感じると、満腹のときでも無意味に追いかけて、殺して楽しんでいた。
泣いて叫んで逃げまどう姿が滑稽で、面白い。
そして今、自ら進んで餌になると言い出したサクラがそばにいるのに、不思議と腹が減らないのだ。
暖かなぬくもりを肌で感じて、些細なことで笑いあって、たまに泣いたり怒ったりする。
ずっと忘れていた感情だった。
このごろナルトは母のことばかり思い出す。
彼女はあのとき、自分のような心境だったのではないだろうかと。サクラがそばにいれば、何もいらない。
母が父を失ったように、自分もサクラを失えば、何もすることもなく、死を選ぶ気がした。
彼女に会えなくなることを想像しただけで、怖くて怖くて、胸が張り裂けそうなほど痛くなるのだ。
「ナルト、どうしたの!?どこか痛いの?」
「・・・平気」
突然泣き出したナルトに気づいたサクラは、慌てて体を離してその顔を覗き込んだ。
サクラが心底心配していることが見て取れ、ナルトはよけいに辛くなる。
「気分でも悪いの?」
必死に問いかけるサクラに、ナルトは激しく首を振る。
何を言っても泣きやまないナルトに弱り切ったサクラは、閉じられた彼の瞼に口づけた。
頬に、唇に、優しいキスを落として、最期にナルトをしっかりと抱きしめる。
近頃ナルトが何かを悩んでいるということは、サクラも気づいていた。
だが、ナルトは自分からは何も語らず、サクラに出来るのはこうして安心させることくらいだ。「こらこらお二人さんー、もう遅いから、そろそろ家の中に入ってきなさい」
下からは、ベランダに出たカカシのやっかみ混じりの声が聞こえてくる。
サクラや、タルトや、カカシや、これから産まれてくる子供とずっと一緒にいたい。
だが、妖怪で、人を食べずに生き延びられないナルトには、それが無理な願いだということは十分すぎるほど分かっていた。
あとがき??
何だか明らかにサクラの気持ちがナルトに向かっているようですが、母親のような心境なので、恋人面ではカカシ先生を愛しているんだと思います・・・たぶん。
早く終わらせようと思ってせっせと書いているのに、書けば書くほど長くなるというか、全然終わらないので、もう別の話を先に終わらせようかと思いました。(感想文?逆切れ??)
次は金山について書いて、終わり。