異種婚姻奇譚 5


出産間近になったサクラがタルトを連れて人里に行って以来、森での生活は一気に寂しいものになってしまった。
カカシとナルトの二人だけでは会話も長くは続かない。
そもそもサクラに会わなくなってからナルトの口数がめっきり減った。
元気が無く、日がな一日屋根にのぼって人里のある方角を眺めているという状況だ。
物悲しい横顔は、まるで今にも消えてしまいそうに頼りない。
サクラに出会ってから、こんなにも長い間離れているのは初めてなのだろう。
一緒について行こうとしたカカシに、サクラが「ナルトのそばにいてあげて」と言った意味が何となく分かった気がする。

 

 

その日、目覚めたカカシが家の中をうろつくとナルトの姿が無く、屋根の上にもいなかった。
何処に行ったのかと家の周りを歩いたカカシは、日当たりの良い場所にサクラが作った、花壇のそばで蹲っているのを見つける。
ナルトは何か花の種でも植えたのか、両手で土をもっているところだった。
「そんなことしなくても、お前なら妖術で綺麗に咲いた花をすぐに出せるだろう?」
「・・・・うん」
ナルトは花壇を見つめたまま、背後に立つカカシの声に答える。
「カカシ先生が来る前に、サクラちゃんと二人、ここに球根を植えてチューリップを咲かせたんだ。俺、土いじりなんて初めてしたし、花がどうやって成長するかも知らなかった。土に肥料を与えて、毎日水をあげて、害虫を取って、大変だけど凄く楽しかった」
「そう」
「サクラちゃんが帰ってくる頃に咲いているといいけど・・・・」

そして、赤ん坊を連れて帰ってきたサクラに自分で育てた花をプレゼントするのだ。
まだ種を植えたばかりだが、サクラの笑顔が目に浮かぶようで、ナルトは顔を綻ばせた。
妖術で出した物を見るとサクラはそのつど感嘆の声をあげるが、ナルトが自分の力で何かを成し遂げたときの方がずっと褒めてもらえる。
料理や裁縫、その他の雑用の手伝い。
完成した物がどれほど下手でも、サクラは「えらい、えらい」とナルトの頭を撫でて心から嬉しそうに笑う。
サクラの笑顔がナルトは他の何よりも大切だった。

「ナルトは本当にサクラのことが好きなんだね」
「うん!」
振り向いたナルトの笑顔があまりに無邪気だったから、カカシはサクラの気持ちがよく分かってしまった。
こんな風に微笑まれ、心と体全てで懐かれたら、ほだされてしまうのも道理だ。
カカシもサクラへの想いならば負けない自信があるが、不思議と嫉妬心というものが芽生えてこない。
「ナルトは俺のこと、嫌いじゃないの?」
「何で?」
「せっかくサクラや子供と楽しくやってたのに、俺みたいな部外者が突然入ってきて、嫌な気持ちがするじゃない。普通」
きょとんした顔でカカシの話を聞いていたナルトは、すぐに口元を綻ばせる。
「サクラちゃんがカカシ先生のこと好きだから、俺も先生が好きだよ」
「・・・・そっか」
にこにこと笑うナルトの頭に手を置きながら、自分がナルトを好きだと感じるのも、同じ理由かもしれないとカカシは思った。
サクラが幸せに笑っていれば、それでいいのだろう。

 

「ナルト、次に人を食べたくなったら、俺を食べてくれよ」
ナルトと共に、花壇にじょうろで水をやりながら、カカシは小さく呟く。
「サクラや子供達じゃなくて、俺を先にさ」
「・・・・」
見上げると、カカシに明るく笑いかけられた。
ナルトは同じ言葉を以前も聞いたことがある。

サクラとカカシ以外にナルトに出会った人間達は、恐怖に駆られた表情で森を逃げ回っていた。
皆、生きたいからだ。
ナルトとて、死にたくないから、人間を食べて生き延びてきた。
それなのに、どうしてサクラやカカシは自分の身を犠牲にするようなことを簡単に言い出すのか。
このときのナルトにはいくら考えても分からないことだった。

 

 

 

騒ぎが起きたのはそれから数日経った日中だ。
タルトがたった一人で、森の中の家まで帰ってきた。
ひどく泣いていて、体にはいくつもすり傷を作っている。
仰天したナルトとカカシは何とかタルトから話を聞き出そうとするが、舌足らずの子供の口調では状況がはっきりとはしない。
「ママが、ママが・・・」と繰り返すだけだ。
サクラの身に何事か起きたのは確実で、タルトをなだめながら、焦りの気持ちだけが募っていった。

「どうやらサクラは役人に捕らえられたようだな。タルトだけは逃がしたようだけど、身重だと簡単には動けない」
泣き疲れたタルトを何とか寝かしつけ、居間にやってきたカカシは神妙な顔つきで語る。
「森に住む妖怪の縁者だとばれたのか・・・・」
「俺のせいだ。俺が沢山人を殺したから、仕返しをするつもりなんだ。サクラちゃん、サクラちゃんにもしものことがあったら、俺・・・」
「ナルト、落ち着け」
動揺して涙をこぼすナルトをカカシは声高に叱咤する。
「妖怪の仲間として退治されるなら、見つけしだい殺されているはずだろう。でも、サクラは侍に連れて行かれたらしい。それに、金がどうとかって話していたみたいだし・・・・」
「きん・・・・」

ハッとしたナルトを見て、カカシは妖怪退治の任務を引き受けたときのことを思い出していた。
森に入る人間が何人も殺されていたこともあるが、討伐隊を組むことになったのは山から採掘された金が妖怪に奪われていたからだ。
だが、ナルト達の生活ぶりを見ていると、金など全く必要ではない。
役人に捕らわれたサクラはおそらくナルトをおびき出す餌にするつもりだろうが、今は彼女の身の安全を祈ることしか出来なかった。


あとがき??
お、お、終わらなかった。またしても!(涙)
書くたびにいらぬエピソードが増えていきますよ・・・・。
何の伏線もなく、行き当たりばったりで書いているのがよく分かるSSなのですが、大目に見てください。


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