痴人の愛 T


上忍、はたけカカシ死亡。

 

ナルトは中忍としての任務を終え、報告のために立ち寄った場所でそのことを知った。
訃報を聞いてすぐに湧き起こった感情を、なんと表現したらいいのか。
ナルトは自分でもよく分からなかった。
立ち尽くし、息を呑んだナルトに、行動を共にした仲間達は一様にいたわりの言葉をかけた。
彼らは、カカシがナルトにとって、大事な恩師であることを知っている。

慰められ、ナルトはようやく自分は悲しむべき状況なのだと思い至った。
力なく微笑みを浮かべたナルトに、常日頃の陽気な彼を知っている仲間達は痛ましげな視線を向けてくる。
ナルトのそれは、気を回す彼らに負担をかけまいとする気丈な態度に映っていた。

「そのことは、もう皆の間に広まってる?」
ナルトは努めて冷静に問い掛ける。
「いえ。まだ火影様と一部の上忍の方々にしか伝わってません」
伝令者が首を振りながら答えると、ナルトは彼の肩を軽く叩く。
「分かった。ご苦労だったね・・・」

ナルトが自分が意識した以上に、寂しげな声を出すことに成功していた。
周りにいる忍は、口々にナルトに休息を勧める言葉をかける。
ナルトは素直に従い、任務報告を彼らに任せ、一人建物の外へと歩みを進める。

 

ナルトの行き先は決まっている。
カカシの家で、帰りを待っているであろう彼の婚約者。
一刻も早く彼女に、今知ったばかりの情報を伝えなければならない。
カカシの恋人であるその人は、ナルトの下忍時代の仲間の一人。
ナルトにとって、何にも代えがたい、大事な人だった。
そして。

その気持ちは、今も、寸分も変わっていない。

扉を叩くと、彼女はすぐに顔を出した。
忍の仕事を引退した彼女は、この家でカカシと共に住んでいる。
久々のナルトとの再会に、彼女の顔がすぐに綻ぶ。
嬉々とした表情の彼女が何か言葉を発する前に、ナルトはその笑顔を崩す事実を残酷に告げる。

 

「カカシ先生が死んだよ」

 

その言葉がナルトの口から出るのと全く同時に。
目の前の彼女は意識を失った。
腕に彼女の重みを感じて、初めて、ナルトはカカシの死を実感できたような気がした。

 

 

暫らくの間、サクラの混乱状態は続いた。
彼女は昼夜を問わず、寝食を忘れて家の周りをうろつくように歩く。
たぶん、カカシの姿を探して彷徨っている。
かといって、正気を失っているわけでもない。
だが、その方がサクラには幸せだったかもしれない。

任務の合間をぬっては、ナルトはサクラの様子を見に現れる。
悲しみにくれるサクラの心を、少しでも支えたいと思った。
自分を心配し頻繁に姿を見せるナルトに、サクラがようやく笑顔を見せるようになって数日。
思いも寄らぬ情報がナルトの耳に入る。

神はサクラを見捨てなかった。

死んだと思われていたカカシの、奇跡的な生還。
見る影もなく痩せ細り、予断を許さない重症の身だったが、彼は確かに呼吸をしていた。
サクラの喜びは、いかばかりのものか。
ナルトには到底推し量ることはできない。

 

カカシの死を知ったとき、感じたものが何だか、ナルトには分からなかった。
いろいろな。
本当にいろいろな感情が複雑に絡み合っていたから。
だけれど、今度こそ分かる。

本当は、心のどこかで、ナルトが常に望んでいた未来。

カカシの死が誤報だったことを知ったとき、ナルトの胸に渦巻いていたもの。
それは、紛れもなく。

 

大いなる絶望だった。


あとがき??
オムニバス形式の話にしたかったんです。
それぞれ別の話のようで、根っこのところで繋がっているという。
今回はナルトが主役。

次はたぶんハヤテさんか、サクラ。(←後者はともかく、前者は・・・)
書きたかったのは、こっちの方だったりする。
ナルトはおまけ。よって、これだけだと、わけ分からない。


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