痴人の愛 W


結婚の約束をして、私達は一緒に暮らし始めた。

でも、外にいるときと、家にいるときでは、カカシ先生の対応が全く変わった。
カカシ先生が私に笑いかけてくれることもなくなったし、会話らしい会話もない。
先生はいつも不機嫌そうに眉を寄せている。
他の女性の家に泊まり歩くことも多くなった。

きっと、カカシ先生は私を早く追い出すために、そんな態度を取っていたのだと思う。
でも、私はそんなことはどうでもよかった。

カカシ先生が視界に入る毎日。
カカシ先生の身近の空気が吸える生活。
カカシ先生の婚約者という地位。
それだけで、私は満足なのだから。

 

だけれど、そんな私の幸せは長くは続かなかった。

ナルトからもたらされた情報。
カカシ先生に特別Aランクの任務が入った。
生きて帰れるかどうか分からないほどの。

問い詰めると、カカシ先生はあっさりと白状した。
もちろん、私は先生を止めた。
けれど、カカシ先生が私の言葉などを聞くはずもなかった。
忍としての仕事を何よりも誇りに思っている人だ。
そして、火影様を心から尊敬している。
今度の任務は火影様じきじきのお声がかり。

私が死ぬと威しても、今度は聞いてくれない。
私の死よりも、火影様の信頼を失うことの方が怖いから。

私の目の入らないところで、カカシ先生が死んでしまう。
跡形もなく、消えてしまう。
肉塊すら残らないであろう状況を思い描いて、私は恐怖にすくみあがった。
それは、嫌われるよりも怖いことだ。

 

夜も寝ないで必死に考えた結果。
私はハヤテ先生のところに行くことを選んだ。
彼が裏家業でしていることを私は知っている。
夜な夜な毒薬を作っては売っているという噂。
たぶん、それは事実だ。

ハヤテ先生が話を承諾しない可能性を考えて、彼の興味を引くよう毒薬ということにしたけれど、本当は違う。
別に、本物の毒薬でなくてもいい。
身体が少しばかり動けなくなる程度で。
何度かハヤテ先生を呼び出して、正確な薬の分量と、その効果について聞き出した。

無味無臭とはいえ、怪しまれないよう、小分けにして料理に混ぜる。
カカシ先生は何の疑問も持たずに、私の料理をたいらげた。
そうして、計画は成功したと安心した矢先。
カカシ先生がこつぜんと姿を消した。

 

カカシ先生は嘘をついていた。
任務に赴く日付を。
正確には、カカシ先生が私に告げたものよりも、2週間も早かった。
おかげで薬を定められた量の分だけ盛ることが出来なかった。

私は目の前の現実に愕然とした。
カカシ先生が死の確率の高い任務地に向かったことよりも。
何も言わずに出て行ったことよりも。
カカシ先生が私に偽りを告げたことに。

悲しくて、悲しくて、無性にやるせない気持ちになったとき。
逆に私は笑っていた。
可笑しくてしょうがなかった。
私はまだ、心のどこかで信じていた。
カカシ先生の信頼を全て失ったわけではないと。

でも、カカシ先生にとって私は、嘘を教えるほど信用のならない、邪魔な存在だった。

 

笑うだけ笑ったら、最後に涙が出た。
獣のように叫び声をあげて泣いた。
もう、自分で自分の感情がコントロールできないように、私はなっていた。


あとがき??
とんでもなく、暗いですねぇ。サクラ、一人称は失敗です。


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