痴人の愛 X
「このままではもって、半年というところですかねぇ」
窓の外は快晴。
カーテンの開いた窓から直に日差しを浴び、カカシは瞬きを繰り返した。
病院独特の薬品類の香りが鼻につく。
この臭いが嫌なんだよな。
カカシは病院に来るたびに思う。「どうします?」
目の前の、白衣を着た年輩の男性がカカシに問いかける。
カカシには幸の薄そうなしょぼくれたオヤジにしか見えないが、彼は木ノ葉の里、一の名医だ。
その診断に、間違いは万に一つない。「大丈夫ですか」
傍らにいた看護婦が、心配そうにカカシに声をかける。
たぶん彼女の目には、薄笑いを浮かべるカカシが、医師の申告に混乱しているように映ったのだろう。「ああ、大丈夫、大丈夫。ちゃんと聞いてますよ。アンダースタンドです」
ふざけたように言うカカシに、看護婦は僅かに眉をひそめた。
彼女の気持ちは分かる。
だが、カカシは医者の物言いが、ツボにはまって妙に可笑しかったのだ。
人の命のことを、まるで食物の賞味期限のように、軽い口調で言う医者。
彼はただ事実のみを簡潔に述べ、言葉になんら悲愴感を含まない。
場慣れしているのであろう。
さすがはこの年になるまで数々の木ノ葉の忍を診てきただけはある。「仕事を辞めれば、命に別状はないんですけど・・・」
医者はカルテから目を離し、カカシをちらりと見る。
「あなたは、辞めないでしょ」
「ですね」
カカシは笑いながら頷いた。
死に至る病といえど、正式な病名は特にない。
ただ、今まで身体を酷使してきたツケが回ってきただけのこと。
仕事がら、写輪眼を多用し、チャクラを限界以上に捻出してきた。
重傷を負ったことも、一度や二度ではない。
おかげで身体のあちこちにガタがきてる。
医者は穏やかに暮らすことしか治療法はないと言った。
だが、そのようなことは、カカシにははなから無理な話だ。幼き頃より忍の世界に生きてきた身として、忍者であることは、カカシの全てだった。
信念をまげてまで、生きている意味はない。半年。
それが残された寿命かと思うと、さすがに感慨深いものがある。
本当は、もっと早くに来るかと思っていた。
立ち会った、数々の仲間の死の様子が頭に浮かぶ。
生きていれば、自分などよりよっぽど世間に貢献できる者ばかりだった。
自分は長く生きすぎたのだと、カカシはつくづく思う。
「一応、ご親戚の方に報告しておいた方が良いですよ」
あくまで冷静な調子で言うと医者は、仕事は終わり、とばかりに診察室を出ていった。
看護婦がなにやらガチャガチャと医療器具を整理している音が聞こえる。
この場所に来ることは、もうないだろう。
カカシはおもむろに立ち上がると、振り返ることなく病院をあとにした。
帰りの道すがら、カカシは医者の最後の言葉を思い出す。
『親戚の方に報告しておいた方が良いですよ』
もともとカカシに知らせるべき血縁はいない。
ただ、代わりに脳裏をよぎった面影に、カカシは初めて緊張の色を見せた。
死に恐怖を感じたことはない。
だが、自分の死によって彼女が絶望することを思うと、胸に鈍い痛みが走る。
カカシにとって、それは、何よりも怖いことだった。
あとがき??
もう観念しました。もっとあっさり終わるはずが、ここまで長くなるとは。
こうなったら、とことん書いてやる、という気持ちです。でも、たぶん次で最後。(にしたい)
1の時点で結果が分かってるから、あれなんですけど。
最初に思ったのと違う展開になってるし。何だか『さよなら、小津先生』ラスト近くの展開みたくなってるよ・・・。
『ブルー・ブラッド』復讐編みたくしたかったのに。ユージィン=カカシで。(さめざめ)
でも、書いてる身としては、楽しかったです。とっても。
とはいえ、5以降ははっきりいって、蛇足です。本来ないはずのもの。読み飛ばして結構ですよ。