dead man


犬が死んでいた。
公園の隅の草むらで。
日の光の下、無惨にも腐りかけた遺骸を晒している。
何も知らずにはしゃぐ子供達の声が耳に触れ、カカシは微笑を浮かべた。
生の象徴と、死そのもの。
目の前の情景とのコントラストが、何だかおかしかった。

カカシは無造作にその犬を掴み、すたすたと歩き出す。
子供の声がするのとは、反対の方向へ。

公園の出入り口付近にある、ゴミ箱。
近所の住人が捨てていったのだろうか。
いくつものゴミ袋が重ねて入れられている。
その上に、カカシは何のためらいもなく、犬の死骸を放り投げた。

 

命の炎の消えたものは、その瞬間から、ものに変わる。
死んだものは、必要とされない。
いらなくなったものは、捨てられる。
この世の摂理。
それならば。

自分は、どうだろう。
何事にも無感動で。
死んでいるように、生きている自分は。

カカシはふと考えた。
同時に。
自分の背中に向けられている冷たい視線にも。
気付いた。

 

振り向くことなく、気配で分かる。
カカシの生徒の一人、サクラだ。

歩み寄ると、異臭を発するそれを、サクラはゴミの山からかき分けて拾い上げた。
何か大事な宝物を持っているかのように、その手に抱え上げる。
憂いを帯びたその眼差しは、何よりも、多くのことを語っている。
そのまま、サクラは無言でカカシの横を通り過ぎた。

終始、サクラは何も言わなかった。
カカシの顔を見ようともしなかった。
それなのに。

叱られたような気持ちになったのは。
罵られるよりも、心が痛かったのは。

どうしてだろうか。

 

「サクラ」
振り返って欲しく、カカシは名前を呼んだ。
だけれど、まるで聞こえていないようにサクラは歩き続けている。
「なんで何も言わない?」
聞こえていることは確かなのだ。
カカシはかまわず話しかける。

足取りを段々とゆるやかなものにしたサクラは、やがて、ぴたりと足を止めた。
「・・・だって」
しごくゆっくりとした口調で声を出す。
「先生が望んでいるんだもの」

泣いているような声音。
実際に、サクラは肩を震わせて涙をこぼしている。
悲しい後ろ姿。
そして、逃げるようにしてサクラは駆け去った。

 

 

火影に命じられたままに。
カカシは常に、生徒達の導き手であり、良き理解者であろうとした。
一般的に、教師と呼ばれるもののように。
仕事の上でと、割り切って。

教えるべきことを伝えたら、さよなら。
それだけの、表面上の付き合い。
なるべく深い部分には立ち入らないように、立ち入られないように。
そうしたカカシの心情を、生徒達は察していたらしい。
少なくとも、サクラは、十分に理解している。

カカシが、自分の存在を、なかったものにしようとしていることを。
そうすることで、過去の罪から逃れようとしている弱さを。

 

優しいサクラは、あの犬を丁寧に埋葬することだろう。
そう考えた矢先に。
ゴミ箱に捨てられた自分を、サクラが必死に見つけだそうとしている様が頭に浮かび、カカシは苦笑をもらす。

サクラの涙は、果たして、死んだ犬のためのものだったのか、生きて死んでいる自分を哀れんでのものだったのか。
生徒と距離を取ることばかりを思っていたカカシには、分からなかった。


あとがき??
分からないうえに、暗いですね。
『デッドマン』は、ジョニーの映画のタイトル。そのまんま、“死んだ男”。
犬を捨てるカカシ先生は『寄生獣』ですね。

いらないものを全部そぎ落としたら、とっても淡泊な話になってしまった。
この中のカカシ先生は、死ぬために生きてる人です。

犬はそのままカカシ先生を象徴しています。
それを投げ捨てる先生と、拾うサクラ。
いくらサクラでも死を望み、生を望まない人を救う事は出来ません。
果たして、下忍達はどれだけカカシ先生を引き留めることができるでしょうか。


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