ねらわれた学園 4
バスルームから出てきたサクラは、ケホケホと咳払いをした。
それは一度では終わらず、幾度か繰り返される。「サクラちゃん、風邪―?」
「そうよ・・・」
椅子を傾けながら振り返るナルトに、サクラは憮然と返す。
時計の針は丁度21時を回ったところ。
夕食の時間が終わり、自室でのくつろぎの時間だ。
昼間からだるそうにしていたサクラに、ナルトはそれまで気付いていなかったらしい。「俺、風邪ってひいたことないから分からないけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
即答するサクラに、ナルトは不思議そうな声を出す。
「ならさ、カカシ先生の所に行って薬貰ってくればいいじゃん」
無神経なナルトの言葉に、サクラはキッと睨みつけた。
「あんた、情況が見えてないの!!」ただでさえ、カカシとサクラのことは生徒間で密かな話題になっているのだ。
そこへ、サクラが保健室に行ったら、次にどんなことを言われるか分かったものではない。
中にはサクラに妙な色目を使ってくる生徒もいる。
無駄だとは思うが、これ以上目立つ行為は避けたいサクラだ。
「それじゃ私寝るから。ナルト、あんたしっかり勉強するのよ」
厳しく言い渡し、サクラはスリッパをペタペタと鳴らしながら扉付近に向かった。
備えつけの冷蔵庫から取り出した瓶の中身を、サクラは腰に手を当てて飲む。
中身はサクラの大好物であり、風呂上りの定番であるフルーツ牛乳だ。「んっ」
ふいに感じた背中の温もりに、サクラは牛乳をこぼしそうになった。
「・・・なにしてんのよ」
「へへへー」
机に向かっていたはずのナルトが、いつのまにやらサクラの背後にぴったりとくっついている。
サクラが肩越しに振り返ると、ナルトはにっこりと微笑んだ。
「しよっ!」
満々の笑顔で言うナルトに、サクラはあきれ返る。「勉強があるんでしょ。明日から中間試験なんだから」
「だって、我慢できないもん。終わったらちゃんと勉強するから」
ナルトはすねた子供のような物言いをする。
「サクラちゃんの髪、いい匂い〜」
洗いざらしのサクラの髪に顔を埋めながら、ナルトはサクラの腹部に腕を回してくる。「あんたねぇ、私カカシ先生だけで手一杯なんだから。どっか他で・・・」
と言いかけて、サクラは口をつぐんだ。
ここが里ではなく、男子校の寮だったことを思い出したからだ。
この場所で一般生活に必要な全てのものが揃うため、近場の街にいくのに、何時間かかるかわからない。
ガラス瓶を片手にサクラはちらりとナルトを見やる。
主人の命令を待つ子犬のように、きらきらとした瞳のナルトと目が合った。
母性本能の強いサクラは、こうした甘え方をされると弱い。「・・・・ちょっとだけだからね」
サクラはため息をつくと、渋々といった様子で言った。
「うん」
嬉々とした声音で頷いたナルトだったが、同時に、それを遮る第三者の声が耳につく。
「・・・お前ら、いちゃつくなら外でしろ」
「「あ」」
サスケの横やりに、二人は同時に声を出した。
言葉を発さず、気配も消しているためにすっかりその存在を忘れていた。
ついたての向こうとはいえ、サスケのギスギスした空気は伝わってくる。「でも、外っていってもなぁ・・・」
ナルトは窓の外に広がる暗闇に目を向け、途方に暮れたような声を出す。
室内は暖かいが、冬の気温は容赦ない。
サクラは申し訳程度についたての向こうの人物に声を掛けた。
「サ、サスケくんも一緒に、どう?」
「太陽が黄色いわ・・・」
翌朝、快晴の空の下、サクラはげんなりとした表情で顔をしかめる。
対照的に、はるか前方を元気にはね回っているナルトとクールな表情を崩さず颯爽と歩くサスケを、サクラを恨めしげに見た。
「本当。どういうスタミナしてるのよ」
寝不足でサクラの気分は最悪だ。
もともと風邪気味だっただけに、体力はさらに低下している。ふらつく足取りで教室に向かうサクラの肩を、一人の生徒が叩いた。
「おはよう」
振り向くと、寮長であるツグミがいつもの清々しい笑みを浮かべている。
「昨夜は遅くまで勉強してたみたいだね」
「え?」
「部屋の電気がついてたから」
訝るサクラに、ツグミは寮の方角を指しながら言った。
サクラは暗い表情で俯く。
「ああ、そうですね。遅くまで・・・」
歯切れ悪く、意味深に呟かれたサクラの言葉はツグミには通じなかった。「そうだ、これ」
ツグミは鞄を探ると、錠剤の入った小さな瓶を取り出した。
そのまま、サクラに差し出す。
「昨日、風邪気味だって言ってただろ。これよく効くんだ」
「ツグミさん・・・」
サクラはその優しい心遣いにじんとなる。
「あなただけです。私のことを真から心配してくれるのは!」
「ええ?」
涙ながらに薬瓶ごと手を握ってくるサクラに、ツグミは戸惑った顔をして彼女を見た。
まずい・・・。
張り詰めた空気の中、教室では中間試験が行われている。
カリカリと筆記用具の動く音がする中、サクラは目の前の問題用紙、ではなく、睡魔と格闘していた。
朝ツグミから貰った薬を飲んだのだが、どうやらそれは眠気を誘う成分が入っていたらしい。
一時間目、二時間目の教科は何とか持ちこたえたのだが、その日の最終科目である物理のテストの時間に、サクラはとうとう根を上げた。
目の前の記号が踊っているように見える。試験開始から5分が経過した教室で、サクラはガタリと音を立てて席を立った。
「ん、何だ?」
怪訝な顔の教師につかつかと歩み寄り、サクラは解答用紙をバシリと教卓へ置き、ふらりとした足取りで扉へ向かった。
もう、口を開くことすら億劫だった。
サクラの頭には、ベッドで安眠することしかない。
サクラが去った後、私語厳禁の教室内で生徒達は密かに目配せをし、何事かと囁きあった。
三日後の、成績発表。
掲示板には学年トップ10の成績優秀者の名前が張り出される。
一学年、堂々一位を飾ったのは“春野サクラ”の名前だった。
あとがき??
何か、いろいろと問題ありな描写がある話。
分からない人は分からないで良いのです。
下忍三人は徹夜で“ツイスターゲーム”をしていたのだと思ってください。
私の忍者観ってこんな感じなのですが。(数々の時代小説から抜粋して)
ヤバイか。
彼らの慣れてる様子を見る限り、カカシ先生の教育が行き届いていると見た。次こそは、事件の真相に迫ります!(本当か)
続きは、わりと早くアップできるかな。
実はこの4は1ヶ月前に完成していたのだけど、内容が内容なのでずっと発表を躊躇していたという。
苦情来たら、閉鎖だなぁ。