ねらわれた学園 7


目立たないようダンボール箱に入れられ、サクラが運ばれた先は学園の屋上だった。
周囲に同じ高さの建物はなく、屋上へと続く扉の鍵は普段は閉められている。
誰にも聞かれたくない話をするには恰好の場所だ。

「ちょっと、どういうつもり!!」
猿ぐつわを外されたサクラは、正面にいるメジロを怒鳴りつけた。
だが、両手を後ろ手に縛られている状態では、何を言っても迫力はない。
薬を飲んで眠り込んでいるところをメジロのグループに襲われ、サクラはたいした抵抗も出来ずに捕まってしまった。
両手が自由にならなければ印もくめず、術も使えない。
寮の部屋が散らかっていたのは、サクラが逃げようとしたときのなごりだ。

 

「うちのリーダーがお前のこと気に入らないからしめてくれって言うんだよ。まぁ、そういうわけだから、諦めてくれ」
「冗談じゃない!!これまでの自殺事件もあなた達の仕業なの!」
「人聞きが悪いな。俺達はワルだけど、人殺しまではやらないさ」
メジロは含み笑いをしながら言う。
「自殺したくなるような状況は作ったけどな。学園のアイドルには顔に大きな火傷の傷を作った。ガリ勉くんは片目をつぶして、スポーツマンの彼は、一生走れなくなるくらい足をぼろぼろにしてやったんだっけ」
情況を思い浮かべ、顔を青くしたサクラにメジロは満足げに笑った。
「そうしたら、みんな自発的に死んでくれたよ」

「なんてひどいことを!!」
サクラは怒りに燃える瞳でメジロ達を睨み付ける。
「人のことでいきり立ってる場合じゃないだろ」
陰湿な笑いを浮かべると、メジロは周りにいる仲間に指で合図を送る。
「みんな、好きにしていいぞ。保健医と仲良くやってるようだから、きっと楽しませてくれるさ」
「・・・え」
怪訝な顔をしたサクラは疑問を口にする間もなく傍らの生徒に足を払われた。
床に手をつくことも出来ず、サクラは頭をダイレクトに打ち付ける。
「イタッ・・」
顔をしかめたサクラにメジロの子分達が群がった。

「きゃあ!ちょ、ちょっと、やめて!!」
サクラは足をばたつかせて抵抗するが、多勢に無勢。
体格の良い男子生徒、数人掛かりで押さえ込まれていてはあまり意味はない。
「ここにいる奴らにまわされたら自殺もしたくなるだろうよ。ちょうどここは屋上だし、飛び降りるには最適だ」
「な、何よ、それ!勝手なこと言わないでよ、馬鹿!!」
サクラは非難の声をあげるが、子分達に阻まれてメジロ本人の姿は見えない。
「女みたいな声出しやがって」
「保健医に可愛がってもらってるくせにな」
耳もとで聞こえた下卑た笑いに、サクラは身をすくませる。
服の上から身体を撫でられ、何をされるのかが嫌でも分かった。
あまりの恐怖に、声を出すことができない。

「・・・・あれ」
サクラの胸に触れた仲間の一人が、ふいに呟く。
「こいつ・・・女だぞ!」
「え!!?」
その言葉に皆目を見張ったが、下着姿にしたサクラを見れば一目瞭然だ。
未成熟ながらサクラの胸は女子と分かるほどには腫れている。
「どういうことだ」
余裕のある笑みを浮かべていたメジロの表情が、初めて訝しげなものになる。
入学に厳しいチェックのある学園に女が入り込むなど、上の人間が関わっていないことには不可能だ。
戸惑う仲間達を制し、思案顔のメジロは慎重に考えをまとめる。
「・・・もしや学園側が事件を探るために動いているのか」

 

「ご名答―」

 

場違いに明るい声と、軽やかに手を叩く音がメジロ達の耳に届く。

「分かったのなら、さっさとうちのサクラからその汚い手をどけてもらおうかな」
生徒達は一斉にその声にした方角へ目を向ける。
見ると、屋上を仕切るフェンスの上に、ナルトとサスケを従えたカカシが彼らを見据えて佇んでいた。
「お前ら、どうやってここに!」
メジロが驚きの声をあげるよりも早く彼らの姿はその場所から消える。
「ギャアア!」
次の瞬間、数人の生徒が悲鳴をあげ、サクラの身体を押さえていた彼らの手が血に染まった。

「サクラ、大丈夫か」
血の匂いが香る中、痛みにのた打ち回る彼らの傍らで放心状態のサクラにカカシが呼びかける。
「サクラ!」
肩をゆすると、サクラはようやく我に返りカカシを見上げた。
「・・・・先生」
怯えの混じる声のサクラに、カカシは彼女と目線を合わせて優しく頬をなでる。
ゆっくりと瞳に安堵の光が宿り、サクラは涙を滲ませてカカシの胸に飛び込んだ。
「よしよし。怖い思いさせて悪かったな」
カカシの腕の中で、サクラは小さく首を振った。

サクラの手の縄を切り、カカシは屋上の入り口、扉の陰になった場所に顔を向ける。
「そこで見てる君も出てきなさい」
その言葉に、サクラはメジロの仲間の一人がまだ隠れていたのかと思った。
メジロが“うちのリーダー”と言っていたのを思い出したからだ。
そして観念したのか、あっさりと姿を見せた人物に、サクラは目を丸くした。

「ツグミさん?」

 

その人は紛れもなく、サクラが慕っていた寮長、ツグミだった。

「どうして・・・」
「君が先生に手を出したりするからだよ」
呆然とするサクラに、ツグミは吐き捨てるようにして言う。
その意味が分からず眉をひそめたサクラに、カカシがそっと耳打ちする。
「彼ね、俺にファンレターくれた第一号なんだよ。事件には関係ないかと思って黙ってたけど、ビンゴだったのね」
囁かれた声にサクラは驚いてカカシを振り返る。
その様子を、ツグミは憎々しげに見詰めた。

「恥をかかせてやろうと思ってわざと眠くなる薬を渡したのに、君は満点の首席だ。かえって学園での人気もうなぎのぼり。はっきり言って目ざわり意外の何者でもなかったね」
ツグミはサクラを睨んだまま声を荒げる。
「この学園で注目をあびる生徒は一人でいいんだよ!」
瞳をぎらつかせるツグミはいつもの優等生といった雰囲気は微塵もない。
メジロ以上に、凶悪な顔つきをしている。
人の人相というものがここまで変わるものなのかと下忍達は驚愕の思いでその顔を見詰める。

「どうしようもない我が侭坊ちゃんだねぇ」
溜息をつくと、カカシはサクラをナルトに託してテクテクと歩き出す。
「最初は顔に火傷だったけ?」
カカシはメジロとその子分の顔を見渡しながら言う。
「次が目、最期は足」
確認をするように生徒達を順繰りに指差し、カカシは最期にツグミの前で足を止める。
「君にはフルコースだ」
にっこりと微笑んだカカシは同時に両手の指をパチリと鳴らした。

 

それが、幻術の発動する合図。

 

屋上には7班以外の、その場に居合わせた者達の悲鳴が一斉に響き渡った。
人間離れした獣のような咆哮は耳を覆いたくなるような苦しげなもの。
うめく彼らは今、カカシが示した通りに自殺した生徒に与えたものと全く同じか、それ以上の苦痛を味わっているはずだ。

「先生、いいの?犯人が分かっても、傷つけずに確保しろって言われたのに」
「傷はつけてないだろ」
不安げなナルトに、カカシは平然と言う。
「こいつらは直接殺人を行ったわけじゃない。どうせ金の力でもみ消されて法で裁くことが出来ないんだ。これくらいはかまわないさ」
「・・・・術が解けても、まともな日常生活が送れるようになるとは思えないがな」
けして非難する口調ではなく、サスケは淡々と呟く。
彼の視線の先には悶え苦しむ憐れな犯人達。
狂人のように叫び声をあげ胸をかきむしる彼らはすでに正常な思考が出来そうになかった。
カカシのかけた幻術がどれほど強力だったのか窺い知れる。

 

屋上での出来事に気付き、他の者達が騒ぎ出す前に7班は学園から姿を消した。
一切の痕跡を残さずに。

 

 

 

「ようやく終わったねぇ」

いつもの忍び装束に身を包んだナルトは堅苦しい制服を着なくていいことにせいせいしている様子だ。
だが、7班にはすでに新しい任務が入っており、彼らはカリマンタン学園を出てすぐにその場所に向かうことになっている。
「私、もう男子校は嫌よ!」
一番の被害者であるサクラは鼻息も荒く言う。
「あー、大丈夫、大丈夫」
カカシは手を小さく横に振って答える。
「次は聖ガブリエル女学園で潜入捜査だって。もちろん男子禁制。ナルトとサスケには女装してもらうからな」
「「・・・・」」
「ちなみに、俺も女医に変装するから」

サクラとナルトは絶句してしまい二の句が告げない。
目と口を大きく開ける二人の顔に、カカシはくすくすと含み笑いをする。
その楽しげな様子から、下忍達にはカカシが趣味で任務内容を選んでいるとしか思えない。
「・・・・ぶっ殺す」
サスケのどすの利いた声にも、カカシは飄々とした態度を崩すことはなかった。


あとがき??
終わったーー!!バンザイーー!!!
すみませんでしたーーー!!!(いろいろと)
大変でしたけど普段書かないことを書けて、た、楽しかったですーー!!(いろいろと)

どうでもいいけど、ゲストの生徒名は全部鳥の名前。


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