鳥篭の中で
月の明かりも、虫の声も。
何一つ入り込まない静かな寝所。
ネジは用意された夜具の中で何度も寝返りを打つ。
目がさえているのは、ここが宗家の屋敷内であるということが、多大に影響しているようだ。
寝ることを半ば諦めたネジが半身を起こすと、障子の向こうに、何者かの気配を感じた。
息を殺しているようだが、ネジには白眼を使わずとも分かる。「何者だ」
ネジはその気配の主にむかって誰何の声をなげる。
同時に、手は枕下に忍ばせておいたクナイへと伸びた。
静かに身を起こし戦闘体勢を整えるネジだが、視線の先の方角から聞こえてきたのは、幼い少女の声。「ネジ兄さま」
その正体に意表を突かれ、ネジは目を見開いた。
「ハナビ・・・様?」
怪訝な顔で呼び掛けながら、近くにあった灯燭を灯す。
そこにいたのは、確かにネジの6つ年下の従妹、ハナビだった。
ほのかな明かりの中、ハナビの寝着である白い単衣が、目に映える。「こんな夜更けに。何用です?」
眉を寄せて自分を見詰めるネジに、ハナビは頬を緩ませる。
錫を転がすような声音で、ハナビは似つかわしくない単語を口にした。「夜這いです」
目を丸くしたネジは、穴が開くほどハナビを見詰める。
ハナビは少しも目を逸らさず、にこにことした顔をネジに向けている。「・・・戯れ言を」
「戯れ言じゃありません。本気です」
足を踏み出したハナビにネジは反射的に身構えたが、ハナビは構わずに、彼の首筋に手を絡ませる。
「好きです、ネジ兄さま」耳元で囁かれた声に、ネジの体は総毛立つ。
甘やかな声は、とても幼い少女のものではない。
そうした隙を逃さず、ハナビはネジの体を夜具の上へと押し倒した。
自分の単衣の前あわせをはだけさせたハナビに、放心状態だったネジはようやく我に返る。
「な、何を・・・」
「大きな声を出しますよ」
ごく至近距離で、ハナビはネジの瞳を睨め付ける。「抵抗するなら、私、大声を出します。そして、ネジ兄さまにイタズラされたって言います」
「・・・・・」
「この屋敷の中で、私とネジ兄さま、皆がどちらの言葉を信じると思いますか」
真剣そのものの眼差しに、ネジは二の句が継げなくなった。
ハナビの腕をふりほどこうとしていた手からは、自然と力が抜けていく。
ハナビは本気だ。
全てを覚悟の上で、自分の寝所へ赴いた。
それを理解したところで、驚きがあまりに大きく、ネジは思考が上手くまとまらなかった。
そうした間にも、ハナビは横たわるネジへの愛撫を続けている。「・・・あっ」
首筋から胸元へと這ったハナビの舌は、さらに下方へと向かっていった。
初めての感覚に、ネジは自分の体の熱がどんどん上昇していくのを悟る。
このままだと、本当に後戻りが出来なくなる。
「ハナ…」
「ネジ兄さまはじっとしていてくれればいいから」
ネジの言葉をさえぎるように、ハナビは声を出す。
そしてネジの胸に手をつき、ハナビはネジの顔を上から見下ろした。
「だから、私を拒まないで」ハナビは泣いていた。
彼女の心情は、ネジには全く理解できない。
だが襲われているのは自分の方だというのに、どうしてか、ネジはハナビに憐憫の情を覚えた。
幼い彼女が、ここまで追い詰められているという現状に。
それを愛情と錯覚することは、なかったけれど。
自分は宗家という檻に閉じ込められた鳥。
それならば、その鳥に囚われたこの少女は、いったい何と表現すれば良いのだろう。
天井の木目模様を見つめながら、ネジが思ったのはそのことだった。
あとがき??
勢いで書いたハナビ×ネジ。楽しかった。
今回はぶいた部分は「浦の部屋」行きですが。女の子攻めで大人向け。気が向いたらね。私、宗家と分家とか、伝わらない想いという点でネジヒナ&ハナネジを支持していたのですが、実はネジ兄さんのこと、結構好きかもしれない。うーん。
ネジVSヒナタの戦いのときのネジは嫌いだけどね。ねちねちと、小うるさいこと言ってるから。ただのいじめだってばよ。
次はネジヒナでほのぼのを書きたい。