OB2


肩を落として家路についたナルトは、大きな大きなため息をつく。
近頃彼にまとわりついている、ある人物。
里の最高権力者である彼女を相手にあまり強いことを言えず、ナルトはほとほと困り果てていた。

「ナルトー、何か悩み事か?」
「・・・・カカシ先生」
背後から声を掛けられ、ナルトは暗い面持ちで振り返る。
「分かってるくせに」
「ハハハ。あんな美人に付きまとわれて、何が不満なんだよ」
「所詮、他人事だよね」
明るく笑い飛ばされたナルトは、再びため息を漏らした。

今日もたぶんいるだろう。
このところ、家に帰ると必ずナルトに先んじて帰宅を待っている女性がいる。
大家が彼女の味方なのだから、いくら玄関の鍵を変えても無駄だ
任務のとき以外、ナルトの周りには何かと彼女の陰があり、いつ仕事をしているのかとよけいな心配をしてしまうほどだった。
こうもあからさまにアプローチされては、周囲の者も気づかないはずがない。

 

「今日なんて、サクラちゃんに「ツナデ様ともっと仲良くするのよ!」って念を押されたし」
言いながら、ナルトは「ううっ」と嗚咽をもらす。
好いた相手にそんなことを言われては、ナルトも立つ瀬がなかった。
「まぁまぁ。ツナデ様、ちょいと年はくってるけど、綺麗だしスタイルも申し分ないだろ。何が不満なのさ」
「別にツナデのばーちゃんが嫌いなわけじゃないけど・・・・」
「じゃあ、お前の理想のタイプってどんなの」
神妙な顔で訊ねたカカシだったが、それははっきりしている。
ナルトの理想はそのままサクラだ。

「気が強くてちょっと我が儘で、でも可愛くて、本当は優しくて」
「それとツナデ様とどう違うの?」
「・・・・・・」
改めて問われたナルトは、腕組みをして考え込む。
言われてみると、彼女達の性格には共通点が多くあるような気がした。

 

 

「カカシ先生――」
のんびりと歩くカカシを発見したサクラは、身振りで彼にダッシュするように促す。
ナルトと別れたカカシは、サクラとの待ち合わせ場所に直行していた。
おごってもらう約束をしたあんみつ屋の閉店時間を気にしながら、サクラはカカシの顔色を窺う。
「遅かったわね。何してたのよ」
「ちょっと、ライバル減らしを」

 

 

 

ナルトが玄関の扉を開くと、案の定、見知った靴が脱ぎ捨ててあり、中からは人の気配がした。
だが、今日はいつもと勝手が違って、何か焦げ臭い匂いが漂っている。
同時に響いた、悲鳴。

「え、ちょ、ちょっと、ばーちゃん!」
慌てたナルトは脱ぎかけの靴を放り出して声のした場所へと向かう。
キッチンに立っていたのは、ナルトと同じほどの年齢に姿を変えているツナデだ。
お湯の入った鍋をひっくり返したらしく、床が水浸しになっている。
「あつー!!」
「ばーちゃん、早く冷やさないと!」
湯をかぶり、真っ赤になったツナデの腕を取るとナルトは急いで蛇口をひねった。
急速に冷やされていく患部に視線を落とし、ナルトはほっと息を付く。

「えへへ、有難う」
「部屋は好きにいじっていいけどさ、気をつけてよね」
「うん。ごめん」
ツナデから手を離したナルトは怪訝な表情で辺りを見回した。
「でも、この焦げ臭いのはお湯をこぼした鍋とは別のはず」
「あ!!そっち行っちゃ駄目!!」
ツナデの制止を聞かずにゴミ袋を探ったナルトは、すぐさま焦げ付いた鍋を発見した。
底のほうにこびりついているのは、消し炭となった人参の残骸だろうか。

「ほ、ほら、ナルト普段ろくなもの食べてないみたいだからさ。ちょっと料理にチャレンジしようかと思って」
「ばーちゃん、いつも料理してるの?」
火傷した腕を水に浸したまま、ツナデは素直に首を横に振る。
「・・・・いきなり本格的なフランス料理はないんじゃない」
テーブルにある小難しい料理のレシピを眺めながら、ナルトは呆れたように呟く。
「気持ちは有り難いけど、無理して難しい料理なんて作ることないよ。もっと簡単なのからやっていこう。俺も手伝うからさ」
「うん」

満面の笑みを浮かべるツナデを案外可愛いと思ってしまったナルトは、まんまとカカシの術中にはまったことに全く気づいていなかった。


あとがき??
ナルトには、片思いの美学がある。と、思っているので彼がメインだと可哀相な話が多いです。
何より、サクラを好きでないナルトはナルトじゃないと思っているので。
いや、サクラを好きなナルトが好きだからか。
とにかく、そんなナルトと唯一ラブラブになっても許せる女性がツナデ姫なんです。(笑)私の中で。
この二人は共に書きやすいキャラクターなので、すいすい〜と完成。えらいぞ、ナルチョ!大好きだ。

OBに投票してくださって皆様、有難うございました。


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