そばにいる手段

夏の陽射しがとっても暑い。
何でも今年は世界的な異常気象で、暑い時は限りなく暑く、寒くなる時は限りなく寒くなるのだという。
さすがのカカシも暑さにゆだりながら、窓のさんに顎を乗せていた。
「うえ〜、何でこんなに暑いんだろーね」
「先生の家にクーラーがないからでしょ」
キャミソール1枚という、なまめかしい姿でキッチンを動き回るサクラを目の端で捕らえて、カカシはやるせなさそうに息をついた。
「せっかくサクラがいい格好なのに、暑くて襲う気にもなれない…」
「何バカなこと言ってんのよ」
聞こえないように呟いたはずなのに、知らない間に背後に立っていたサクラに、思いきり頭を叩かれた。
「イテッ」
「ったく。仮にも上忍が暑さにゆるくならないでよね」
「いやいや、上忍も人ですから」
ニヤニヤ笑って振り向くカカシに、サクラは顔を歪める。
「何よ」
「サクラってさ。意識してないんだろうけど、嬉しくなる言葉のボケしてくれるよね」
「はあ?」
「俺、暑くて襲う気になれないって言ったんだよ? そしたらサクラは暑さにゆるくならないでって。それって襲ってほしいってことじゃないの?」

ボカッ!

本日二度目の鉄拳をくらい、カカシはあえなく床に撃沈した。
ドスドスと足音を鳴らしながら、キッチンへと戻って行くサクラを見つめて、カカシはくつくつと笑った。
あれだけ怒っていても、彼女は帰ろうとしない。
文句をいいながらも、自分のそばにいてくれるのだ。

以前、長期任務に出た時、サクラのことが気がかりでどうしようもなかった。
自分がいない間に危険な任務に出かけてやしないだろうか。
里が襲われて、怪我なんてしてないだろうか。
サスケやナルトに挟まれて、苦しんでやしないだろうか。
もう、そればかりが頭に浮かんで。
帰って咄嗟にいった言葉にサクラは驚いていたけれど。
黙って頷いてくれた。

 ずっと、そばにいてほしい。

サクラは時間があれば、カカシのそばにいるようになった。
友達と話したい時は、わざわざカカシの家に呼んだりもする。
とにかく、なるべくカカシのそばを離れないように考えてくれている。
今日も、もうすぐ、いのとヒナタが遊びに来るのだという。
サクラの家じゃないのに招待なんておかしい、といのに散々言われたらしいが、結局は来ることになったのだそうだ。

しばらくしてインターホンが鳴り、来客を告げる。
サクラはパタパタと楽しそうにドアに駆け寄り、「はいは〜い」なんて可愛い声を出している。
「「こんにちはー」」
「いらっしゃい!」
ドアを開けて、二人を部屋に招き入れるサクラの背中を見つめて、カカシは床に座ったまま、ボソリと呟いた。

「ねぇサクラ。一緒に住まない?」

ニッコリと笑ったカカシに、絶句するサクラ。
顔を赤く染めて手を取り合うサクラの友人、約2名。

だってねえ。
招待するのに自分の家じゃなきゃならないのなら、サクラの家にしてしまえばいい。
一緒に住んじゃえばサクラも気兼ねせずに済むし、俺も家に帰さなくてもいいわけだ。
もっともっと、サクラと一緒にいられる。
ずっと、サクラをそばから離さずにいられる。

カカシは笑顔のままで、固まったままのサクラを見つめた。
いのとヒナタは、頬を染めたまま、楽しそうにサクラの様子をうかがっている。
やがて、サクラは何とか動きだし、まずは隣に立っている友人をすがるように見た。
いのにヒジで突かれて、サクラはやっとカカシに視線を向けた。
「あの…、えっと……」
いつもヒナタがしているように、指を胸元でグリグリと回して、答える言葉を探しているようである。


「……クーラー、つけてくれるなら…」




おわり


アヤノのあとがき

暑いですよね〜。
携帯用ベープマットが今年登場しました。
ミニミニ扇風機はすでに出回っていて、イベントではよく見かけます。
じゃあ、じゃあ、携帯クーラーはいつ?!
ずっと前から、携帯クーラーを夢見ているアヤノです。
クーラーは暑い都会では必需品ですよ!! ねっサクラ!
(2003.8.6)

アヤノさん&モコさんのサイトの1万打記念フリーSS。
・・・あの、「ずっと、そばにいてほしい」ってのは、世間一般的に、プロポーズじゃないんでしょうか。
そうですよね。そうですよね!
文句を言いつつもカカシ先生に従っているサクラが、なんともアツアツです。(笑)
私もいのかヒナタちゃんになって二人の愛の巣にお邪魔したいです!!ええ!
ああいう言葉をあっさりと言っちゃうあたり、カカシ先生は大人でいいですね。
カカシ先生、サクラのためならクーラーどころか劇的リフォームお家改造をしてくれそうです。サクラも涙です。

アヤノさん、有難うございました。


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