上手に花を咲かせましょ
「カカシ、め・・」
「はいはい、さよーならー」
飯でも食いに行くか?と尋ねようとしたのに綺麗に避けて、カカシはさっさとアスマの横をすり抜ける。
ここのところ、毎日こうだ。
カカシは任務が終わるとスピーディに完璧なまでの事後処理を施し、さっさと上忍部屋をでていってしまう。
その原因をしっかりと知っているアスマだから、ただため息をつくだけのことだが、事情をまったくしらない奴らはそういうわけにもいかなくて。
「おい、カカシ。おまえ一体どうしたんだよ」
「どうしたって…何が?」
行く手を阻まれ、ようやっと立ち止まったカカシに、同僚の上忍たちは顔を見合わせた。
「この頃、おまえどうしてそんなに早く帰るんだ?」
「そうよ、いっつものんべんだらりとしてたあんたが」
「イチャパラ読まずに仕事してるだなんて、なにかの前触れのようで怖いんだよ、こっちは」
すばらしい彼らの自分に対する認識を聞きながら、カカシはニコリとお得意のわざとらしい笑みを浮かべる。
「んー。知りたい?」
知りたい!と間を持たず返ってきた答えに、カカシはあいかわらず上機嫌のままピッと人差し指を立て見せた。
「水遣りしたり、肥料やったり、害虫駆除で忙しいんだよね」
「は・・・?」
「それに俺が疲れきってるときに、一番癒してくれるものだから。大切に育てなきゃ」
何が言いたいんだ、こいつは。
全員がそう思っているというのに、カカシはそのまま笑顔で印を組む。
「ってわけで、皆さん、また明日ぁ」
ドロン…と白煙をむくむくと巻き上がらせ、カカシは姿を消した。
「いったいなんだって言うんだよ。あいつ」
「あの言いようじゃ、なんか花でも育ててるのか?」
「あのカカシが?」
「・・・・」
腑に落ちない仲間達をちらりと見やり、アスマはひっそりとため息を吐いた。
「そういうおまえも、はたから見たら害虫だろうが」
「先生、今日も早いのね!」
感心した声をあげるサクラは、読んでいた本を閉じた。
「そりゃーね、外でサクラ一人を長い間待たるわけにはいかないでしょ」
ニコニコとカカシは笑ってサクラの頬を撫でた。
くすぐったそうにサクラは身を捩じらせ、はにかむ。
その様に、カカシの笑みは更に深くなっていくことを、サクラは知らないだろう。
(可愛いねー、ああ、本当に)
「食べちゃいたいくらい」
「…?何を、食べるの?」
キョトンとして尋ねられて、ようやく自分が口に出して内心を吐露していたという間抜けな事実に気付く。
だからといって、決してただでは転ばない。それがはたけカカシ。
「ん?いやね。サクラ、お腹空いてない?」
「え?うーん、そんなこと…」
キュルキュルキュル…
可愛らしい体の泣き声が二人の間にこだまする。
サクラはお腹を押さえて真っ赤に染まった顔を俯かせた。
笑っちゃいけないと思いつつも、ついつい吹き出してしまったカカシに、サクラは赤い顔でこちらを睨みあげた。
「笑うなんて!先生、ひどいんだから!」
「あはは、ごめんね。あまりにもサクラのお腹の音が可愛かったものだから」
「うるさい、うるさい!!」
恥ずかしさから瞳を潤ませポカポカとカカシの胸めがけてこぶしを何度も振り上げる少女は、文句なしに可愛らしかった。
緩む頬を上手に引き締まらせ、カカシはサクラの頭をよしよしと撫でてやる。
「そうだ、サクラ。今から俺の家おいでよ」
ポイントは、あくまでさりげなく、やる気なく言うこと。
これが結構一苦労だ。
「え、先生の家?」
「そ、俺の家。なんか作ってやるよ。何がいい?」
「んー…じゃあねじゃあね!ラザニア!!」
「ラザニア、ね。了解!でも、あれちょっと時間かかるぞ?」
いいの?お腹の虫さん、またなっちゃうよ?
ニヤニヤしながらそう言うと、サクラの頬がむっつりと膨れていく。
おやおや、ちょっと苛めすぎたかな?
内心ヒヤヒヤしながらも、サクラの表情がクルクル代わっていくさまはなかなか楽しいものがある。
もっと、いじめてみたい。
その泣き顔を見てみたい。
感情だって煽ってみたい。
怒り狂う様も、サクラならきっと綺麗。
そして、何より。
俺に向かって、もっと微笑んで?
それが何より、俺の幸せ。
「じゃあラザニアはやめて、パスタがいいな!松の実も入れたぺペロンチーネ」
「はいはい。じゃあスーパー入って一緒に買い物してから帰ろうな」
さりげなく、すっとサクラの手を包み込むと、少女は驚いたのか瞳を大きく見開きこちらを見やる。
それから、白磁の肌を薔薇色に染めて笑ってくれた。
「うん。帰ろう、先生」
笑顔が眩しいって、比喩じゃなかったんだ。
サクラを見ていると、つくづくそう思う。
(その顔、最高だね)
瞬間瞬間にはっとした表情を見せるサクラ。
そして、自分でも気持ちが悪いと思うほど、自然とニコニコ微笑めるのは、目の前のサクラのおかげ。
毎日毎日、サクラは違う表情をして、カカシの前に現れる。
それを見逃したくなくて、めきめきと美しく逞しく、時には儚く成長していく彼女を一番間近で見届けて生きたい。
これからも、ずっと。
毎日、毎年、幾十年を経たとしても、いつでもサクラのその笑みが耐えないように。
俺は全力を尽くして、サクラの隣にいれるようにがんばりましょう。
カカシはクスリと笑いながら、サクラを見つめた。
「はーい、皆さん、さよーならー」
今日も今日とて、はたけカカシは短時間で仕事を終えて上忍待機室を後にする。
扉に手をかけたカカシに、戯れとばかりにアスマが声をかけた。
「よぉ、カカシ。花の育成の調子はどうだ?」
「絶好調だよ。もちろんはじめっからそうだけど、この頃特に綺麗になってきて。毎日うっとり眺めてるうちに、時間が過ぎちゃうんだよね」
幸せそうに微笑むカカシを見やって、もう苦笑さえもでないアスマの代わりに何も知らない上忍が言葉を連ねた。
「そんなに綺麗な花育ててるのか?俺にも今度見せろよな」
「それはできないね」
間髪いれずにカカシは不満顔の男に言い返した。
「俺だけが見つめていい、特別な花なんだから」
誰にも、見せてはやらないよ?
そのまま扉を開けて出て行ったカカシを、やはり仲間達は呆然と眺める。
カカシに花を見せてくれとせがんだ男が、平然と煙草をふかすアスマに声をかけた。
「おい…」
「なんだ?」
「おまえ、あいつが何の花育ててるか知ってるんだろ?」
「さぁ?」
軽く肩をすくめると、男はアスマの腕をゆさゆさとゆすって扉を指差した。
「教えろよ!殺気出してまで警告するって、いったいどんな花なんだよ!?」
鮮烈な殺気を一身に浴びたこの男には悪いと思いながらも、アスマだって自分の身が可愛い。
明確な答えを差し出す代わりに、ゆっくりと煙草を吹かせニヤリと笑った。
どんな花だ?
そんなこと、言わずとも知れている。
「カカシの愛情を一心に注がれた、小さな花さ」
Fin .
カカサクといってるわりには、アスマが最後しめちゃってます。カカシ先生が異様にサクララブになってしまいました。まぁ、それもまた彼の本望でしょうと勝手に決め付けましょう。あなたの笑顔が絶えないように、いつでも微笑みがあなたの顔にあふれていますように。あなたを私はずっと見守っています。…という、ムッターからこの作品を読んでくださる皆様へわりと照れくさいメッセージを作品にこめてみました。 |
ムッターさんから頂いた、カカサクSS。
一周年記念、おめでとうございます!!
今回はカカサクを頂いてきましたが、ゲンヒナ、アスいの、ガイテンも大好物です!アスマ先生、結構キザだなぁと最後の台詞で思いました。(笑)
サクラが大事にされている話は、読んでいるこちらも顔が綻んでしまいます。
幸せな気持ちにさせて頂いて、本当に感謝です。
そばで見守ってくれている先生がいるからこそ、サクラも美しく開花していくのでしょうね。ムッターさん、有難うございました!