4.ラブの押し売り

 

最初に変化に気づいたのは、一番身近にいるナルトだった。
毎日断られても、サスケに手作りの弁当を持ってくるサクラ。
しょんぼりと肩を落とすサクラに気を遣ったからというわけではないが、用済みの弁当の処理をするのはナルトの役目だった。
サクラの弁当が食べられるのは嬉しいけれど、サスケのために作ったものだと思うと、切なくなる。
そして、7班として活動し始めて二年が経つ頃には、ナルトの出番はなくなっていた。
不本意そうではあるが、サスケはきちんとサクラの弁当を受け取っている。
サクラの弾けんばかりの笑顔は、正当な相手にだけ向けられるものとなった。
彼女に対して自然と笑みを返すようになっていることを、本人は分かっていないのかもしれない。

 

 

「ちょっと、邪魔しないでよ!!」
「あんたこそ!!!」
いのとサクラは道端で人目も気にせず激しく言い合っている。
原因といえば、決まっていた。
彼女達が張り合うのは、いつだって共通の思い人であるサスケのことだ。
彼は今日、風邪をひいて家で寝込んでいる。
その看病をどちらがするかでもめているのだ。

「ナルト!!」
「はい、はい・・・」
厳しい眼差しのサクラに合図され、ナルトは仕方なくいのを羽交い絞めにする。
「お先に失礼!」
「ああーーー!!待ちなさいよーー!」
駆け出したサクラは一直線にサスケの家へと向かった。
いのは自分の背後で足止めをしているナルトを睨みつける。

「あんた、サクラのこと好きなんでしょ!邪魔する相手が違うじゃない」
「そうだね」
腕を振り払われたナルトは困ったように笑って言う。
「でもさ、サスケはサクラちゃんのこと嫌いじゃないんだ。お互い思い合っているなら、俺達が騒いでもしょうがないよ」
「・・・・・」
「いのだって、気づいているだろ。サスケが変わってきていること」
「あんたはそれでいいの!!」
諭すように話しかけるナルトに、いのは声を荒げて反発する。
だが、ナルトの表情はどこまでも穏やかだ。
「サクラちゃんは本当にサスケのことが好きなんだ。サスケはライバルだと思っているけど、悪い奴じゃない。それなら、俺が口出ししなくても大丈夫だろ」

 

諦めることが出来るくらい、サクラを愛している。
それがナルトの愛情表現なのだろう。
だけれど、いのはそんなことで納得できなかった。

「私、あんたみたいな軟弱な奴、大嫌いよ!」
はき捨てるように言うと、いのは体を反転させて歩き出す。
もちろん、サクラのあとを追いかけるために。
「あんまり悪さしないようにね」
にこにこと笑って手を振るナルトだったが、いのは振り返らない。
それほどまでに思ってくれている人がいるサクラが羨ましく、また彼の気持ちにちっとも気づいていないサクラが憎らしかった。

ナルトの笑顔を見て涙が出そうになったのは、同情したからだ。
報われない片思いを大事に大事に抱え込んでいる、彼に。