5.沈黙の薔薇
「あんまり見つめられると、恥ずかしいんだけれど」
「・・・・先生ってば、乙女ねぇ」ベッドの上で仰向けに寝転がるカカシに乗っかり、サクラはその瞳を覗き込んでいる。
二人きりのときにしか見られない、カカシの素顔。
医療術を使えばすぐに消えるのに、カカシはあえてまぶたの上の傷を残していた。
自分に対する戒めとして。
その経緯はサクラが訊かないから、言わない。「先生の写輪眼って、子供とか孫にも遺伝するの?」
「しないと思うよ。後天的なものだから、俺一代で終わり」
「ふーん・・・・」
カカシから目をそらしたサクラは、青い空が広がる窓の外をぼんやりと眺めた。「残念」
時刻は昼すぎだ。
昨夜は遅くまで睦んでいたせいで、目が覚めなかった。
腹は減っているし、喉も渇いている。「・・・何か、作ろうか」
ようやく体を起こしたサクラは、乱れた髪形を整えながら言う。
「材料、何かあったっけ?先生、やっぱり和食がいいの?」
「パンを焼けばいいよ。それより、残念って何が?」
折れそうに細いサクラの手首を掴むと、カーテンの隙間から差し込む光に、彼女は目を細めて笑った。
柔らかく微笑むサクラがあんまり綺麗だったから。
答えは聞かない方が良いと思った。今はもういない、サクラの思い人との唯一の共通点。
「俺のこと、好き?」
寝室に取り残され、左目を押さえるカカシは一人呟く。
彼女がいてもいなくても。
返ってくるのは、ただ沈黙。