9.笑う病気みたいに(sick'opanic laught

 

慰霊碑の前までやってきたサクラは、長い間その場で立ちつくしていた。
ツナデのもとで修行を初めてから数ヶ月経つ。
呑み込みが早いと褒められ、増長していたのかもしれない。
ツナデやシズネの留守中、運び込まれた怪我人。
サクラには助けることが出来なかった。

 

 

「・・・・先生?」
背後の気配を察したサクラは、彼が声をかける前に振り返る。
「久しぶりー。そういえば、先生も毎日ここに来てたのよね」
「ああ」
にこにこ顔のサクラに歩み寄ると、カカシは困惑気味に彼女を見下ろした。
「何?」
「泣いて・・・いるのかと思ったから」
「私は泣かないよ」
ハンカチまで用意していたカカシに、サクラはくすりと笑う。
「忍びは感情を表に出してはいけない。先生だって知ってるでしょう」
「ああ、そうだな」

事情はツナデから聞いていた。
ツナデがその場にいたとしても、どうしようもない傷だったらしい。
怪我の治療に失敗した彼女を責める者もいなかった。
それでも、サクラはこうして毎日故人の墓参りを続けている。
彼女を励まして欲しいと頼まれたカカシだったが、こうして明るく微笑まれるとどうしていいか分からなくなった。

 

「・・・・サスケくんに、言われたんだ」
「えっ?」
サクラと同じように慰霊碑を眺めていたカカシは、傍らへと目を向ける。
「「お前が泣くと、こっちまで悲しくなる」って。だから、私はずっと笑顔でいなきゃいけないと思ったの。サスケくんがいなくなったときは、また泣いちゃったけどね」
顔を上げたサクラは、先程と同じように微笑んでみせる。
「でも、もう平気よ」
両方の掌を握って元気であることをアピールするサクラに、カカシは苦笑する。
そして、彼女の頭に手を置きながら言った。
「俺は、泣いたり笑ったりしているサクラが好きだったよ」

サクラの顔から笑みが消えたのは、その一瞬だけ。
馬鹿みたいに笑うサクラはよけいに痛々しく見えて、急に、サスケへの怒りがこみ上げてくきた。
サクラの涙も、本当の笑顔も、彼が持っていってしまったのだ。
本人も、そうと気付かないうちに。

戻る日は来ないのかもしれない。