8. 寂しいのは貴方が側に居ないから(Our song)
任務中、カカシが手足に怪我をした。
入院するほどでもないが、当分は絶対安静だ。
そして、サクラは呼ばれもしないのに毎日見舞いに行った。
一人暮らしのカカシが自宅療養で苦労するのは、分かっていたから。汗くさいパジャマを洗って、食べるものを用意して、埃のたまった部屋を掃除する。
まるで、先生の奥さんになったようだとサクラは思う。
カカシはそんなことはしなくて良いと言ったが、彼が怪我で動けないのを良いことに、サクラはその家に入り浸っていた。
上忍で多忙なカカシが、家にじっとしていることなど滅多にない。
彼を独り占めできる絶好の機会だ。
怪我が完治するまでの数週間、サクラは生徒思いのカカシの優しさを存分に利用した。
「もうすっかりいいみたいね・・・」
サクラが隙を見て投げたクナイを、カカシは右手で掴んで振り返る。
左手に持ったカップはそのままで、中のコーヒーは一滴もこぼれていない。
「ハハハー、サクラってば、物騒な確認の仕方だなぁ」
「だって、本気で投げたんだもの」
苦笑するカカシに、サクラも笑いながら答えた。
笑顔を一瞬にして戸惑いの表情へ変えたカカシに、サクラはさらに口元を綻ばせる。「先生の怪我が治らなければ、ずっと先生のそばにいられるかと思ったんだけれど・・・・でも、駄目ね」
ポケットを探ったサクラは、それをカカシへと差し出す。
ピンクの子豚のキーホルダーが付いた、カカシの家の鍵。
怪我のためにいちいち玄関まで出ていくのが辛いという理由で渡された物だ。
だが、今のカカシを見れば、サクラが持っている意味はない。
今日明日にも、カカシは仕事に復帰するはずだった。
「・・・いればいいんじゃないの」
サクラの掌の上にある鍵を眺めて、カカシはぽつりと呟く。
「そのキーホルダー、サクラに似てると思ってくっつけたんだよ」
「え」
「最初からサクラにあげるつもりだったんだ」
にっこりと笑ったカカシはサクラの頭を軽く叩いた。
カカシの言葉を頭の中で反芻したサクラは、その意味を呑み込むなり顔を赤くしていく。「に、似てないわよ!!こんなにころころ太ってないでしょ」
「そうー?」
「先生、ひどい!!」
激しく憤慨するサクラをカカシは笑いながら抱きしめる。
重要なのは後半の部分だったのだが、サクラの怒りはなかなか静まらない。
一人きりの寂しい部屋には、もう戻れそうもなかった。