9. 二度と振り向かないように(Castle・imitation)

 

 

「いっそ死んでくれれば良かったのに」

 

 

様子を見にやってきた医者は、患者が眠っていると思ったのか、ストレートな気持ちを声に出した。
いや、起きていることを知っていたから、言ったのかもしれない。

慣れている。
里に住む誰もが、心の中で思っていることだ。
もっとひどいことは何度も言われてきた。
自分に強く言い聞かせながら、ナルトは必死に歯を食いしばる。
彼らが部屋から出ていく前に、泣き出すのは絶対に嫌だった。

 

風邪をこじらせて肺炎になったナルトが入院したのは、アカデミーに入る少し前のことだ。
病室は建物の一番奥にある個室。
身よりのない彼が特別待遇なのは、誰も相部屋になりたがらないから。
どの親も、自分の子供が彼と同じ場所にいることを嫌がった。
何様のつもりで、ここにいるのか。
医者も看護婦も患者も見舞いに来た人間も、廊下ですれ違うたびに、目がそう言っている。

いつになったら死ぬのか。
それだけは、唯一、彼らと同じ願いだろうか。

 

 

 

「起こしちゃ駄目よ」
「でもー、苦しそう・・・」
ぺたぺたと、自分の頬に小さな手が触れているのを感じる。
泣きそうな声に反応して、ナルトは瞳を開けた。
「ナルト!」
心配そうに覗き込む緑の瞳が最初に見えて、ナルトは一瞬自分がどこにいるか分からなくなる。
天使がいるのだら、天国なのかもしれないと思った。

「ナルト、お粥出来てるけど、食べられそう?水枕も変えようか」
「・・・・サクラちゃん」
曖昧な記憶の中で、ようやくその名前が口から出る。
すると、天使だと思った少女は彼女の娘だ。
「うちに来てすぐに、熱出して倒れたのよ。風邪だから、暫く安静にしていれば治るって」
「そう・・・。迷惑かけちゃったね」
「何言ってるのよ。ナルトは一人暮らしなんだから、ここで休んでいた方が私の目だった届くでしょ」
病だというのに気を遣っているナルトに、サクラは呆れながら言う。

「小桜ってば、風邪がうつるといけないからそばに寄らない方がいいって言っても、絶対に離れないのよ」
いつも元気なナルトを見慣れているせいか、小桜は不安でたまらないようだ。
「早く良くなってね」
見つめる瞳は、夢に出てきた人達とはまるで違う。
病院で辛らつな言葉を聞いたときは、涙を堪えられた。
全然状況は違うというのに、今度は我慢出来そうもない。

 

「ど、どうしたの!?」
唐突に涙をこぼしたナルトに、サクラも小桜も慌てふためく。
ナルトが泣く理由が、二人には全く分からない。
「・・・・嫌な、夢を見たんだ」
「夢?」

夢にしてしまいたい、暗い過去。
戻ってこられて、良かった。
小桜の小さな手を握りながら、ナルトは心の底からそう思う。

 

死を憧憬していたのは、遠い昔のこと。