■水色エマージェンシー

 

視界が真っ赤に染まった。
兄に背中から切りつけられたサクラは、ゆっくりと前のめりになる。
倒れたサクラの体からは血が噴出し、地表にはあっという間に赤い泉が出来上がった。
鼻に付く独特の香り。
幻術ではない。
本物の、サクラだ。

その瞬間全てを忘れた。
兄も、復讐も、何もかも。
喉の奥から発せられた叫びは人の言葉になっていない。
駆け寄ったときにはサクラはすでに事切れていた。
即死だ。
「俺を憎め」
すぐ傍らにいるというのに、兄の声はひどく遠くから囁かれたようだった。