君はとてもとても『          』だから





















+bad good boy+





















『バカナルト!!』

『ごごご、ごめんってばよサクラちゃん!』

『ウスラトンカチ』

『んだとーっ!?』

『ほんとのことでしょ!?』

『ハイ…』

聞き慣れたやりとり。
懐かしさを感じると同時に、ほんの少し脱力した。
うなだれるナルトも自分もサスケくんも、飄々といつも任務を見守っているはずのカカシ先生までも、皆全身ずぶ濡れだった。

『俺ってば絶対見つけるから!』

ナルトはどうしてあんなに必死だったのかしら。
何を探そうとしてたの?
それから先は何故だか声が遠のいて、ナルトの言葉は結局思い出せなかった。





















「っていう夢をみたんだけど、何を探してたの?」

マグカップを差し出して、ずいとナルトに詰め寄ってみる。
あまり大きくないソファは二人掛けするには小さくて、私は空いた椅子を引っ張って来てソファの隣に腰掛けた。
当然ナルトは困ったように首をかしげ、助け船を求めるように膝の上の子猫の喉をゴロゴロとくすぐった。

「何か任務中に無くしたんじゃないかな?」

俺ってばよく家の鍵とか落としてたし、とナルトは苦笑する。

「でもすごく必死だったのよ」

「じゃあサクラちゃんの物を無くしちゃったのかなぁ…?」

ごめんね?と少し気まずそうに私の顔を覗き込むナルト。
膝の上の子猫が、それに同調するようにニャアと鳴いた。

「別に怒ってるとかじゃないのっ」

おでこをぴんと人差し指で弾くと、ナルトは子猫と顔を見合わせるようにして笑った。
ソファに座っていても、当時と身長差が違うのは容易にわかる。
でも、違ってきたのは身長差だけじゃない。
ナルトはいつの間にか余裕というものを身につけたし、私も優しさを昔より素直に表せるようになった。
これは成長という名の当たり前の変化。
それは分かっている。
分かっているけれど。
それでも、ナルトの変化がやっぱりほんの少し悔しい。

「早くしないと冷めちゃうわよ」

「えと、じゃあいただきます」

多少拗ね気味にそう言ったのに、何が嬉しいのか、ナルトはにこにこと手元のカップに口を付ける。
ホットミルクの入ったマグカップはほかほかと湯気を立てている。
私のマグカップだから、色は薄いピンクで桜模様。
その可愛さが妙にナルトとマッチしていておかしかった。

「髪もちゃんと乾かしなさいよ?」

子猫を先にタオルで拭いていたせいで、ナルトの髪からはまだ時折水が滴り落ちた。

「サクラちゃん、ちょっとコイツ預かってくれる?」

ナルトから子猫を手渡され、同じように大事に自分の膝の上に下ろす。
ナルトはタオルで髪をガシガシと拭き、横目でチラリとこちらの様子を窺う。

「なぁに?」

同じように子猫と戯れながら首をかしげると、ナルトはにへらっと締まりのない笑顔を見せた。

「昔のこと思い出した〜」

にこにことナルトは笑い、タオルを頭に中途半端に巻いたままボスっとソファに倒れ込む。
その頭をタオルで拭きながら撫でてやると、ナルトは満足そうに微笑んだ。

「俺さ、サクラちゃんのそういうとこ昔から好きだよ」

「私はあんたのそういうとこあんまり好きじゃないわ」

昔はもっと照れたりして可愛げがあったのに…、と恨めしげにいうと、ナルトは少し驚いたように笑った。

「俺ってば昔も好きだっていつも言ってたよ?」

「でもなんか変わったわ」

「そうかなぁ?」

「なんか口説き慣れしてる感じで可愛くない」

するとナルトはまた笑い、ゴロンと仰向けになって穏やかに私を見た。

「サクラちゃんの方が変わったよ」

「どこが?」

変わらないわね、とイノには良く言われる。
それにさっきの拗ねた行為にしろ、子供っぽさに対する自覚があるものだから言葉の意味がいまいちよくわからない。

「誰に対しても平等に優しくなった」

「失礼ねっ。私は昔から優しいわよ」

「区別が無くなったんだよ。好きだから優しくするとか、親しいから優しくするとか、社交辞令として優しくするとかのさ」

今度はナルトが拗ねているようだった。

「それでどうしてナルトが拗ねるの?」

「特別感が無くなるから」

「特別感?なぁに言ってんだか。私の一番がナルトだなんて言った覚えはありません!」

「それは知ってる。でも俺はある意味一番よりも特別でしょう?」

私の軽いセリフを見透かすように、ナルトはにやりと笑う。

「それに、サクラちゃんこそモテ慣れしてて面白くないんだけど」

「記憶にございません」

茶化して躱してはみたけど、まぁ多少はそうかもしれない。
でもナルト程じゃない。

「毎晩違う女の子を部屋に連れ込んでるのばどこの誰?」

「記憶にございませーん」

そのセリフに呆れたように溜息を吐き、再び子猫に視線をやる。
安心しきったのか、子猫は寝息を立てていた。

「良いなぁ」

体勢を変えて俯せになり、ナルトは恨めしげに子猫をつつく振りをする。

「羨ましくって腹が立つ」

俺にも膝枕、と催促する仕草が妙に慣れた感じでこっちこそ腹が立つ。

「この子を拾って来たのはナルトじゃない」

わざとより一層大事そうに子猫を撫でると、ナルトは少し真顔になって目を伏せた。

「そうだけど、でも独りは寂しいし」











『独りは寂しいんだってば…』











「思い出した!!」

急に叫んだ私に驚いて、子猫は慌てて膝から飛び降りた。
ナルトはそれを捕まえて、よしよしとあやす。

「どしたの?」

「夢の続きの話」

ごめんね、と子猫の頭をひと撫ですると、子猫の代わりにナルトが大丈夫だよと笑った。

「あの日もナルトは子猫を拾って来たのよ」











そう、拾ってきた。
いや、連れてきてしまったんだ。











『誘拐よ!誘拐!!!』

『馬鹿が…』

『返しにいくぞ、ナルト』

当然私は怒ったし、サスケくんもイライラと吐き捨てた。
先生も呆れたように溜息を吐いたけれど、ナルトは首を縦には振らなかった。

私たちは雨の中ずぶ濡れになって子猫を探した。
別件で依頼のあった家の子猫を任務中に逃がしてしまったから。
その家はものすごい豪邸で、確か任務は家の中の大掃除だった。
その家にはいかにも血統書付といったペットが何匹もいた。
そんな中に雑種のような白地に茶色の子猫が一匹いたものだから、私たちは首を捻った。

『買い取った時には真っ白だったんですよ。私はある珍しい品種の猫を探してましてね、その種だということで買い取ったんですが…。まぁなんていうか、騙さ れたんでしょうな』

家の主人はそう言って、忌々しそうに子猫を見下ろした。

その猫が、いなくなった。
多分掃除の最中に抜け出してしまったんだろう。
だから任務後すぐに外に飛び出した。
別に猫のことは頼まれたわけでは無かったけれど、私たちは窓を開け放していたし、それで子猫が外に出てしまったんじゃないかと思ったからなんとなく後味が 悪かったんだと思う。
外は雨で、ただ単に心配でもあった。
なのに、その子猫を外に連れ出して、森の中にあった古びた小屋の中に隠していたのは他でもないナルトだった。

『家の人も心配するだろ』

先生がいくら宥めるように優しく言っても、ナルトは子猫を抱き締めたまま首を横に振り続ける。

『勝手に家族から引き離すなんて可哀相じゃない!』

『テメェの我儘に付き合わせんな、ウスラトンカチ』

『だって!!!』

初めてナルトが口を開いた。

『だって、あそこんちはコイツを必要としてないってばよ…』

ぎゅっと子猫を抱いて放すまいとしゃがみ込むナルト。
子猫を何と重ねているのか、誰と重ねているのかわかったから、私たちは何となく口を噤んで掛ける言葉を探しあぐねた。

『でもナルト…。私たちはペットを飼ったりできないでしょう?』

不規則な生活に不安定な生き方。
ある程度出世すればする程それが強くなるように、ある程度の強さを持っている下忍という存在もまた、それが強くなるように思われた。
自分の生活にすら責任が持てない。
上を目指すことに必死で、後ろや周りを振り返る余裕なんか無いようでもあった。

ナルトにもそれは分かっていると思う。
でも、それでも子猫を連れてきてしまう程に、ナルトは愛情に敏感だった。

『俺ってば絶対見つけるから!』

ナルトは必死にそう言った。

『絶対見つけるから!コイツのこと大切にしてくれて、可愛がってくれる飼い主を探すから!』

だからあの家には返さないでくれ、とナルトは必死に頭を下げた。

『返せる状態でもないだろ』

カカシ先生は呆れ気味にそう笑った。
子猫も私たち同様泥だらけで、とてもじゃないけどあの家に返せる状態じゃない。
私たちすらノコノコ上がり込めるような姿じゃなかった。

『ただし、ちゃんと飼い主に報告だけはすること』

あの様子じゃ誰かに譲ることを躊躇したりしないだろ、と言って先生はナルトを軽く小突いた。

『今日の夕飯はナルトの奢りな』

『えー!?』

『あったりまえでしょ?』

『サクラちゃんの分は良いけど!』

『俺は大盛りで』

『サスケの分なんか知るかってばよ!!』

ぎゃあぎゃあと騒いで歩く中、私はナルトが子猫を本当に嬉しそうに見るのを見た。

『良かったな』

子猫にしか聞こえないくらい小さな声で呟いて、それから私たちに対してもぎこちなく礼を言った。

とてもとても不器用なナルト。
とてもとても優しいナルト。
本音を隠すのが苦手で、そのくせ大切なことを言うのも苦手なナルト。








「ナルトは昔から不器用ね」

そう笑うと、拗ねたように唇を少し尖らせる。

「忘れようよ、そういうことは」

「私の記憶力は里一よ?」

「じゃあ俺の気持ちだけ覚えてて」

昔からずっと大好きだよ、とナルトは笑って私の額にキスをした。
挨拶のような、戯れるような軽さでもって、泣きたくなるような気持ちを昔からくれる。

「覚えてようと思わなくても良いようにして」

「どういうこと?」

「ずっと側にいて好きだって言ってて」

そしたら、たまには私も素直に好きを返すから。
ね?と笑ってナルトの顔を見つめると、ナルトは真っ赤になってこくこくと何度も何度も頷いた。








君はとてもとても素直で不器用で優しい寂しがりだから。
でもそれ以上に、私はとてもとても不器用で君以上に寂しがりだから。

だからずっと側にいて。
好きだって笑ってて。





















(END)


















一周年ありがとうございます!
あえてナルサクにしてみました。
ラブです!
ラブなんです!!!
駆け引きよりも切なさよりも、今回はあえて初心にかえってラブだけを。
タイトルはトムソーヤーの原文より。
感謝の気持ちを込めて、日々皆様から頂いている愛を少しでもお返しできますように。

ぜひとも今後もよろしくお願い致します!

2004 Nov 紺野沙夜


紺野沙夜さんのサイトの一周年記念フリーSSを頂いて参りました。
ナルサク、ナルサクですよ!キャーー!!!!!
私、人様の書いたナルサクというのを滅多に読んだことがないので、大興奮です。
しかも、こんなの素敵なナルトで・・・・・。(涙)何だか余裕がある!
私もナルトを書くときは精進しようと思いました。

紺野沙夜さん、有難うございました!


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