ワタシの見た夢



 忍びの里も深夜になると人気がなくなる。
 そのような状況で忍者が普通に道を歩くわけもなく、歩いたところが道となった。
 他人の家の屋根や塀などおかまいなしである。
 深夜に任務を終えたカカシも例外なく自宅までのショートカットコースを軽やかに歩んでいた。

 サクラの家の近くを通りかかり、ふと目線をそちらに移してみるとサクラの部屋に灯りが見えた。
 カカシは屋根の上から夜空を仰いで大体の時刻をはじきだす。
 もうすぐ深夜2時になろうかというのに何をしてるんだ?と思ったと同時にカカシの足はサクラの部屋へと向っていた。


 窓から中を覗いてみるとサクラがベッドでうつぶせに眠っているのが見えた。
 ベッドの上には裁縫道具が散乱しており、作業中に寝入ってしまったのがわかる。
 危ないなぁと思った瞬間にカカシは住居不法侵入犯となっていた。
 はたけカカシ、26歳。期待通りに行動的な男である。



 窓の外からでは気付かなかったが、サクラは何やらうなされていた。
 サクラの手元にはカカシを模したと思われる人形が転がっており、裁縫箱には完成されたナルトやサスケの人形もあった。
 カカシはなんだかうれしくなったが、途端にあることに気付き眉間に皺が寄る。
 サクラがうなされている原因は自分じゃないのか?とカカシ人形を見て考えてしまったのだ。
 夢の中で、オレ、何してんだろ・・・・・・そう思えば思うほど気落ちしていく。
 少女が眠るベッドの横で一人喜怒哀楽を演じる男、はたけカカシ。これでも教師である。



 さすがにうなされて苦しむサクラをこのままにしておけない。
 カカシはテキパキと裁縫道具を片付けて床に置き、サクラを仰向けに寝かして布団をかけてやる。
 依然として苦しそうなサクラの手をカカシはそっと握り、やさしく頭を撫でる。
 しばらくするとサクラは穏やかな寝息をたてはじめた。
 安心しきったかのような寝顔にカカシの顔もほころぶ。

 そうしてほのぼのとサクラの寝顔を眺めていたら小一時間経っていた。
 そろそろおいとましないと朝になってしまうなとカカシは自分のうっかりさ加減に苦笑した。

 カカシはお別れの挨拶代わりにサクラの手の甲にキスをする。
 そして、しばしサクラの手の甲を見つめていたかと思うとおもむろに再度口付けた。
 今度は強く、強く、吸う。
 食べてしまいそうな勢いで・・・。
「んっ・・・」とサクラが漏らした一声でカカシはハッとしてその行為をやめる。
 サクラが起きてないことを確認して胸を撫で下ろし、もう一度サクラの手の甲を眺めた。
『やはり、つかないか・・・』
 なんとなくサクラに自分の印を残してみたくなったのだが、簡単に痕が残るような箇所ではないことを思い知るだけだった。
 カカシは最後に名残惜しそうにサクラの頭を一撫でし、部屋をあとにする。
 木ノ葉のエリート上忍はたけカカシ。立派に変質者であった。







 朝を通り越し、木ノ葉の里は昼になっていた。
 カカシはいつも通りにたっぷり遅刻をしてきて下忍達を大いに憤慨させ、いつもと変わらない七班の日常が始まるかと思われた。

 だが、今日のサクラはなんだかおかしい。
 カカシに対してだけ妙によそよそしく、其の癖カカシと目をあわせないように気をつけながらもカカシのことをジッと見てばかり。
 そんなサクラの挙動不審振りにナルトとサスケが気が付かないはずもなく、気にする二人の作業能率は低下していくばかりだ。
 勿論、元凶のサクラの作業能率も悪く、このままでは無駄に時間を費やすばかりで今日中に草むしりが終らない可能性がでてきた。
 ここは監督者であるはたけカカシの腕の見せ所である。


 何度目になるだろうか、サクラは草むしりをしながらカカシのことをこっそりと覗き見た。
 相変わらずカカシは木陰でイチャパラを読書中でサクラはなんだかホッとする。
 が、しかし、カカシは忽然と消えてしまった。
 サクラが驚きに目を見開いたところにカカシが眼前に突然現れ、さらにサクラの目は大きく見開かれる。
「サークラ、オレに何か言いたいことがあるんだったら遠慮なくどうぞ〜」
 至近距離でカカシにニッコリとそう言われたサクラは言葉がでず固まったままだ。
 七班全員の動きが止まったまま数秒・・・あたかも時が止まったかのようだった。
 どこが監督者の腕の見せ所なのだろうか。

「うーん、もしかしてオレに惚れちゃったかなぁ〜?」
 尋ねるカカシは満面の笑みを浮かべていた。
 それにナルトとサスケが反応しないはずがなく、サクラは3人に取り囲まれる形になった。
 王子様達はお姫様を悪者から守らなければならないのである。

「サクラちゃん!カカシ先生が言ってることは違うよね?ね?!」
 誰よりもサクラのことが好きだと自負しているナルトは必死だ。
 言葉には出さないがサスケもかなり気にしている。
「えっと、あの・・・そういうんじゃなくて・・・その・・・」
 言い淀むサクラは上目遣いにカカシを見る。
 それがたまらなくかわいいなぁと思うカカシの顔はゆるむばかりだが、顔の大半が隠れているせいで3人にはそれがわかりづらい。

「なに?怒ったりしないから言ってごらん」
 3人に見つめられてどうしようもなくなり、サクラは恐る恐る気にしていたことを口にした。
「あのね・・・先生・・・・・・私にプロポーズした?」
 誰しもが想像しなかった言葉、そのサクラのあまりの爆弾発言にナルトもサスケも言葉を失い、カカシですら目を見開いて驚く。

「カカシ先生!ズルイッ!!なに抜け駆けしてんだってばよっ!!」
 速攻で行動に出るナルトは言葉と同時にカカシに蹴りを入れるがそこは上忍、軽く受け止める。
「してない、してない。まだプロポーズしてないって、落ち着けナルト!」

 格闘中の二人をよそにサスケは溜め息を一つもらしつつ冷静にサクラに問いかける。
「夢でも見たんじゃないのか?おまえまでナルトと同レベルだとは思わなかった」
「・・・・・・私もそう思うんだけど、ベッドの上に置いてあった裁縫道具もきれいに片付けてあったし、電気も消えてたし、それに、これ見て」
 サクラが差し出した左手の甲の部分には薄らと青い痣がついていた。
「夢の中でカカシ先生が、その・・・・・・キスしたのよ。その時に同じように痣がついてたから・・・」
 どこか恥ずかし気に話すサクラにサスケは少し苛つく。
 なぜ苛つくのかわからないが苛つく自分自身にサスケはさらに苛つく。
 そんなサスケが次の言葉を発しようとした瞬間に後方から「へぇ〜」と呑気な声が聞こえてくる。
 サスケとサクラが声のした方を振り向くと、満足げに頷くカカシとロープで縛り倒されて猿ぐつわを噛まされたナルトがいた。
 誰がどうみても満足げなカカシは何かを知っていそうだ。

「せっ、せんせっ!やっぱりプロポーズしたの?!」
「いや、だから、まだしてないって言ったでしょ」
「でもでもっ、何か知ってるんでしょ?敵の忍者に襲われたのをカカシ先生が助けてくれたんでしょ?」
 初めて出てきた話にカカシもサスケもサクラを凝視する。
「敵って何?サクラはどういう夢をみたの?」
「えっとね、敵の忍者に襲われてたところをカカシ先生が助けてくれて、それでなぜか先生がプロポーズしたの」
「あー、なるほどね。敵も出てきたし、痣もあるからもしかして記憶を消されたとか思ったりしたわけ?」
「うん」
「記憶なんて消してないからダーイジョーブ。サクラ、木ノ葉の里でどうして敵に襲われるの?」
 言われてみればそうである。
 取るに足らないくノ一である自分がターゲットになるなど有り得ない。
「そ、そうよね。有り得ないわよね。・・・・・・ごめんなさい」
 照れくさそうに笑うサクラの頭をカカシはうれしそうに撫で撫でしている。
 夢でサクラを助けたのがサスケじゃなく自分だったことがカカシには幸せこのうえないことだった。
 里外でも名が通る凄腕忍者はたけカカシ、26歳。12歳の少女に夢中である。

 眼前でうれしそうにサクラにベタベタするカカシを見て、サスケはまた苛立ちを覚える。
「サスケくんも、ごめんね。迷惑かけちゃって」
「い、いや別にいい」
 苛立つものの、サスケは短くそう答えるのが精一杯で、自分がなぜこうもイライラするのか今はまだわからなかった。



「さー、おまえたち、任務!任務!」
「は〜い」
「・・・・・・」
「ふー!ふーふがふがっっっ!!」
 妙な声に3人が振り返るとそこには縛られたままのナルトが転がっていた。
「いや〜、ごめんごめん。忘れてたよ」
 カカシは鮮やかにサササッとナルトを自由にしてやる。
「ひどいよ、カカシ先生!」
「だから、ごめんって言っただろー。あとで一楽のラーメン奢ってやるから、ほら、任務任務」
「ホントに?ヤッター!任務っ、任務っ!!」
 ナルトはダッシュで持ち場に走っていった。
 その後ろ姿を眺めながらナルトが単純で良かったと心の内で同じことを3人は思うのだった。
「おまえたちも奢ってやるからなー」
「わ〜い。サスケくん行こっ」
「・・・・・・」





 ようやくいつもの七班の日常が始まる。
 ただ、サスケだけはカカシが口にした「まだしてない」の『まだ』の部分にひっかかりを覚えたままだった。






副題:悪魔の口付け(笑)

元ネタ。
たまたま聴いてたラジオで婚約したての女性パーソナリティーが現実にプロポーズされる前に夢でプロポーズされてしまってそれが夢かどうかわからなくて彼に「プロポーズしたっけ?」と聞いたら「まだしてないよ」と返ってきたと言ってたんですよ。
マジか?!と思わずにはいられなかったんですが、これは是非ともサクラに言わせてみたい!!と猛烈に思って書いた話です。
最初は「プロポーズしたっけ?」ってとこしかない短さだったんですがカカシに頑張ってもらったら最初に考えてた話と全然違う方向にいってしまって・・・カカシはいつも困ったちゃんだよ。

ちなみに、カカシが口じゃなくて手に口付けたのはお姫さまを起こさないためです。
意外にロマンチスト。

あのさ、自信ないねんけど手の甲ってキスマークつかないよね?
つけようと思えばつくかもしんないけど難しいよね?
自分でもチャレンジしてみたんやけどやっぱりつかなくってさ・・・みなさんはどう?(笑)
ちなみに、強打すると青痣が出来るのは経験済み。

2004.6.9.


そのかさん生誕祭りの記念SSを頂いて参りました。
カカシ先生、不法侵入ーーーーーー!!!サクラの寝顔を見つめる怪しい人ーーー!!
何もかも、たまらんです!(笑)鼻息荒いです。
そして7班の皆に愛されてるサクラに幸せ、幸せです。
そのかさんのSSはどれもサクラファンに幸せを運んでくれます。何度も読み返してしまいます。

そのかさん、有難うございました。


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