あかるいみらい 3


青年の住む家には、小さな庭がある。
温室もあったが、それは仕事で長いこと放っておかれていたらしい。
雑草は生え、荒れ放題になっている。

 

「今日は、お仕事いいんですか」
彼に誘われたサクラは、朝から温室で草取りに専念していた。
傍らには、サクラと同じように土だらけになっている青年がいる。
「別に朝雪が降って寒そうだったから、サボったわけじゃないよ」
茶化すようにして言う彼の横顔からは、何の感情も読み取れない。
その言葉が、嘘か本当かも分からなかった。

「・・・でも、昨日まであんなに忙しそうに」
「あ、てんとう虫」
彼はさりげなくサクラの声を遮り、視線を泳がせる。
彼の言ったとおり、いつの間に入り込んだのか、小さなてんとう虫が草の間を飛んでいた。
そして、てんとう虫は最終的にサクラの肩の上へと止まる。

 

「キャアァーー!!」
唐突に悲鳴をあげたサクラに、彼は目を丸くした。
「む、虫!取って取って!!」
「虫って・・・・・」
騒々しいサクラを彼は不思議そうに見つめる。

「てんとう虫だよ。こんなのが怖いの」
「虫は全般的に嫌いなの!!名前に『虫』ってあるだけで駄目!」
「・・・可愛いのに」
彼はサクラの肩から取ったてんとう虫を自分の掌に乗せる。
恐る恐るてんとう虫を眺めるサクラに、彼はくすりと笑った。

「知ってる?てんとう虫ってね、異国だと『レディーバード』って呼ばれているんだよ」
てんとう虫を草へと置くと、彼は笑顔のまま振り返る。
「呼び方が変わると、印象も違って見えないかな」

 

 

「お頭!!」
温室から出てすぐに、鬼のような形相をした上忍と出くわした。
午前中の責務をエスケープした彼をずっと捜していたらしい。
彼はエヘヘッと笑うと、頬をかきながら言った。
「見つかっちゃったかー。ごめんね」

彼の笑顔を横目で見ながら、サクラはつくづく得な人だと思う。
こんな風に笑われたら、誰だって厳しくしかりつけることなど出来ない。
眼前の上忍も、困ったように彼を見つめている。
「すぐ支度するよ」

言葉の通り、部屋に戻った彼は3分ほどで身支度を整えた。
そして家を出る間際に、彼は見送りに現れたサクラに何かを手渡す。

「これ、あげる」
それは何枚かの小判。
大金というほどでもないが、子供の小遣いとしては多い方だ。
驚いたサクラに、彼はこぼれるような笑みを向ける。
「怪我も治ったし、家の中にばかりいたらつまらないだろ。好きなもの買って良いよ」

 

 

 

変なところに来ちゃったな。

里のメインストリートを歩きながら、サクラつくづく思う。
夢のような世界。
でも、現実の世界。

朝、目が覚めると、サクラはこの奇妙な現象は夢だったのではないかと思う。
キッチンに行けば、いつものように母が朝食を用意して待っている。
だけれど、期待はいつも裏切られた。
母の代わりにそこにいるのは、笑顔の優しい青年だ。

いつからか、サクラは逆に、不安になった。
この夢が覚めたら、どうしようかと。

何故だろう。

 

 

考えながら歩いていたサクラは、足にぶつかった温かいものに驚いて飛び上がった。
「な、何!?」
慌てて目をやると、ニャーと鳴く仔猫がいる。
その仔猫が、サクラの足に飛びついてきたのだ。

「びっくりしたー」
座り込んだサクラは、その仔猫の頭に手をやってなでる。
仔猫は嬉しそうに目を細めていた。
「懐っこい猫ね」
サクラも顔を綻ばせてその猫をなで擦っていたが、首元の名札を見るなり手が止まる。

『スズ』と書かれた名札。
赤毛で緑の瞳の仔猫は、最初に出会ったとき青年が言っていた特長と一緒だ。
まさしく、同じ猫。

 

 

「お前が、スズなの?」

サクラが訊ねると、仔猫はサクラをじっと見つめた。
何か、言いたげな瞳で。

何となく落ち着かない気持ちになったサクラの心情を読み取ったように、仔猫は再びニャーと鳴く。
その目線はサクラではなく、その頭上にある。
釣られたように、サクラは顔を上げた。
そこには、サクラがいた木ノ葉隠れの里同様、歴代火影の顔が刻まれた火影岩がある。

だけれど、違う。
顔は三つ。
作りかけのものは、いずれ四代目の顔になる。

 

その瞬間、サクラの頭がめまぐるしく働き始めた。

 

どこかで見た覚えのあった、青年の顔。
戻ってきた、赤毛の猫。
視界の隅には、朝方振った雪の名残。

サクラの足元で、赤毛の仔猫が甲高く鳴いた。


昔読んだいろんな少女漫画が混ざっている様子。タイトル、思い出せない・・・・。
天道虫は季節が違うだろう、というご意見はご法度です!


駄文に戻る