さくらのゆめ


「先生」

一人佇む先生に、声をかけた。
金の色の髪が、太陽の光そのもののように見える。
だとしたら、瞳はそらの青だろうか。

「何、見てるの」
先生が見えていた方角に目を向けながら、訊ねる。
そこには、植えられたばかりの背の低い桜の木が何本かあるだけ。
花が咲くには、時期尚早。

 

「あれ、見える?」
先生は、ふと俺の方を見て言った。
先生が訊ねているのは、あの桜の木のことだろうかと思ったけれど、この距離であれが見えるのは当然だ。
「何のこと」
怪訝な顔で訊くと、先生は柔らかく微笑した。

「あそこにね、ときどき女の子が見えるんだ。陽炎みたいにすぐ消えちゃうから、この世の人じゃないと思うんだけど」
「・・・それって、幽霊じゃないの」
「かもねぇ」
青ざめた俺とは対照的に、先生はのんびりとした口調だ。
「何だか気になっちゃって」

もとより、優秀な忍びである先生はあまり感情を表には出さない。
でも、このときの先生は少し寂しそうに見えた。

 

「話とか、できないかなぁと思って見てるんだけど・・・」

 

 

 

十数年も経つと、その桜の木は見事な花を付けるようになった。
戦火を逃れたこの桜のもとには、春になると大勢の花見客がやってくる。

 

「サクラ、どうかしたか?」
「・・・ん」
たまの休みに、7班の下忍を引き連れて桜を見に来たのに、サクラの様子が変だ。
一つの桜の木を、ずっと凝視している。

「先生、あれ見える?」
サクラが指差したのは、先生が死ぬ前の年に植えられた桜。
「・・・何が」
「あそこにね、金髪の男の人が見えるんだ。でも、他の人は気付いていないみたい」
憂い顔で呟くサクラは、昔見た先生の横顔を思い出させた。

 

「話とか、できないかなぁと思って見てるんだけど・・・」


あとがき??
元ネタは、岡崎武士の漫画だろうか。(タイトル忘れた)
まぁ、桜が見せた夢ということで。
時をこえた恋ってのは、自分が生まれたときには相手はもう死んでいるんだから、かなしいですね。


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