盂蘭盆 1


夏の暑い盛り。
めかし込んで外に出たサクラだが、今日会うのは女友達だ。
サクラは常日頃、自分の男運のなさを嘆いていた。
好みの男子には相手にされず、変わりに一風変わった相手から好かれる。
熱血漢のリーに、お馬鹿なナルト。
どちらも人柄は悪くないが、サクラの恋愛対象ではない。

 

「どこかに、格好良い男の人が落ちてないかしらねぇ・・・」

呟いた瞬間、サクラは足下の障害物を蹴飛ばし、あやうく転倒しそうになった。
振り返り、自分の進路を妨害したものを見定めようとしたサクラは、目と口を大きく開ける。
いい男だ。
金髪碧眼の、サクラ好みの男性が電柱の影に座り込んでいる。
おそらく、道に突き出した彼の足に、サクラは蹴躓いたのだろう。
「あの、大丈夫ですか」
熱射病で倒れたのかと心配したサクラは、彼に駆け寄った。

思えば、このときサクラは彼を無視して通り過ぎるべきだった。
屈んで彼と目線を合わせてから、サクラはようやく気付く。
彼がこの世の人ではないということに。

 

 

「ねぇねぇ、君、僕のこと見えてるんでしょ」
「あー、聞こえない、聞こえない」
自分に話しかける彼の声を、指で耳に栓をしたサクラは必死にかき消そうとする。

サクラの後ろを付いて歩く彼の頭上には、金の輪っかがあった。
それは、死者の証であることをサクラは長年の経験から知っていた。
ごくたまに、サクラはこうした霊体を見てしまうことがある。
だが、これほどしつこく付きまとわれたのは初めてだ。
いくらいい男でも、幽霊にはサクラはまるで興味がない。

「付いてきても無駄よ。私、除霊とかお経を読むとか、そういうの出来ないから」
「別に、そんなこと頼みたいわけじゃないよ」
「じゃあ、何なのよ!」
振り返ったサクラは、ヒステリックな声をあげた。
サクラの目には通常の人間と変わらない姿で映っているとはいえ、彼は霊体。
道行く人々には幽霊に気付かず、叫んだサクラを奇異な目で見ている。

「・・・・あなたのせいよ」
「そうかなぁ」
真っ赤な顔で歩きだしたサクラに、幽霊は首を傾げて呟いた。

 

 

 

「・・・どうしたの、急に」
「迷惑!!?」
包丁を片手に持ち、どすのきいた声で訊ねるサクラに、ナルトは慌てて首を振る。
「そ、そんなことないけどさ。サクラちゃんがうちに料理作りに来るなんて、初めてだし・・・」
ナルトは落ち着かない様子で視線を泳がせる。
そんなナルトの隣には幽霊の彼がいるのだが、もちろんナルトには見えていない。

彼がサクラにした頼み事は、ナルトの家で料理を作ることだった。
さもなくば、取り憑くと脅されては、サクラには逆らうことはできない。
期限は、彼が現世に滞在できる盂蘭盆の三日間。
そういうわけで、今サクラは友人とのショッピングの予定をキャンセルして、ナルトの家のキッチンに立っている。

 

「あなた、ナルトのお父さんなの?」
ふいに顔を上げたサクラは、傍らにいる彼を見て訊ねる。
「何で」
「顔とか、仕草が似てるから」
まじまじと自分を見詰めてくるサクラに、彼は相好を崩す。
その笑い方が、またナルトとそっくりだった。

電子レンジが解凍終了の音を鳴らすと同時に、リビングにいたナルトがキッチンに入ってくる。

「今、誰かと喋ってなかった?」
「知らないわよ」
きょろきょろと付近を見回すナルトに、サクラはそっけなく言う。
首をかしげるナルトを見つめる幽霊の目は、やはり父親同様の愛情を持っているように見えた。


あとがき??
これ、続きどうなるんでしょうね・・・・。
今から考えます。
ちなみに、冒頭は「うる星やつら」のしのぶと因幡くんの出会いが元ネタだろうか。
ナルトの家の間取りは忘れてください。


駄文に戻る