エンジェル・ブルー T


天使の仕事は人間達の恋を成就させ、幸福にすること。

天使は100年の間に100人の人間を幸福に出来れば一人前と認められ、上級天使となる。
上級天使の寿命は永遠。
神に等しい能力を与えられ、天上におけるありとあらゆる特権が認められる。
そして、期限内に100人の人間を幸福に出来なかった天使は・・・。

 

「不適切な存在として消されちまうんだってよ。そして、新たな天使が創られるらしい。知ってたか、カカシ?」
「・・・ふーん」
「ふーん、って随分余裕だな。お前はタイムリミットぎりぎりだろ」
「そうだよ」
仲間の天使、アスマの言葉にカカシはあっさりと返事をする。
今のところ、カカシは99人の人間の想いを叶えている。
彼が余裕に見えるとしたら、そのせいだ。
そして、残る一人の目星もすでについている。

「この子が俺の100人目だよ」
水晶球を通して地上の様子を垣間見ていたカカシは、ある一人の人間を指差す。
薄紅色の髪の少女は、雲の上から自分を観ている者がいるとは知らずに教室で授業をうけていた。
アスマはカカシの最後のターゲットをしげしげと眺めている。

「・・・お前の選ぶ人間って、みんな女だよな」
「だって、ぶさいくな男より、可愛い女の子の願いを叶える方が楽しいじゃないか」
笑いながら言うカカシに、アスマは呆れ顔だ。
「それと、100人目は特別だから、一番綺麗な子を選んだんだ」
「・・・・何が?」
少女を凝視したアスマは、思わずといった風に訊く。
少女の顔は確かに整っているが、巷で人気のアイドルに比べれば十人並みだ。
怪訝な顔のアスマに、カカシは苦笑して答えた。
「声が」

 

 

カカシが地上に戻ると、サクラは校舎の屋上で昼食の弁当を食べているところだった。

頭上を見上げたサクラは、カカシの存在にすぐに気付く。
青い空にカカシの着ている白衣はよく目立っていた。
「カカシ先生!」
ふわりと地に足をつけたカカシに、サクラは急いで駆け寄る。
「飛んでるところを誰かに見られたらどうするのよ!」
「大丈夫だよ。上で確認したから」
カカシはサクラの頭にポンと手を置く。

今、屋上にいる生徒はサクラ一人きりだ。
思えば、二人が出会ったのもこの場所だった。
カカシが空からやってくるのを目撃しなければ、彼が自分は天使なのだと主張してもサクラは信じなかっただろう。

 

「どこに行ってたの。保健室にいないし、何かあったのかと思って心配してたんだから」
「ちょっと野暮用でね」
「もー!」
ふくれ面をしたサクラに、カカシは微笑を浮かべる。
「何かいいことあった?」
「分かる!?」
サクラは上気した顔でカカシを見上げる。
「サッカー部に入部できたのよ。マネージャーにたまたま空きがあったの」
「へぇ」
カカシは感心したようにサクラを見遣る。
「サクラの夢に向かって一歩前進だね」
サクラはにこにこと笑って頷いた。

現在、サクラの通う学園の保険医というのが、カカシの世を忍ぶ仮の姿だ。
カカシの目下の任務はサクラの恋を実らせること。
しかし、サクラの意中の相手、サスケはサッカー部のエースストライカーで、女子達の憧れの的だ。
天使の力でも、人の心を強引に動かすことは出来ず、いろいろとアドバイスをする程度。
だが、天使のそばにいる人間は自然と幸運に恵まれ、好意を持つ相手とも上手くカップルになるシステムになっている。
そして、今回のマネージャーの件。
どうやら、サクラの恋を成就させるための歯車は動き出したようだ。

 

「じゃあ、次は友達を作らないとな」
「・・・・」
カカシが話題を変えると、サクラは急に口をつぐんだ。
サクラは新学期からこの学園に来た転入生だ。
サクラが前の学園で全国トップの成績を取ったことはすでに知れ渡っており、クラスメートに近寄りがたい存在と思われている。
屋上で一人弁当を食べていたのも、そのせいだ。

「そんな暗い顔しないでよ。いいものあげるから」
カカシは一冊の本を差し出す。
「花図鑑?」
「それを読んでから、一番後ろの席に座ってる金の髪の女の子に話しかけてごらん。きっと話が弾むから」
「うん・・・」
半信半疑ながら、サクラはその本を受け取る。

カカシは知っていた。
学級委員の女子が、一人でいるサクラを気にしていつも遠くから見ていることを。
実家が花屋の彼女に、花の話題は丁度良い。
話してみれば、サクラの良さはすぐに分かるはずだ。

 

ほどなく、授業の開始5分前を告げるチャイムが鳴り響く。

「頑張れよ」
カカシに肩を叩かれ、サクラは微かに頬を緩めて頷いた。


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