恋はみずいろ
「さすが木ノ葉の里は違うわね」
市場の豊富な食材に目を奪われ、テマリは感嘆の声をもらす。
領地の殆どが砂地である砂の国では、一度にこれほどの作物を目にすることは少ない。
中でも、市場はその国の人々の生活がそのまま反映される。
テマリは毎日のように街に繰り出していた。今日は、無理に引っ張ってきた弟の我愛羅も一緒だ。
「ほら、中忍試験が始まったらもうこんなことしてる時間ないんだから、あなたもちゃんと観ておきなさいよ」
「・・・別に、俺はこの国に物見遊山に来たわけじゃない」
我愛羅は関心がなさそうにそっぽを向いている。
テマリは溜息をつくと視線を街路の店へと戻した。
露店のアクセサリーに目を引かれていると、テマリは我愛羅の姿が消えていることに気付く。
「我愛羅?」
呼びかけながら数歩行くと、物売りの籠の影に身を潜める我愛羅を見つけた。
「・・・何やってるのよ」
「シッ」
振り向いた我愛羅は険しい顔でテマリを制する。
どうやら、静かにしていろということらしい。
何事かとテマリは我愛羅と同じく蹲り、籠の隙間から彼の視線の先をたどる。そこにいたのは、ピンクの髪の少女だ。
確か、この里に来てすぐにもめた木ノ葉の忍びの一人。
彼女は一人ではなかった。
白い髪の男、おそらく同じ木ノ葉の忍びと手を繋いで歩いている。
会話の合間にこぼれる笑顔が、二人の親密さを表しているように思える。二人が完全に通り過ぎるまで食い入るように見詰めていた我愛羅の姿に、テマリはぴんときた。
「我愛羅、あの子のこと好きなのね!」
喜々とした声で訊ねるテマリに、我愛羅は困惑気味に振り返る。
肯定の意味の沈黙。
「姉さんに任せておきなさい!!」
テマリは満面の笑みで胸を叩く。少女というのは得てして恋話が好きだ。
テマリも十分その範疇にいた。
「どうだった!?」
「・・・あんまり嬉しそうじゃなかった」
消沈した様子の我愛羅に、テマリは眉をひそめる。
「おかしいわね」
テマリは腕組みをして考え込んだ。
テマリがまず花をプレゼントして彼女を喜ばせようと画策した。
花束を貰って嬉しくない女子など稀なはずだ。
だが、彼女は喜んでいなかったと我愛羅は言う。「あなた、どんな花をあげたの」
「どくだみ」
その返答に、テマリは暫しの間呆気に取られた。
「白くて綺麗な花だ。薬にもなる」
「・・・そうだけど」
我愛羅の意見はもっともだが、道端に普通に咲いているし、人に束でもらってもあまり嬉しいとは思わない花なことは確かだ。
弟がこれほどまでに世情に疎いとは思わなかった。
表情を曇らせたテマリに、我愛羅も不安げな顔をする。
「駄目か」
「えーと、次の手を考えましょ。大丈夫、大丈夫よ」宿の一室で話し込む二人に、カンクロウが顔を覗かせた。
「おい、お前らこの前から何をこそこそとやっているんだ」
「ちょっと黙っててよ!」
テマリに一喝され、カンクロウは口をつぐむ。
「今度は失敗しないように、彼女本人に欲しいものを聞いてくるのよ」
カンクロウを無視し、テマリは我愛羅に熱心にアドバイスをする。
すでに我愛羅本人よりもこの恋の行く末に夢中になっているテマリだった。
「これ、六家亭チョコレートケーキ!!?私にくれるの?」
サクラは我愛羅の差し出した包みに、目を丸くした。
“六家亭チョコレートケーキ”は木ノ葉でも有名な洋菓子店の限定商品で、毎日売り出して5分で完売という品物だ。
前日の夜から店の前で並んでようやく手に入るという幻の菓子。
それがサクラが欲しいものを訊かれ、我愛羅に答えたものだった。「有難う!」
サクラの笑顔に、我愛羅はほっと息をつく。
純粋にサクラの笑顔が見れて嬉しいのと、テマリにどやされずにすむという気持ち。
だがその安堵も、サクラの一言ですぐに打ち消されることになる。
「嬉しい。カカシ先生が食べたいっていつも言ってたのよ」
テマリに何て言おう。
にこにこと感謝の言葉を述べるサクラを前に我愛羅は黙り込む。
もはやサクラのハートをゲットするということよりも、姉の暴走振りの方が怖くなっている我愛羅だった。
あとがき??
「カカサク←我、我サク←カカでもOK」とのことで、前者を取らせて頂きました。
あと、明るい感じの話、というリクエストで頑張ってみたんですけど・・・・。
皆、別人ですみません。(特にテマリ)我愛羅くん、ちょっと可哀相ですがサクラちゃんに悪気はありません。
彼女にとって「好きな人の欲しいもの=自分の欲しいもの」なんです。(汗)
サクラのためにケーキ屋に徹夜で並ぶ我愛羅くんがこの話のポイントなんですが・・・。
我愛羅くんの恋の行く末はブルーなんですが、テマリのおかげでみずいろ止まり、という感じのタイトル。34000HIT、宵涼様、有難うございました。
そして、長らくお待たせして本当に申し訳ございませんでした。(>×<)