ナンバー2


「私、ナルトになりたいな・・・」
サクラは机に頬を付けながらぽつりと漏らす。
「何よ、それ」
カカシは用意したティーカップを置くと、サクラの向かいの椅子に腰掛けた。
常日頃、サクラがナルトを邪険にしていることを知っているカカシには、心底意外な発言だ。
およそ、ナルトはサクラが羨むような身の上ではない。

「だってさ、イルカ先生ってば私と話してるときもナルトの話題ばかりだし、ナルトが熱を出したっていえば一晩中泊まり込みで看病に行くし、夕方は私を差し置いてナルトとラーメン食べに行っちゃうし、いっつもナルト、ナルト。私、どうやってもナルトには敵わないんだもん」
サクラは滲んできた涙に瞬きを繰り返す。
紅茶の良い香りが鼻腔をくすぐったが、サクラが体を起こす気配はない。

「私もさ、ナルトみたいに親がいなかったら、もっとイルカ先生に気に掛けてもらえたのかなぁって思って」
「それは、無理だろうな」
カカシはサクラの言い分を言下に否定する。
「サクラはサクラだし、ナルトはナルトだ」

カカシは突っ伏したままのサクラの頭に手を置いた。
「あいつは、ああ見えて結構苦労人なんだよ。サクラは恵まれた境遇にいるのに、そう悲観しちゃ駄目だ」
「・・・うん」
サクラも、ナルトのことは重々承知している。
それでも羨ましいと感じてしまうのは、恋心ゆえだ。

「でも、私はイルカ先生の一番になりたいのよ」

 

サクラの切ない呟きは、カカシの胸にも十分響いた。
可愛い生徒の願い。
叶えてあげたいが、こればかりはカカシにはどうにもできない。

「サクラ、カカシ先生の一番にならなれるけど、どう?」
「ごめんなさい」
サクラは少しも考えずに答える。
いつもの、カカシの冗談だと思っているのだ。
少なからず本気だったカカシは、肩をすくめて苦笑した。

「正直に答えたから、いいこと教えてあげる」
カカシの思わせぶりな言葉に、サクラはようやく顔をあげてカカシを見る。
微かに微笑を湛えたカカシの顔。
左の写輪眼が、きらりと光ったような気がした。

「チケットは人から貰ったんじゃなくて、自分で買ったんだよ。サクラが好きなモーツァルト」
「・・・・何の話?」
「すぐに分かるよ」
怪訝な顔のサクラに、カカシは悪戯な笑みを返した。

 

 

長々と語っていたせいで、サクラがカカシの家を出るとすでに日は暮れ始めていた。
日中との寒暖の差に、サクラは身を縮ませて上着のボタンをとめる。
そして、往来を歩き出してすぐにサクラを呼び止める者がいた。

「サクラ」
耳になじんだ声に、サクラは驚いて振り返る。
「イルカ先生。何でここに・・・」
「何でって、うち、すぐそこだし」
買い物袋を持ったイルカは何軒か先の建物を指差した。
偶然なことに、イルカの住まいはカカシの家と目と鼻の先だった。

「お前は、何してたんだ。こんなところで」
イルカはきょろきょろと付近を見回す。
住宅街だが、サクラの家はこの場所からは数キロ離れた場所にある。
「ちょっと、知り合いの家に」
「ふーん」
平然と答えるサクラに、イルカが不審に思った様子はない。
普段、カカシに愚痴を聞いてもらっていることは、何となくイルカに知られたくないことだ。

 

「あ、そうだ。サクラに渡したいものがあったんだ」
イルカは両手に持っていた買い物袋を下に置き、懐から二枚の紙切れを取り出す。
そのうちの一枚をサクラに手渡すと、イルカは少し屈んでサクラと目線を合わせた。
「これ貰い物なんだけど、一緒に行くか?」
見ると、それはクラシックのコンサートチケットだ。

「ナルトは?」
「ナルトはクラシック音楽なんて聴いたら寝ちゃうだろ」
サクラの問いに、イルカは苦笑する。
最もな話だ。
詳細を読むと、モーツァルトの曲を中心に演奏するらしかった。

 

 

『チケットは人から貰ったんじゃなくて、自分で買ったんだよ。サクラが好きなモーツァルト』

 

 

「これ、誰に貰ったの」
「え、そ、それは・・・・」
「イズモさんかコテツさん?」
言い淀むイルカに、サクラは適当な中忍の名前をあげる。
「あ、ああ、そう。イズモにもらったんだよ」

イルカはハハッと笑いながら頭に手を遣った。
どうしてか、イルカの笑い声はぎこちない。
上目遣いでその様子を眺めていたサクラは、ふいに表情を和らげる。
「何時に待ち合わせる?」

イルカの腕に手を掛けると、サクラはギュウッとその手に力をこめた。
「二番目でもいいや。女の子で一番なら」
「何の話だ?」
不思議そうなイルカに、サクラは黙って微笑する。

 

夕方の空に、一番星が輝き始めていた。


あとがき??
『龍は眠る』の一場面を抜粋。(笑)『はじめちゃんが一番』とかも思い出したり。
サイキッカー、カカシ!
サイクッキーって、もう売ってないのかな。
私、イルナル好きです。カップリングじゃなくて、親子で。

何か、もうカカサク書く気力ないわー、ってときに書いた駄文。
イルカ先生は凄く奥手なイメージなんですけど。
前置きいらないから、普通にデートに誘ってくれ、という感じです。(笑)
ファンブックにイルカに恋する乙女の生徒がいたので、イルカ先生には生徒と結婚して欲しいなぁと思ったり。
どっちにしろ、早く身を固めて良いパパになって欲しいです。ナルチョが寂しがりそうだけど。
漫画やドラマでも良い家庭人なキャラが好きだし。


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